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 威圧的、とは言えない。

 けれども私の存在に少しでも怯んでくれたら……。

 希望的なその考えは、意外にも叶うことになる。

 圧倒的有利な立場の反逆者達、それなのに彼らの中にはほんの少しの動揺、戸惑いの感情が窺える。


 計画通り。というか、むしろ想定以上の成果よ!

 一瞬揺らいだ敵対者の盤石な心持ち。

 私はその隙を見逃さなかった。

 ルルカ、ルルハが戦闘をしている間、確かに私は何もできなかったが、何もしようとしていなかった訳ではない。

 誰にも悟られず、コソコソと会場内に構築した闇魔法。

 発動までに時間がかかるものではあったが、それに十分な時間は稼げていた。


 ……粛清開始ね。


「ルルカ、ルルハ頭を屈めて!」

 

 私の言葉にすぐに反応したルルカはルルハの頭に手を置き、そのまま低姿勢になる。

 察しがいいようで、二人は既に防御魔法を展開していた。

 私がかなり大規模な魔法を使うことが分かるっているらしい。けれど、そこまで警戒しなくても二人に害が及ぶようなことはないのだけど……。

 用心に越したことはないから、いいけどね。

 どうせならと私は派手に両手を広げる。

 反逆者は私の挙動に反応し、身構える。


「抵抗しても無駄よ。貴方達がうちの侍女達に気を取られていた時点で勝負は決していたのだから」


 言い切った後に準備していた魔法を展開させる。

 物凄い風が会場を支配して、周囲には禍々しい霧のようなものが漂い始める。

 予め散らしていた魔法の反応が一斉に強くなり、会場には響めきが広がっていく。

 闇魔法に関しては超一流。ただ、私の魔法が凄く強いということは噂でしかないのと、公の場で本気の魔法を使ったことがないというところから、にわかには都市伝説のように思われていたのだと思う。


「今日この場を荒らしたことを一生後悔してなさい。……死んだ後にね」

 

 闇魔法において最高峰の技の一つ、黒い風。

 風といっても言葉通りのものではなく、風のように実態のない攻撃魔法といった感じだ。

 高速で移動する真っ黒い鋭気な波動。

 周囲に散らし、展開すればその数は幾百にだって分裂させられる。形勢逆転。不利な展開から一方的な攻勢へと変化。

 さらに!先程出来た相手方の隙によって、陣形は完全に崩壊していた。


 あとは四方八方から襲いくる黒き死が、彼らの生命に突き刺さるだけである


「ぎゃぁぁぁっ‼︎」

「ぐはぁ……」

「お、俺の腕がぁ!」


 上がる悲鳴に少しばかりの高揚感を覚える。暗闇姫と呼ばれ、ただの誹謗中傷であると流していたが、私はこんなにも残酷な心を持っている。あながち私が悪女であることも間違いではないのかもしれない。


「たっ、助けてくれ〜」


 慈悲を乞う声も聞こえたが、その声も絶叫に変わり消え去る。

 ……残念ながら、私に彼らを助けることはできない。

 黒い風は強力な闇魔法であり、殲滅力は恐ろしいほどに高い。しかし、欠点として、敵として認識させた者には容赦をせず、途中で中止させることもできない。

 つまり、今この会場内にいる敵対者を皆殺しにするまで、黒い風が消失することはない。


 絶対的強者によって与えられた理不尽な運命。

 私のいる場所で蛮行に及んだことが彼らの死ぬ理由、それ以上のものはなかった。


 ……いや、まあこの魔法に関しては私が黒い風を制御しきれていないということなんだけど、そんなことを口にしたらせっかくの威厳がなくなってしまうので、言わない。

 ルルカ、ルルハからの羨望に満ちた眼差しを失うわけにはいかないのだ。


「二人とも、今のうちに捕まっている人の救助を!」


 敵の数をあらかた減らし、生き残っている者も黒い風をいなすことに手一杯の様子。

 攻撃対象に入れていないルルカ、ルルハの二人に黒い風が当たることもないので、私は二人に頼む。


「分かった。ルルハ」

「はい、もう彼らを縛っている縄は断ち切りました」


 仕事の早い二人。

 身動きの取れていなかった王宮の人達をルルハが動けるようにし、ルルカがその人達を誘導、ひとまず安全な会場の外へと避難させていった。

 王宮の外まで二人が彼らを連れて行ってくれることを祈りつつ、私は再度反逆者達へと視線を向けた。


 もう悲鳴すら聞こえない。

 言葉通り意味で、会場内の彼らは全滅。撃ち漏らしも存在しなかった。


「さて、ここからどうするか……」


 ルルカ、ルルハは避難誘導役として送り出してしまった。

 今は一人。されども、国王陛下やレノア王子の安否は確認できていない。

 もし交戦を続けているのだとしたら、私は助けに向かわなくては。

 ……二人が帰ってきてからでもと考えていたけど、それだと時間が惜しい。いち早く現状の把握をしてしまいたい。

 陛下達が無事であるのなら、それはそれでいい。

 けれど状況は理解できていない。

 時間の猶予だとないのだ。


「仕方がない。行くしかないわね」


 ルシードがいたらこんなに不安な気分にはならなかっただろう。

 しかし、今彼はここにいない。こんな大事に行方不明のルシード。見つけたらお説教しなくては!

 パーティー会場に広がる死屍累々の壮絶な景色。私はそこから目を離し、会場を後にした。

 次なる目的地は、以前国王陛下と謁見した王座の間。

 殿下達がいるとしたら、おそらくあそこだろう。


 はるか遠くまで続く王宮の廊下を私は走る。


 当然、そこに辿り着くまでに立ち塞がる敵も数多くいた。


「退きなさい!」


 敵と遭遇するたびに魔法で蹴散らす。

 闇魔法は攻撃的なものが多い。


「うっ……」


 そのため、繰り出す魔法によってはかなりえげつないものもある。

 道中、相手の意識を刈り取るものから、簡単に体の部位を吹き飛ばすものまで様々な魔法を使った。

 というのも、実践で魔法を使う機会が今までなかった。というより、使う前に優秀な護衛達が全て終わらせていたのだ。練習とかは時々屋敷の庭でやったりしたが、それを人に向けたことはなかった。故に威力がどの程度なのかを測りかねているのである。


 できればあまり酷い魔法は使いたくない。けれどもどの程度の魔法を使えば効率的に敵を無力化することが出来るのか、試行錯誤のためにこの襲撃はちょうどいい。

 どうせ立ち塞がる敵、こちらに余裕なんてものは微塵もないし、戦闘経験だってない。だから、本気で色々試すのだ。


 ……一番効率の良い敵の殺し方を。


「あら、どうしたの? 素直に道を開けてくれるなんて」


 怯える敵の集団は後退りをしながら、道を開ける。

 私の後ろには道を開けなかった輩の亡骸が転がっているからだろう。

 死ぬより、道を開けた方がいいと判断したのかもしれない。


「素直で助かるわ。私も不必要な殺傷は避けたかったところだし」


 ……これは本音だ。

 殺傷というより、魔力の消費が過ぎると体が怠くなってくる。疲れることは嫌いだし、緊急時に一定量の魔力は温存しておきたいと考えていた。

 長期戦、多数を相手にする対人戦は自然と燃費も悪くなる。ルルカ、ルルハと合流することを加味していたら、もった思いっきり魔法を撃てていただろうけど、私は単独だ。

 致命傷を負わせる程度に抑えた威力、最小限の魔法発動回数、しっかり意識しながらそれらを考えて、戦っていた。

 

 そして、実力差は十分に知らしめた。

 残忍な殺め方もしていたので、無理もない。

 でも、試行錯誤の末のことだ。致し方のない殺害方法である。

 ここからは敵を殺さず、魔法を使わずに進むことができそう。


 殿下達の安全を確保して、今回の襲撃を誘導した首謀者を叩く。

 目的は明確にして、簡単。あとは私の実力と度胸だけだ。

 王座の間へ向かう私の足取りは、しっかりしたものだった。


 ……手遅れになる前に、急がないと。


 懸命に走った私は数分後に王座の間がある扉の前に到着した。

 そこで私は……。


「そんな……」


 軽く絶望していた。

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