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 王座の間へと続く扉は大きく歪み通れなかった。

 その状況下で私はルート変更をし、隣にあった部屋に入ることとなった。

 そして、


「ソニア嬢、それでこれからどう致しますか?」


 思い掛けず、近衛騎士団の一人を懐柔していた。

 いや、懐柔というよりも向こうが勝手に感謝して、勝手に忠誠を誓い出しただけなのだけど……。しかし、彼、ローラント=リュークからの提案は私にとって有益なものであった。だから断る理由もなく、そのまま仲間に加えた形だ。

 彼が何を考えて私に近づいてきたのか分からないが、いずれにしてもそれを利用するのに異論はない。


 さて、王座の間へと行く考えに変わりはないものの、正面からの侵入は割と現実的ではない。

 別の侵入口が見つかればいいが、王宮に詳しいわけではない私。秘密の通路みたいなところがあったとしても、スルスルーっとスルーしてしまうことだろう。

 だからこそ、今回ローラントが協力してくれたことは誤算であり、いい流れでもある。

 

 私はローラントの質問に対しての返答をする。


「もちろん、陛下達の安否を確かめに行きます。ですので王座の間へと行きたいと思っているのですが……」


 話すよりも見て貰ったほうが早い。ローラントを部屋の隣にある王座の間へのへしゃくれた扉のところへと案内した。

 この有様を見て、ローラントも納得したように頷く。


「確かにこれでは中に入れませんね。瓦礫で扉の奥までギッシリ復活塞がれていますし」

「そう、だから別のルートを模索したいのだけど」

「そのルートが分からないというわけですね」


 いち早く私の考えを察したローラントは顎に手を当てて思考を巡らす素振りを見せる。

 やがてローラントは残念そうな顔で頭を下げてきた。


「申し訳ありません。自分は近衛騎士団の中でも新入りで、隠し通路や隠し部屋、それらについてはまだ教えられておりません。ですので、王座の間へ続く別の入り口を探し出すのは至難の技かと」


 なるほど。……残念ながら彼は王宮内の情報をあまり有していないようである。


「そうですか」


 けれども、こんなところで立ち往生している時間が惜しいことも事実。打開策を見つけたいところだが、どうしたものか。

 壁に手を当て、困り果てていた時、ふとあることに気がついた。


「壁……」


 目の前にあるのは豪華な王宮の壁。そう壁である! 壁というのは部屋を隔てるもの。つまり、壁の向こう側は王座の間に続くことだって理解できるのだ。

 初歩的なことになぜ気付かない。自分の愚かさを呪ってしまいそうになる。

 私は彼に提案する。


「この壁の向こう側に王座の間があるとして、ここを破壊すれば中に入れるのではないかしら?」

「王宮内は魔法結界が張り巡らされています。王座の間と他の部屋を隔てる壁であればそれはより一層強いもの。恐れながら、壁をこわすというのは無謀かと思います」


 彼の言う通り、王宮の壁には普通の人には感じられないものの、確かに強力な魔法結界が張り巡らされている。

 生半可な攻撃では壁に傷一つ付けることはできないだろう。

 しかし、よく考えて欲しい。

 王座の間へと続く扉は形が歪み、その向こう側は瓦礫で埋まっている。それはつまり王宮の一部が破壊されたという意味だ。

 魔法結界は当然、壁以外にだって付与されている。

 他の誰かに壊せるものが、私に壊せない?

 そんなことがあるはずないでしょう。暗闇姫の名が伊達じゃないところをこの場で披露してあげましょう。

 

 私は壁に手を当て、最大限の魔力を込める。その様子を見て彼は止めるように言い含める。


「いくらソニア嬢でも、不可能です。魔法結界はただ一人の力で壊せるようなものではありません。数百、数千という者が寄り集まって壊せるかどうかという代物なのです!」


 ローラントの言葉を聞きつつ、私は魔力を流し込む。忠告は完全に聞いていなかった。

 取り敢えずお試しとしてやるだけ。

 無理なら他に方法を考えるつもりだ。


「ローラント、無理かどうかはやってみないと分からないわ。もしかしたら、案外簡単に結界破れちゃうかもしれないわよ!」

「そんな簡単に破れてたまるか!」


 あら、単なる冗談だったのに。案外ノリがいいのね。

 心なしか顔が疲れているみたいだけどきっと私の気のせいでしかないだろう。

 そんな和んだ会話をしている間にも私は王宮中に張り巡らされた魔法結界の破壊を試みる。

 ガチャっと頭の中で鍵が開くような音が響いた。


「あ、開いたわ!」

「はい⁉︎」

「だから、魔法結界を破ったの」

「そんな非常識なことがあってたまりますか!」


 ごめんローラント。その非常識は現実よ。

 魔法結界が無効化された壁というのはただの壁だ。壊すのなんて造作もないことである。

 そんな私の考えなど微塵も察していない様子のローラントはただただ唖然としているだけだった。まるで私が非常識な女みたいに見てくる始末、勝手に忠誠を誓ったくせにそういう疑いの目を向けてくるのはなんなのか。結果的に魔法結界を壊せたのだから、それだけで今は良いではないか!


「惚けてないで、壁を壊しますよ」


 私は彼に強い口調で訴える。

 今は緊急事態宣言が頭の中で響いている。そんな非常識だとかそうでないとかの議論は無駄なこと。

 私は魔法結界を破った魔法とは違い、攻撃性の高い魔法を展開する。

 範囲攻撃である闇の衝撃波。それを壁に向ける。一方向へ攻撃を絞ると威力もそちらへ集まり、より強力なものとなる。軽く撃ち込んでみたものの、その威力は数十センチ程度の壁に対しては十分なものだったみたいだ。


「か、壁が……」


 ローラントは驚く。

 王座の間へと続く扉の横の壁には大きな風穴が開いていたのだ。

 壁の向こう側はしっかりと王座の間へと続いている。

 私は咳払いをして、


「行きましょうか」


 そう言って壁の方へと歩き出した。


「ソニア嬢……」


 ローラントは放心状態だったようだが、暫くして振り切った顔つきとなる。


「流石です。自分はやっぱり貴女に一生仕えます!」


 ローラントの私へ対する信頼度が大きく上昇を見せた。

 まあ、私にとって、どうでもいいことだけど。誰かから好意を向けられるというのは悪くない感覚だ。

 悦に浸りつつ、私はローラントと共に王座の間へと足を進めるのだった。

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