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 王座の間へと到着した。

 あの後、壁を何枚か破壊することとなった。その度にローラントがこめかみを抑える仕草をしていたが、常時無視を決め込んでいた。

 しかし、到着したはいいものの、肝心の陛下達の姿が見えない。ローラント曰く、陛下と近衛騎士団の特に秀でた者達はここに篭って反逆者達と対峙していたらしい。

 確かに付近には戦闘によって、抉れた床、壁などがあり死体も転がっている。血みどろの戦いがあったのは事実だろう。しかし、そんな激しい戦闘があったにしては死体の数が少ない気がする。なにより、肝心の陛下がどうなったのかも分からない状態。


「……既に退避した後か、それとも」


 ローラントは独り言のようにそう呟く。

 彼の思う通り退避できているのだったら、それは良いことだ。

 しかし、そうではなく未だ交戦中だったとしたら……。

 体温が幾ばくか下がったような寒気を背筋に感じる。

 国王陛下が討たれれば、この国は乱れる。

 仮に現王太子殿下であるレノア様が即位されたとしたらそれはもう最悪である。あの人はただの我儘な子供。国を治めるなんて到底できるはずがない。そうなると、国政に口を出す他の有力者の傀儡王のようになるのが目に見えて分かる。


「不味いわね」


 そんなことは絶対にダメ! なにより私はあの王子に嫌われている。アレが近況的に権力を持つのは阻止しなくてはいけない。

 私は微動だにしないローラントに声を掛けた。


「ローラント、早く陛下を探すわよ。戦闘の跡がまだ新しい……遠くには行っていないはず」

「そ、そうですね。早く助けにいかなくては! ……ですが、どうやって見つけますか?」

「探知系の魔法を使うわ。人の動きに反応して、その振動を捉えて、位置を特定する。闇属性でそういう魔法があるの」


 説明するとローラントは大仰に驚く。


「そんな魔法があるんですね……知りませんでした」

「私の護衛がよく使うのよ。敵の接近だって察知できるし、相当便利よ」


 この完璧魔法の欠点はない。強いて言うなら、闇属性の魔法に適性がない人にはこれが使えないというところ。

 だから、相対的にこの魔法を使える人は少ないのよね。

 というか、闇属性に適正振れてる人自体少ないのだから、仕方ないのだけど。


「今から魔法を使うわ」


 取り敢えず魔法の使用を宣言してみた。

 ローラントにそれを教えること以外に意味はない。私の様子を息を呑んだ見守るローラントはこちらを物凄い凝視している。……あんまりジロジロ見ないでほしいわ。


 すぐに闇属性の探知魔法『魔女の楔』を使用する。目を瞑り、静かに耳を済ませて全神経を集中させると王宮中の光景が頭の中で広がっていく。

 建物の構造、壁の厚さ、人の動きまで事細かに察知することが出来ている。

 効果範囲はひとまず、半径一キロ程あればいいだろう。見つからなければ範囲を拡大すればいい話だ。


 まず、周辺で動いている人間を発見する。

 私が破壊した壁のところを彷徨いている……物騒な得物を持っているし、騎士とも言い難い格好、反逆者の残党だろう。私の跡を付けてきたのか、追いついたら始末しとかなければ、次に王宮の外、ルルカとルルハを発見した。避難誘導は無事に終わったようね。あら、王宮に戻ってくるようだわ。私のことを追いかけてきてくれるっぽい。流石は私専属の侍女……あと、大丈夫だとは思うけれどお父様、お母様達の安否を確認しとかなくては。

 とはいえ、魔法に長けたフローレンスにうちにいる複数人の護衛がついているのだから心配はいらなそうだけど……。

 案の定無事だった。

 そもそもお父様とお母様はこの式典の会場に来ていなかったようである。何かを察知したのか、情報を掴んでいたのか、とにかく怪我がないのならそれでいい。


 さて、肝心の陛下の姿が未だに視界に捉えられない。

 効果範囲が狭すぎた?

 しかし、襲撃から今に至るまでそこまでの時間は経過していない。それほど遠くに行ったとは考えにくい。


 ……とすると、視点を変えなきゃかな。

 今まで見ていたのは地面から上の世界、可能性として陛下達は地面から下……つまり地下にいると思われる。

 地下へと意識を向けて、再度探知魔法を発動、陛下達の姿は簡単に見つかった。

 

「見つけた!」


 複数人の人影を捉えた。

 どうやら、陛下達は何かに追われて地下にある迷路のような場所を逃げ回っているようだ。その肝心の追手もこちらからは丸見えだけどね。

 さて、問題は陛下達のいる地下にどうやって潜り込むか。

 期待はしていないが、一応ローラントに尋ねる。


「陛下達は地下にいるわ。ローラント、心当たりはある?」

「地下ですか。……あっ、確か! こっちです!」


 いや、分かるのか。期待していなかった分驚いた顔をしてしまった。


 ローラントに連れられるままに彼の後を辿ると、破壊された鉄の扉が発見された。その奥には地下へと続くハッチがある。


「以前、この場所を見かけたんです。まさかこんなところで役に立つとは……」

「お手柄よローラント! とにかく、中に入りましょう」

「は、はい! お役に立てて嬉しい限りであります!」


 歓喜の声を上げるローラントはその調子のままにハッチを引っ張り上げた。中は石造りの階段が果てしない暗闇へと続いている。

 ローラントが先導するようで、火の魔法を行使していた。

 明かりが灯り、先へと進みやすくなった。ローラントよナイスだわ。


「足元にお気をつけて」


 まるでエスコートするかの如く手を差し伸べてくるローラント。


「ええ、ありがとう」


 その手を取って私も地下通路へと進む。

 薄暗い階段をただひたすらに駆け下りる。

 やがて階段ではなく平坦な道へと出た。

 薄暗いのは変わらないし、なにより分かれ道が多すぎて普通ならどこへ行けばいいのか分からないだろう。しかし、私は違う。


「探知魔法で陛下達の位置を察することが出来るのは私だけよ。ローラント、迷子にならないようにね」

「もちろんです。一秒たりともソニア嬢を一人にしません!」


 迷子にならない自信というより、なにか別の感情が混じっていた気がするが気のせいだろう。私はそのまま前へと視線を向けて迷いなく足を進める。

 

 足音、僅かな風の揺らぎを敏感に察知するため、リアンタイムでどこにどれだけの動きがあるのかを察知できる。

 動きから察して、怪しい動きを見せる反逆者と思しき人影は一人だけ。

 迷いなく素早い動き、それだけで手練れであることを容易に想像できる。


 近衛騎士団は実力者揃いだけれど、なるほど……この人物によって圧倒されたということね。

 良く言えば、あの一人以外の反逆者を皆殺しに出来た。悪く言うと……アレには全く歯が立たなかった。

 陛下達が地下へ逃げたこともそれを裏付けている。


 そこから考え、私は陛下達の方へと向かうかどうかを迷った。

 そもそも陛下達を追いかけている奴を倒してしまえばいい話だからだ。わざわざ合流する意味もない。

 迷った末に同行者である彼に答えを求めた。


「ローラント。陛下と合流するか、危険因子を排除するか、どっちを優先すればいいかしら?」


 彼はイマイチ言っていることが理解できていないようだ。


「陛下達は交戦しているのではないのですか?」

「交戦はしただろうけど、今は逃げている感じね。追い込まれているから再衝突は時間の問題だと思うけれど……」


 陛下達を追っているアレは着実に距離を詰めている。

 そして、陛下達は知らず知らずのうちに誘導されており、このまま進み続けると先にあるのは行き止まり。

 再びアレと陛下達が出会うのは、必然的なことのように思えた。

 その出会いを私が邪魔をして、陛下達に近づけないようにするということをするかどうかということをローラントに問うたのだ。

 

 優秀なローラントはその意図を私の話したことからすぐに読み取り、再度思考する。


「……ソニア嬢が言いたいのは、再衝突の前に対処するか、近衛騎士団の面々と共闘するかということですか?」

「だいたい合ってる。けど私は暗闇姫と言われてて、誤解される可能性もあるから……」


 同士討ちされる懸念も捨てきれない。

 この混乱を引き起こしたのは、十中八九貴族の者。疑われるのに一番ふさわしいといえばこの私だ。

 暗殺者を手引きしていたと勘違いされる可能性大である。

 もし誤解された場合、後方の近衛騎士団、前方の反逆者、それを同時に相手しなくてはいけなくなる。


 ……そうなったら流石に辛いわ。


 だから、陛下達との合流前に厄介な異分子を消してしまいたいと考えている。


「どうすればいい?」


 誤解されることも視野に入れてもらい、再度問いかける。

 答えは早かった。


「合流しましょう。誤解されても、俺が彼らを説得します。説得が無理なら、近衛騎士団の足止めを引き受けます。……リスクも大きいですけど、共闘できたときの勝率を考えれば、やはり後者の案がいいかと思います」


 ローラントは覚悟を決めたように告げる。

 そのローラントの言葉を私は深く考えた。そして、ローラントの提案に対する私の回答は、


「そうね。もうそれでいいわ」


 案外軽いものだった。

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