11
フローレンスとフレッドの意味のない実験に付き合わされた私は、手伝ったという大義名分によって、フローレンスを王都に連れて行くことが可能となった。
あの一見何の意味もなさない実験も、巡り巡って私の役に立ったようだ。
フローレンスは満足したようで、実験の後めちゃめちゃ感謝された。
曰く、暗黒空間というマニアックな魔法を使える人間が今まで見つからず、今回行った実験がやれなかったらしい。私なら闇属性関連の魔法ならなんでも使えるのではないか?
という安直な考えのもとで頼んだところ、本当に使われて正直驚いていた。とのこと。
伊達に暗闇姫という不名誉な称号を持っているわけではない。ちゃんとそれに見合った実力も兼ね備えている(つもり)。
まあ、とにかくフローレンスを連れて行けることになって良かった。
王都行きの準備は整えた。
説得するのも楽ではないと、思い知らされた。
「あ〜、疲れた」
ベットに顔からダイブし、そのまま最高級の心地よさを存分に味わう。
日頃から愛用しているベッドはやはり心も落ち着ける効果があるみたいだ。
「婚約発表の式典に関してはこれでいいとして、あとは別働隊の方ね」
別働隊。
これこそがラスティやその他優秀な護衛を私の身辺警護に採用できない一番の理由。
ルルカ、ルルハの率いてきた暗殺集団に襲われ、一月が過ぎたが、未だにエドガー子爵の調査は継続中だ。しかも、王宮での今回の催し物。仕掛けてきてもおかしくないタイミングと思える。
別働隊を万が一の保険として、王都に待機させる。
そして、敵勢力を確認次第の殲滅をしてもらう。
レノア王子との婚約は望んだことではないが、邪魔をされるのも居心地が悪い。
「邪魔をされないようにしないと」
「ふっ、あんまり根を詰め過ぎない方がいいと思うけどな」
独り言に返ってくる言葉。
「ルシード……」
部屋には先程まで気配から感じなかった悪霊ルシードがさも当然のように立っていた。
しかも、今回は私が呼んだ訳ではない。
前回呼んだから一週間、ルシードの召喚期間は過ぎて、既にこの場所に駐留しているわけがないのだが……。
「どうやって来たの?」
問うとルシードは自慢げに話す。
「自分で来たんだよ。お呼びじゃないって思ったでしょ? でも、今回は特別。期間無制限でソニアの身辺警護をしようと思ってね」
「どうして?」
「さあ、どうしてだと思う?」
「質問に質問で返すのは、あまり関心できないわ」
一見ふざけた会話のように思える。
しかし、霊獣が召喚者の力を借りずに現れるというのはかなり珍しい。
それなりに理由があるように思えたのだが、ルシードはそのことを話す気がないように見える。
理由を述べることを明らかに避けているのだ。
「ルシード、何を企んでるの?」
「企んでるなんて穏やかじゃないね。誰だって人には語れない隠し事のひとつやふたつ、持っているものだと思うよ。それに今回君の護衛を俺が引き受けてあげるんだ。君にとっても悪い話じゃないと思うけども?」
ルシードの言う通り。
私にとってもこの話は都合の良いものに他ならない。
「私の護衛はする。だけど、警護をする理由に関しての詮索はするな。……要約するとこういうことかしら?」
「だいたいそれで合ってるよ。俺は君に理由を話せない」
「そう……」
詮索するなというのは少々語弊があるようだ。
ルシードは私に話せないと、そう言った。彼の意思で話さないという訳ではなさそうに感じる。
「分かった、これ以上は聞かない。こちらとしても、貴方が召喚の有無に関わらず私のことを常に守ってくれるのであればこんなに心強いことはないわ。だから、これから警護をよろしくルシード」
「うん、任せなよ。俺は君のためなら地獄にだってお供するよ。生涯俺は命尽きるまで愛しのソニアを護り続ける!」
……うん。
「あのさ、貴女が好んでるのは私個人じゃなくて、私の魂でしょ。誤解を招くように言い方をしないでほしいわ」
「あれれ〜? 今のは良い感じの雰囲気の中、忠誠を示す騎士に対して、最大限の感謝を表したお姫様がその騎士に優しくキスをする……みたいな場面じゃないの?」
はぁ……頭が痛くなる。
さっきまでのシリアスな空気感はどこへやら。ルシードのふざけた返し文句のせいで拍子抜けである。
「もういいわ。警護は明日からってことで、おやすみ」
「えっ、もう寝るの?」
「今日は疲れたのよ。二人の暗殺姉妹を説得して、侍女の無意味な実験に付き合わされ、怪しい隠し事をする色ボケした悪霊の話し相手になった」
「ちょっと、最後の一番悪意篭ってないですかぁ? もしも〜し?」
ウザい。本当に寝よう。
レノア王子との婚約発表は一週間後、それまでにやることはまだまだたくさん残っている。
明日からまた忙しい日々が待っていると思うだけで、今日はもう何もやる気にならない。
時刻としてはまだ日が沈む前。
しかし、体がもう寝かしてほしいとせがむのだ。
ルシードのふざけた独り言を聞きつつ、私は暫しの間眠りについた。
※三時間後、夕食時刻となったために起きました。




