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ラスティ達がエドガー子爵領の地下水路で奮闘している頃、私達王都行き組は、王都へ向かうための出発準備を着々とを整えていた。
今回は両親も同行するため貴族用の馬車が三台用意された。一台は父と母用の馬車。もう一台には私とルシード達用の馬車。最後は予備のために随伴する馬車となっていた。
フローレンスには父と母の馬車に乗ってもらい、二人の安全を確保してもらうことにした。
私が外出するというだけで道中は危険地帯に変わりない。
襲われること前提の話である。
私の乗る場所にはルシード、ルルカ、ルルハの三人プラス悪霊が一体の編成となった。
三代目の馬車には私のとっておきの秘密兵器くんに乗ってもらう。
というのも、私も彼に会うのはこれで三度目。
秘密兵器というより、滅多に顔を出さない神出鬼没な男がたまたま私に同伴してくれるということで連れて行くことになった。
想定外の戦力ではあるものの、護衛不足の現状からしたら嬉しい誤算であった。
現在私は既に馬車に乗っており、車体の整備、及び最終チェックの完了を待っている状態にある。
「こんなに豪華な馬車に乗れるなんて……夢でも見ているみたいです!」
あからさまにテンションが上がっているのは綺麗な紅の髪をした私の専属侍女のルルハ。優しげな顔立ちとフワフワした独特の空気感は周囲の者達を和ませる効果がある。
「はぁ、馬車くらいでそんなにはしゃぐことか? 私にはさっぱり理解できないわ」
その隣で冷めたようなことをいう仏頂面の子は同じく私専属の侍女となったルルハの姉、ルルカ。
妹とは正反対で刺々しい空気を放ち、目元も吊り上がっており、やや高圧的な性格。しかし、妹のことを大切に思っている所謂シスコンだ。
こんな二人であるが、元暗殺者。
殺し合いとなると息のあったコンビネーションを活かして、可憐な戦いを見せる。
王都に連れて行くのも護衛としての意味も兼ね備えてのことだ。……別の思惑がないわけではなかったけど。
「ソニア、何故この女二人が一緒なのだ。別の馬車に乗せればいいのに」
そして、残念そうに肩を落としている一見普通のイケメンに見える彼が悪霊のルシード。誇り高き霊獣という存在であるはずなのだが……まるでその威厳は感じられない。
死んでいるので、食事も睡眠も取らない。
元々私が呼び出さなければここに存在出来ないはずなのだが……何故か少し前から、自分の意思で私の元に居つくようになった。
護衛もしてくれるということで、しっかり利用させてもらっている。便利だ。
「はぁ? お前がソニア様に変なことしないように見張ってんだよ。むしろお前が別の馬車に移動しろ」
「心外だな。俺は二十四時間、三百六十五日いつでもソニアのそばにいるつもりだが?」
「……死ね、この害虫が」
「女性がそんな言葉を使うかねぇ?」
相変わらず、ルルカとルシードは仲がよろしくないみたいだ。
肝心のストッパー役であるルルハは車内の豪華さに見惚れて機能していない。出発前からこの有様。……王都に着くまでこの騒がしい状況が続いたらどうしようか。
……かなり不安。
「なあ、ルルハ。お前からも何か言ってやれよ」
「えっ? あっ、ソニア様こんな凄い馬車に乗せていただきありがとうございます! 私は今とっても幸せです!」
「そういうことじゃないでしょ‼︎」
なんだか喜劇でも見ているかのようだ。
ルルカとルルハはこの馬車に慣れていないからか、テンションがおかしい。
ルルハは感激しすぎだし、ルルカはいつにも増してピリピリして、キレが増している。
「二人はこういう馬車は初めて?」
「まあ、そうかな。私達は元々貧民街に住んでいるような平民だから。こんな貴族が乗るようなキラキラしたのに縁なんてなかったよ」
「馬車と言えば、もっと小汚くて長時間座っているとお尻が痛くなるような硬い床があって、倉庫みたいな箱と同じ。そんなものだとばかり思っていました。でも、ソニア様の馬車は椅子もフカフカで窓も付いてて、内装も綺麗でとっても素敵な馬車です!」
なるほど。
言われてみれば、彼女達を公爵家の馬車に乗せたことはなかった。
二人を公爵家まで連れ帰った時も、護衛の馬に乗せていたし、あの日は夜だったから、馬車の外装も内装もよく見えなかったのだろう。
「そう、なら我がファルステラ家の誇る馬車の旅を存分に楽しんでちょうだい!」
……別に楽しいものでもないけど。
ルルハが楽しそうだから、楽しい馬車の旅ということにした。
「お前みたいなのがいなければ、確かに楽しい旅だったかもな」
「余計なことをいいますね。俺は悪霊、もっと敬意を持って接して欲しいのですが」
「悪霊なら余計に敬意なんて込めるかよ。さっさと成仏しろ」
……楽しい旅になるよね?(願望)




