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真空の島  作者: 葉月 風樹
2/5

一話目 すべての始まり

 土岐が出発する日の朝、外ではまだ七時だというのにうるさくセミが鳴き始めている。

 土岐は家の前で半そで半ズボンといういでたちで、パンパンに膨らんだリュックを背負い、手には旅行カバンを持ち、顔には笑みを浮かべて、母――朱衣子と、父――凪森を前に立っていた。

「忘れ物はない?」

朱衣子は土岐に問いかける。その表情は、一見笑っているようにみえるが、その中にはどこか悲しみやさびしさが隠れているようにも見えた。しかし土岐は、これから起こるであろう様々な出来事に思いをはせ、ワクワクドキドキしていたためそれには少しも気付かずに答える。

「うん、紙に書いてあったものは全部持ったよ。」

 凪森はそんなときを見て、

「まぁ、楽しんで来い。二学期は遊んでる暇なんてないだろうからな。」と言った。

「うん、それじゃあ行ってきま~す。」土岐はそう言って、歩き始めた。

 土岐は面接の時と同じようにゲームショップ港へと行った。まだ朝も早いせいか、店の扉には休業中の札が掛けられていた。だが、土岐はそれに構う事なく扉に手をかけ、いつものように押し開けた。いつものように鐘は鳴らなかったが、扉はいつものように開いた。

「ようこそ、真空の島の入口へ。」

司は土岐の前に立つと、言った。しかし、その言動とは裏腹に、半そでジーパンという普通のいでたちだったため、土岐は思わず、

「服装は意外に普通ですね。」と言った。

「……ここで自己紹介をさせてもらう。俺の名は護璃ごり つかさだ。島の案内人をしている。」

司は土岐の言葉を無視して自己紹介をした。

「これからしばらくの間は一緒に行動する事になる。よろしく。」

司は手を差し出して言った。土岐は迷う事なくその手を握り、「こちらこそよろしく」と、言った。

「これより島へと向かうへと案内する。ついて来い。」

司はそう言って、店の奥へと歩き出した。土岐も言われたとおり後を追って行った。

 店の奥には、小さな廊下が続き、少し行くと、右には休憩室、左には倉庫と記された扉があり、いちばん奥には立入禁止と書かれた、ほかの扉とは違う鉄製の扉があった。司はその鉄製の扉を無造作に開けると、その中に入って行った。そして、土岐が部屋の中に入ったのを確認すると、扉を閉めた。部屋の中には小さな窓以外何もなく、薄暗かった。

「ここが島へと続くゲートになっている。ゲートを通過するとしばらくこちらへは戻ってこれない。忘れ物は無いか?」

司の問いに、土岐はこくりと頷いた。

「それでは行こう。《ゲートオープン》」

司は土岐がうなずいたのを確認してから言った。すると、その言葉に反応して床が光り始めた。そして次の瞬間には、土岐は落ちるような感覚に捕われた。その間隔は周りを確認する事ができないほど強烈だった。

「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー。」

土岐はこの落ちていくような感覚の中でしばらく悲鳴をあげていたが、結局は途中で失神してしまった。……

「……き」

土岐はどこからか聞こえる声を聞いた。

「そ…ろお……ろ」

その声は次第に大きく、はっきりと聞こえるようになっていく。

(何だろう、この声…)土岐はふとそんな事を考えながらも、もっとしっかりとその声を聞こうと耳を傾ける。そして、次の瞬間には、その声はっきりとした言葉として聞こえた。

「いつまで寝ているつもりだ、土岐!」

さっきから聞こえていた声の主は司だった。

「う~ん…」

土岐はその声に反応して目を覚ました。そして、上半身を起こし辺りを見回した。そこはさっきまでいたはずの薄暗い部屋ではなく、広い砂浜だった。土岐はこういう時の決まり文句を言おうとする。

「ここは……」

「ここが真空の島だ。ちなみに土岐が気絶していた時間は5分程度だ。」

司は、今まさに土岐が言おうとしていた質問を、先読みしたかのように答えた。

(もう少し言わせて……)

「そんな時間はない。」

司は土岐の、それに対する答えを言った。

「!、私の考えてた事が……」

土岐は当然の事ながら驚いた。

「全部説明してやるからまずは落ち着け。」

司は驚く土岐を見て、(本当に大丈夫か?)と心配になりつつも言った。

 土岐はその後何度か深呼吸して落ち着きを取り戻した。

「うん、落ち着いたから話して。」

土岐はそう言って司を促した。司は土岐が落ち着いている事を自分でも確認すると、一度だけ頷いて話し始めた。

「説明する前にまず謝っておく事がある。それは、これがゲームではなく現実であるという事だ。……信じてないな。」

そう言ってにらんでくる司に対し、土岐は、(いきなり何言ってるの?)と思いながら頷いた。それに対して司は何か言いたそうだったが、結局今何を言っても無駄だろうと思ったらしく、

「まぁいい、現実である事は後々わかってくるだろう。」と言って本題を話し始めた。

「この島とその周辺では大きく分けて2つのが使える。一つはただ単に『能力』と呼ばれているだ。その中の一つにさっき使ったような心を読む能力も含まれている。」

「それってつまり私にも使えるって事?」

土岐は司の説明を聞いて、思った疑問を口にした。

「いや、たぶん無理だろう。この『能力』にもいくつかあるが、心を読むのはその中でもレベルが高い能力だからな。」

司がそう答えると、土岐は目に見えてがっかりして、「そうなんだ」と肩を落とした。

「そうがっかりするな。後で簡単なやつは教えてやる。大切なのはもう一つの能力だ。それにはこの本を使う。」

司は、自分のカバンの中から緑色の本を取り出した。

「この本は真の書と書いて『真書』と呼ばれている。そしてこの本に記されている術を真の術と書いて『真術』という。この能力は自分自身が秘めている力を具現する。だから人によって様々だ。」

「え?私はまだ持って無いよ。」土岐は当たり前の事ながらそう言った。

「まだおまえには種本を渡していないからな。」

司は再びカバンから本を出す。今度の本には虹が描かれていた。

「これが種本だ。一度自分の『真書』を作ると反応しなくなるが、まだ作っていない土岐が持てば反応するはずだ。」

司は土岐に種本を差し出した。土岐がそれを受け取ると、種本は一度だけぼんやりと光り、その光が消えた後には、表紙から虹が消え、光沢のある白色になっていた。

「光りか……。」司は手紙の内容を思い出し、少しだけ苦笑いした。

「え、何か言った? 」土岐は、司のほんの少しの苦笑いを見て言う。

「いや、なんでもない。まぁ、今の時点でできる能力の説明はこんなものか。あとは街に着いてから説明する。」

司はそこで一度区切ると、ポケットの中から懐中時計を取り出した。そして時間を確かめると、懐中時計をポケットにしまった。

「もうすぐ昼だな。そろそろ街に向かおう。他の説明は昼食の後だ。」

「うん、それはいいけど街まではどのくらい距離があるの?」

土岐は一応辺りを見回してみるが、街の影すら見えない。

「そうだな、大体二〇キロ強はある。」司はなんでもないように答えた。

「あのー、二〇キロ強って結構長い距離だと思うんですけど。」土岐が悲鳴じみた声を上げると、「あぁ、まだ教えてなかったな」と、司は再び説明を始める。

「さっき言った『能力』の中でも簡単に使える能力に、《浮遊》と《飛行》がある。『能力』の使い方は簡単だ。たとえば《飛行》を使うときは飛ぼうと思ってみろ。それでだめなら飛ぶと強く念じる。それでだめなら自分の飛んでいるところをイメージする必要がある。それでだめならまだ土岐には使えないという事だ。」

司の説明を聞きながらも、土岐は言われたとおり、まず飛ぼうと思い、これで失敗。続いて飛ぶと強く念じると、やっとの事で足が地面から離れ、ゆっくりとだが、宙を飛び始めた。

「できた。」土岐はそう言って、少しずつ速度を上げて飛び始めた。

「おい、少し落ち着け。…レベル三ってところか。よし、それなら少し高速で飛ぶぞ。」司は土岐よりも少し高めに浮かぶと、自動車並みの速さで飛び始めた。

「あ、待ってよ!」土岐は急いで司を追って行った。

 土岐は司と同じ速さでしばらく飛んでいるうちに、異常な速さで疲労が溜まっていく事に気づいた。

「司、この能力って走るよりも体力使うの?」土岐は前を行く司に尋ねてみた。

「そうだな。この速さならランニングよりは体力を使うだろう。だが同じ速さで走るよりはまだ楽なはずだ。」司は振り返りもせずに、それだけ答えた。

「そうか…」

土岐は知りたい事が分かったのでそれで満足した。

 しかし、またしばらくすると今度はもっと根本的な――今頃になって考える事ではない――疑問が生まれた。

(そういえばどうやって浮いたり飛んだりしてるんだろう。)

その瞬間、土岐の身体を支えていた浮力が突然消えた。

浮力が消えた事により、土岐の身体が地面に向かって落下していく。「ひゃっ」と、土岐は小さな悲鳴をあげながらも、再び集中して体を支える浮力を再度創り出し、体勢を立て直した。何とか一息つくと、司が近付いてきた。

「今はまだ考えながら飛ぼうとしない方がいいだろう。もう少しレベルが上がらないと先のように落ちて、運が悪ければ死ぬぞ。

」司の言葉は脅しでない事は今の経験で簡単に分かった。土岐はしっかりと頷いて、疑問を心のすみへと追いやった。

 そして再び飛び始めると、しばらくして遠くに街並みが見え始めた。

「もう少しで到着するぞ。」司は、疲労が溜まってきている土岐を励ますように言った。

「うん。」土岐も頷くと、一度だけ深呼吸をして途切れかけていた集中力をもう一度高めた。

 もうしばらくして、土岐と司はやっと町の入口に到着した。街の入り口には、案内板が設けられ、そこにはと記されていた。町というだけあり、たくさんの人が賑わいを見せていた。

「ようこそ、初風町へ。」司は町を眺める土岐に向かって言う。

土岐は一通り町を眺め終えると、司を見た。

「ねぇ、司はおなか減ってない?」土岐は小さな声で、ちょっと恥ずかしそうに言った。

司は再度懐中時計を取り出すと、時間を確認した。その瞬間、司の顔色が明らかに青くなった。

「土岐、少し急ぐぞ。」司は理由を言うのも忘れ、スタスタと急ぎ足で歩きだした。

「え?ま、待ってよ。」

土岐は、慌てて歩き出した司を追って、歩き始める。司が急ぎ足なので、土岐は歩くというより小走りぎみだった。

「いきなりどうしたの。時計見てから慌て始めたようだけど。」土岐は急に急ぎだした司を見て、不思議そうに言う。

「飯の時間にうるさい奴がいるからだ。」司は歩きながら、おまけに早口で言った。

 土岐はこんな調子の司を見て苦笑いしながら、もう一つ質問をする。

「それじゃぁどこに向かってるの?」

「俺の家だ。…まだ話していなかったな。土岐の他にもう一人島に来ている奴がいる。そいつが飯を用意して待ってるんだ。」司はこれまた早口で答えた。

 土岐はそれで思い出した。この島に来るきっかけとなったチラシには、確かに募集人員は二人とされていた。

「なんとか間に合ったな。」

土岐がチラシの内容を思い出していると、司はそう言って足を止めた。土岐も止まると、目の前の家を見る。それは三階建ての、一人で住むにはいささか大きすぎる家だった。よく見ると、隣には庭まであり、そこの一角は家庭菜園にもなっていた。

「結構大きな家だね。」土岐は率直な感想を言う。

「まぁいろいろとやっているからな。」それに対して司は平然と答えた。

 そして司は家に扉を開けた。

「…ただいま。」「おじゃましまーす。」司と土岐は、家に入るとそれぞれに言った。

 家の中は玄関からそのまま長い廊下が続き、その左右と奥にいくつかの扉が見えた。

「おかえりー。」

この声とともに、玄関に一番近い、右側の扉が開く。そこから出てきたのは、土岐と同じくらいの年ごろに見える男の子だった。

「ん、司の隣にいるのは誰だ?」男の子は土岐を見て司に尋ねた。

それに対して司は少し顔をしかめた。

「今日から同居人が増えると朝のうちに言わなかったか。」そう答えて男の子を軽く睨んだ。

「ははは、念のために聞いてみただけさ。」男の子は笑って言った。

司はその答えが信じられないらしく、まだ男の子を睨み続けている。

「あ、自己紹介がまだだったな。俺は、真神まがみ 空樹からきだ。」

空樹は司からさりげなく目をそらすために自己紹介をした。司はこの時点であきらめたようだった。

「私は鳥山土岐。よろしく。」

土岐はそんなやり取りには気づかず、土岐自身も自己紹介をした。

「空樹、もう飯は…出来てるだろうな。」

司は途中で確かめる必要もないとばかりに言葉を変えた。

「もちろんだ。さぁ、早く上がってこいよ。」空樹はそう言って戻って行った。

 土岐と司は靴を脱いで空樹の入っていった部屋へと入った。そこはキッチン兼食堂となっているようで、テーブルの上にはすでに食事の用意が整っていた。今日の昼食は具沢山素麺のようだ。

「土岐の部屋には後で案内する。荷物は一度この部屋の隅に置いておけ。まずは食事にしよう。」司はそう言ってテーブルに着いた。

 土岐は言われたとおり、持ってきた荷物を部屋の隅に追いやり、急いでテーブルに着いた。

「よし、んじゃあ食うか。いただきます。」すでにテーブルについていた空樹は、土岐がテーブルに着いたのを確認してからいった。

「いただきます。」「いただきまーす。」司と土岐もそう言うと、三人は素麵を食べ始めた。

 土岐はまず、麺に乗った具をどかし、素麵をすすった。

「お、おいしい。」土岐は素麵を一口食べて言った。

そして土岐は考える。何が違うのかと。見た目は普通の具沢山の素麺だ。しかし、味は市販のそれの比ではなかった。土岐はさらにもう一口食べる。そしてやっと答えを見つけた。

「タレが違う。…それと麺も!」土岐は呟くように言った。

「正解。よくわかったな。」

空樹はニヤリと笑った。

「どっちも俺の手作りだ。だしも粉もちょっといいやつを使ってある。もちろん工夫もいろいろしてあるけどな。」そう語る空樹はとても得意気だった。

「野菜も取りたてでしょ。」土岐はさらに言った。

「「どうすればそこまでわかるんだ。」」

さすがにそこは二人で突っ込んだ。

「自分でも分かんないんだよね。」土岐は食べながら答えた。

「…まぁいいか。それと土岐、食いながらしゃべるな。」空樹は半分あきらめたように言い、最後に土岐を注意した。

「はーい。」土岐は口の中の麺を飲み込んでから返事をした。

 土岐たちの食事が終り、食後のお茶を飲んでいると、空樹はふと口を開いた。

「土岐、お前どっかで前に会った事ないか?」

土岐は空樹のその問いに少しびっくりした。そう、土岐自身もそんな気がしていたのだ。

「え?空樹もそう思ってたの。私もどこかで会ったような気がするんだけど思い出せないんだよね。」土岐は困ったように言った。

「そうか、お互い思い出せないって事はすれ違ったくらいだって事だろうな。」

空樹はそう結論付けると、立ち上がって食器の片付けを始めた。

「土岐、部屋に案内する。荷物を持ってこい。」食事中ほとんどしゃべらなかった司がやっと口を開いた。

「あ、うん。ちょっと待って。」土岐は司がいた事を半分忘れて空樹としゃべっていたので、いきなりしゃべりだした司に少しだけびっくりした。

 土岐は急いで荷物を持つと、これまた急いで司を追った。

 土岐の部屋は二階に上って、すぐ正面の部屋だった。部屋は広く、中には小さいながらもテーブル、イス、ベッドと少し大きめのクローゼットが備えられていた。窓からは、遠くに海が見えるが、どこか素気ない部屋だった。

「自由に使ってくれ。その代りこの部屋の掃除と自分の洗濯くらいは自分でやれ。…まぁ掃除くらいは頼めば空樹がやってくれるだろうがな。」

司は最後に調度品の説明を一通りしてから部屋を出て行った。

 土岐は持ってきた荷物を整理すると、やる事もなかったので、とおりあえず下に降りて行った。食堂に行ってみると、片付けを終えた空樹がお茶を飲んでいた。

「ん、土岐か。土岐もお茶飲むか。」土岐が食堂に入ると、空樹が気付いて言った。

「うん、お願い。」

土岐は頷いて席に着いた。代わりに空樹が席を立ち、土岐の分のお茶を淹れて土岐の前に置いた。土岐は「ありがとう」と言ってお茶を飲んだ。しばらくそうして静かにお茶を飲んでいた。

「そう言えば」土岐はふと思い出して口を開く。「さっきの続きだけど、空樹って私と何処かで会った事なかったかな?」

「俺もさっきからそれを考えてたんだけど何処で会った全然思い出せないんだ。」空樹は困り顔でお茶をすすった。

「二人で会ってる気がしてるから間違いっていうのはなさそうだし……」

「そうなると一番合ってそうな所は……」二人はそうしてしばらく考えると、「「あ」」

と同時に少し抜けた声を発した。そして、「「学校。」」二人は同時に一つの答えへとたどり着いた。

「空樹の学校って私と同じ蘭崎南中学なの?」

「あぁ、だけどあれだな。世界っていうのは意外と狭いな。」

「本当にそうだね。こんな共通点があったなんて。世界は本当に広いようで狭いかもしれないよ。」

空樹と土岐は、お互い謎が解けてすっきりして笑った。

「盛り上がっているようだが出かけるぞ、土岐。」

それは笑っている最中に、いきなり土岐の背後からかけられた。いきなり声を掛けられたので、土岐は驚いて軽くむせてしまった。むせながらも後ろを向くと、声の主でもある司が立っていた。

「司、いつからいたの。」

 土岐は息を整えながらも尋ねた。

「ちょうど今来たところだが。それがどうかしたのか。」

 司はそんな事を聞かれて不思議そうにしている。

「ううん、何でもないよ。ところで出かけるって言ったけど何処に行くの。」

 土岐は慌てて話題を変える。

「あぁ、長老の家に行く。そこでこれから先の事も含めていろいろ話してもらう。」

「これから先?」

司の言葉にきょとんとする土岐は、すぐにゲームの続きかと思った。

「…おい、そろそろゲームじゃないと認めろ。」

 そんな土岐の心を読んだ司は少しあきれてしまった。

「え、司、土岐も一応空飛んできたんだよな。」

空樹はちょっとびっくりした。さすがにもう分かっているものだと空樹自身思っていたのだ。

「あ、そうそう。あれってどういう原理で飛んでたの。ゲーム的にじゃなくて理論的に知りたくなっちゃった。」

 そんな事とはつゆ知らず、土岐はこれがゲームであると疑わなかった。

 司と空樹は少し困ったように顔を見合わせたが、結局どちらも良い言葉は思いつかなかった。

「……」

 そして二人はあえて何も言わない事にした。

「え、どうして二人とも何も言わないの…。」

 土岐は困惑した。

「……」

 しかし、その問い自体も沈黙を持って答えと変えた。

「…本当にこれはゲームじゃなくて現実なの。」

 土岐は今でも冗談だと言ってほしかった。しかし、無情にも二人は首を縦に振った。結局これが全ての答えであると言うように。

 土岐は二人が頷いた瞬間、見事に固まった。そしてこのまま動かなかった。

「それも合わせて長老が話してくれるだろう。とにかく行くぞ。」

 司は固まってしまった土岐を尻目にそれだけ言うと、土岐を文字通り引きずって家を出て行った。

「お茶の時間までには帰ってこいよ。」

空樹はそれだけ言って二人を送り出した。

土岐は引きずられている間も体はしばらく固まったままだった。そして頭の中はというと、嘘だの本当だのと、突き付けられた真実に困惑していた。そしてもうしばらくするとやっとある程度の平常心を取り戻し、自分で歩けるくらいになった。

「ひとつだけ聞いていい。」

 土岐は前を歩く司に声をかけた。

「何だ。」

 司は振り向かずに返事だけした。

「こっちの世界で死ぬっていうのは……やっぱり向こうで死ぬのと同じ事なの。」

 土岐は少しだけためらいながらも、これだけは絶対に聞いておかなければならないと思い、言った。

「…そうだ。ここで死ぬという事は土岐のもといた世界で死ぬのと変わりはない。」

 司は足こそとめなかったが、少し顔をしかめ、さらに歩調が少しだけ遅くなった。

「そういう事も含めて長老が話してくれる。わからない事は時間の許す限り長老に聞いてみるといい。」

 司は一度振り向いて、できる限り優しく――司は自分自身ちょっと不器用だという事は自負している。――微笑んだ。

「そう…か。」

土岐はもう何も言わなかった。

 そこからしばらくの間、二人は黙々と歩いた。司は自分の不器用さにあきれはて、土岐は自分の中で現実を整理するために、黙々と、歩いた。長老の家に向かって。

 そうしてしばらくすると、古く、少し小さな平屋建ての家の前で司が止まった。

「少しここで待っていろ。」

 司は土岐にそれだけ言って、一人その家に入って行った。土岐は言われたとおり、しばらく家の前で司を待っていた。土岐がボーっと空を眺めて待っていると、司は家から出て、「入れ」と手招きした。土岐はすぐに反応して家の中へと入った。

 土岐と司が通されたのは、小さな、そして調度品の少ない質素な和室だった。そこにはすでにこの家の主である老人が座っていた。老人は渋めの着物を着こなし、羽織物を羽織っていた。その顔にはシワこそ多いものの、活力にあふれていた。

「よく来たな。お前が鳥山土岐か。」

 老人は少しぶっきらぼうな言葉使いではあったが、そのシワだらけの顔は笑っていた。その顔を見て、土岐は少しだけ落ち着いた。

「はい、私が土岐です。」

 土岐もつられるように笑った。

「そうか。司、少しだけ席をはずしてくれ。二人で話をしたい。」

老人は一度土岐から視線を外すと、司を見る。

「わかりました。どちらで待てばよろしいでしょうか。」

 司はいつになく丁寧に受け答えをしている。

「何処でも構わんぞ。少し長くなるだろうから一度帰っていてもかまわん。」

「では書室をお借りします。」

司はそれだけ言って和室から出て行った。長老はそれを確認すると、視線を土岐へと戻した。

「さて、何から話したものか。……そうだな、まずは自己紹介からするべきだ。私の名は。この町では長老と呼ばれている者だ。一応この町の代表という事にもなっている。」

 長老は表情が硬くなっている土岐を見て再び笑った。

「あの、私、いくつか質問があるんですけどいいですか。」

 土岐はそんな長老に思い切って言ってみる。

「それは良い。私が土岐の質問に答えていき、後で足りない話を継ぎ足していけば少しは楽かもしれん。」

 長老は手を叩き、土岐の質問を聞く態勢に入った。

「それじゃぁ、本当にこれは現実なんですか。本当にゲームじゃなくて、ここでの死は私の元いた世界の死と同じって事で本当にいいんですか。」

 土岐は一番初めに一番気にしていた事を口にした。

「ゲームだと言ってやりたいのだが残念ながら本当に現実だ。ここで死ねば間違いなく元いた世界でも死ぬ。」

 長老は少し困ったが、それでも真実をありのまま答えた。

「……わかりました。」

 土岐は最初に気付かされた時点で何となくは悟っていたので、もう固まる事はなかった。

「私が呼ばれたのにも理由はあるんですか。」

 土岐は気を取り直して次の質問をした。

「うむ、土岐が呼ばれた理由は土岐自身のにある。」

 長老も気を取り直し、再び答える。

「私の…能力?」

 土岐は島に来た時に渡された本の事を思い出した。長老はそれに頷く。

「土岐の能力は今現在残っている能力の中でも最高位の能力の一つ、『光』と呼ばれている能力だ。つまりそこまで強力な能力が必要な事態が今この島では起こっているのだ。」

「私の能力ってそんなに強いんですか。」

 土岐は気になった事を言う。

「いや、強くなれる。と言った方が正解だろう。『光』と呼ばれる能力は対となる能力以外と比べればとても高等な能力だ。しかし、それはその能力を完全に発揮した時の差であって最初から強いというわけではない。今の土岐なら能力を使える素人でも簡単に倒せるだろうな。」

 長老はそこまで甘くないと、土岐に言い聞かせるように言った。

 土岐は落胆したが、長老はさらに続けた。

「心配する必要はない。土岐の命は必ず守ると約束しよう。そのために司も、私もいる。それでも強くなってもらわねばならんからちょっとは危険な目にあわせる事にはなるだろうがな。」

「わかりました。それじゃぁこの島で今起こっている事っていうのは何ですか。」

 土岐は長老の言葉に少しだけ安心して、土岐がこの話が本題になるであろうと思った質問をした。長老は頷いて、話し始めた。

「さて、その事についてだが、まずこの島のどこからでも見る事のできる山があるのはもう気づいているかね。」

「えっと、あの山の事ですか。」

 土岐は長老の問いに、窓の外に見える――町に来るまでずっと視界の隅に入っていた――大きな山を指差した。

「そう、あの山だ。あの山の名は無効山と言って、昔からそこだけは能力を普通に使う事はできなかったのだ。そしてその頂上には無なる者と呼ばれる者がいる。彼が人間なのか、それともまた別の種族のものなのかはわからんが、その無なる者は数十年前に島の半分を封じてしまった。理由は今でも分かっておらん。何せ突然だったからな。…いや、知っているだろう者なら四人いたな。その四人は土岐と同じ世界から来ていた。当時その者達はたった四人で無効山に登って行った。そして無なる者と戦い、最後は無なる者を封印した。なぜ倒さなかったのかも分かってはおらん。分かっているのは無なる者が封印されても島の半分の封印は解ける事がなかったという事だけだった……。」

長老は語り終えると、一度目を伏せた。

「あの、封印した理由は四人に聞かなかったんですか。」

 土岐は聞いていてずっと思っていた事をそのまま言った。

「もちろん聞いてみた。しかし、何一つとして教えてはくれなかった。四人は口をそろえてこう言うだけだった。『時が来たら話す』とな。そして、その後すぐに四人は元の世界へと帰ってしまった。それっきり行方も分からぬまま今に至っているのだ。」

長老は、それでも私は待っているのだがな。と、小さく笑った。そしてさらに続けた。

「その四人が掛けた封印も先日解け、無なる者による封印は再び拡大を始めている。土岐よ、どうか島を救ってくれ。この島にはもう時間があまり残されていないのだ。」

 長老は土岐に向かって頭を下げた。

「ちょ、ちょっと待ってください。4人でやっと封印したんですよね。今度は私一人なんてもっと無理じゃないですか。」

 まだ決心もなにも着いていない土岐は、いきなりの事にびっくりした。

「なにも土岐一人で行けとは一言も言ってはおらんよ。真神空樹と共に行ってもらう。」

 長老は頭を上げて言うが、それでも土岐は四人と二人じゃ全然違う…などとぶつぶつ呟いていた。長老はそんな土岐を気にせずに続けた。

「それに無効山山頂までは私達も共に行く、心配は無用だ。しかし、無なる者と戦うのは土岐と空樹だけだ。これはあの四人の時も同じだったそうだ。」

 土岐はそこまで聞いてやっと不平を言わなくなった。その代りに土岐は新たな質問をする。

「空樹はもう引き受けたんですか。」

 土岐は同じく戦うという空樹がこの事を引き受けているのかちょっとだけ気になったのだ。

「あぁ、空樹は引き受けてくれた。少しだけ時間はかかったがな。」

長老はそれに対して事実だけを答えた。この答によって土岐の心も決まった。

「わかりました。私も受けます。」

 ちなみにこれには多少勢いが混じっている。空樹が受けて自分だけ受けないのは何となく嫌だとも思っていた。そして何よりどうせもうここまで来てしまったのだ乗り掛かった船には乗ってしまうのが土岐だった。

「ありがとう。これから先は厳しくつらい事が幾度となくあるだろう。それでも頑張って乗り越えてくれ。」

 長老は感謝の意をこめて、再び頭を下げた。そして、長老は懐から一つの石を出した。その石は黒く、まるで黒曜石のようだったが、そこに黒曜石独特の脆さは見当たらなかった。

「これはと呼ばれている特殊な石だ。これを使えば同じ能力を持つ者を見つけ出し、さらにその者が石を持っていれば交信をする事もできる。欠点は使うと気力を激しく消費してしまうところだな。できるだけ使わないようにしてくれ。」

 長老は土岐の手にその石を握らせた。

「私の能力って稀少なんですよね。それだと私が貰っても使えないと思うんですけど。」

 土岐はもらった石を見てどうしようか困った。

「それは心配いらんよ。言い忘れていたが、私の能力も『光』なのだ。そして私はもう一つ石を持っている。」

長老は証拠とばかりに、再び懐から土岐と同じ光沢のある白い本と石を取り出した。

「私と同じ能力…それなら私が行かなくても長老さんが行けばなんとかなるんじゃないですか?」

土岐はふと思った事を率直に言った。

「私には無理な理由があるのだ。」

 そう言う長老の顔には悔しさがにじみ出ていた。さらにその手は強く握られ、血の気が無くなりはじめている。

「私はもう一冊本を持っている。」

 長老は立ち上がり、和室に備え付けられた文机の上から、表紙いっぱいに七色の渦が描かれた本を手に取った。

「これは賢者の真書と呼ばれる特殊な真書だ。この本は代々のこの町の長老が引き継いでいる。そして、私の能力の大半はこの本に記されている防御結界の術を維持するために費やされているのだ。」

 賢者の真書を見る長老の眼はどこか憎しみがこもっているが、それでも仕方ないと割り切っているようだった。

「それでも並の敵なら問題はないのだが、それ以上となると少しばかり能力が足りなくなってしまう。それでも盾ぐらいにはなれるとは思うがな。」

 長老は自分がほとんど何もできない状態だと分かっていても、それでも何かをやろうとしていた。土岐はそれを見てちょっと恥ずかしくなった。土岐は自分の事しか考えていなかったのに対して、長老は自分のやりたい事をこらえてまで町を守っているのだ。土岐は確かにいきなり突き付けられた事実には驚いた。しかし、ここまで来たからには何かやるべきことがあるのだろう。そして今、土岐にしかできないことが目の前に提示されている。

「分かりました。」

 そして、土岐の決心はついた。

「やります。そういうことなら長老さんの分まで私が戦って、長老さんは戦わないで済むようにします。その分長老さんはこの町を守っていられるんですよね。」

 土岐は笑った。その笑みには決心と、ほんの少しのてれが隠れていた。

「そう言ってくれるとありがたい。」

 長老は土岐の笑顔を見て、つられて笑う。その笑顔に、さっきまであった憎しみはなかった。

「さて、私が言うべきことはすべて言ったようだ。土岐から他に聞いておくことはあるかね。」

「私ももうないです。」

土岐は今思い当ることはすべて質問した事を確認してから言った。

「そうか。なら司を呼んできてくれ。書室はすぐ前の部屋になっている。」

「はい。」

 土岐は長老に返事を返して和室から出て行った。

 長老は、土岐が出て行った事を確認すると、再び無効山へと目を向けた。

「――これが答えか。」

 そしてそれだけ呟くと、長老は無効山から目を離した。――

土岐が司を連れて戻ってくると、長老は司に向かって言う。

「今日はゆっくり休みなさい。町の案内と修行の準備は明日にしてくれ。私もそれまでにはすべて手配をしておく。」

「分かりました。お願いします。」

 司はかしこまって頭を下げた。

「私の話は以上だ。」

「それでは私達も失礼します。」

司はもう一度頭を下げて踵を返した。

「ありがとうございました。これからしばらくお世話になります。」

 土岐も今日のお礼を言うと、ぺこりと頭を下げて司の後を追った。――

 翌日、土岐は誰かに起こされていた。

「……きろ。…おきろ。」

 土岐は寝ぼけながらもその声を聞いた。

「ん、母さん……なにかあったの。」

 土岐は寝ぼけて、さらに目も開けずに言った。

「誰がお母さんだ。俺は空樹だ。」

 返ってきたのは、呆れている空樹の声だった。土岐はそれを聞いてやっと昨日の顛末を思い出し、跳ね起きた。

「そうだった。私、昨日から島にいるんだった。」

「飯だ。さっさと降りてこいよ。」

 空樹は土岐が完全に目覚めた事を確認すると、土岐の部屋から出て行った。

 土岐は身支度を整えると、下に降りた。食堂にはすでに空樹と司がテーブルに座っていた。

「……遅い。」

 司は少しいらだったように土岐をにらみつけた。

「ごめんなさい。」

 土岐は素直に謝って自分の席に着いた。

「今日の朝食は目玉焼きとサラダだ。」

 空樹はそう言ってテーブルにお皿を並べた。

「いただきまーす。」

 土岐はお皿が並べられると、すぐに目玉焼きに手を付けた。黄身の部分を割ると、半熟の黄身がトロリと出てきた。それを白身にからめて一緒に食べた。

「おいしーい。」

 土岐は笑顔と共に行ったが、それでも箸を休めることはなかった。その様子を空樹と司は自分の朝食を食べながらもすがすがしく見守っていた。何より食いっぷりがよかった。

 朝食を終えると、空樹は食器の片付け、司は土岐に今日の予定についてを話し始めた。

「今日やることは大体二つだ。一つは土岐の使う武器を取りに行く。能力だけでも倒せない事はないが武器があった方が能力を使う戦いを少なくできるからな。そしてもう一つは現時点で使える術を本に記帳してもらおう。」

「記帳ってどういうこと。」

 当然の事ながら土岐にその手の知識はないので質問する。

「島に来てすぐに渡した真書の中身はまだどのページも空白のはずだ。そこには一ページに一つずつ呪文と呪文の意味が記される。ちなみに呪文の数は全部で五十.一レベル上がるごとに一つ呪文が出てくる。だが…なんだ。まだ見てなかったのか。」

 司は土岐の様子を見て、まだ真書をもらってから内容すら確認していない事を悟った。

「いや、昨日も疲れてすぐに寝ちゃったんだよねー。」

 土岐の目は司の目を完全に避けていた。

「……まぁいい。とにかく、真書は放っておけばただの白紙の束と変わりはしない。しかし、今日真書に呪文を記帳してもらうことでやっと真書を使う術、『真術』を使う事ができる。」

「それがもう一つの能力ってこと。」

「そういうことだ。そして明日の予定だが、明日からいよいよ修業を始める。修行といっても実戦になるからな。今日は早めに寝ろ。」

 司は何気なく明日の予定も告げたが、土岐はその言葉にちょっとだけ身構える。この世界はほんの少しの違いを除けば、土岐の元いた世界と何ら変わりはない。そして危険という面ではこちらの世界の方が多い。一歩間違えれば死んでしまってもおかしくはないのだ。

「安心しろ。明日は実戦といっても戦い方を覚える程度のことしかしない。」

 司は土岐の様子を見て言う。

「そうなの。」

 対して土岐はいまだに半信半疑という様子だった。

「戦い方も知らずにいきなり戦っても勝てるやつはいない…」

 司はそこでふと空樹を見た。

「…いや、いたとしてもそれは天才としか言いようがないな。」

 そして付け加えるかのように言った。

「そこで戦い方とかも教えてくれるの。」

 土岐は司の様子には気づかずに言う。

「あぁ、一応ひと通りの基礎は教えてやる。だが最終的なスタイルは自分で決めることになるからそれは覚えておけ。」

 司は土岐に気づかれる前に視線を戻した。

「さあ、そろそろ準備を始めに行くとしよう。」

 司は席を立ち、土岐を促した。

「あ、うん、……それじゃあちょっと待ってて。」

 土岐はまだ聞きたい事があったが、一度それを飲み込んで、出かける準備をするために一度自分の部屋に戻った。

 土岐が準備を終えて食堂に戻ってくると、司は空樹と話をしていた。

「……頼めるか。」

「あぁ、今日はほとんどやる事無さそうだからな、その位はやる時間もある。」

 司が空樹に何かを頼んでいるようだった。しかし、土岐が食堂に入るころにはその会話も終わっていた。

「準備できたよ。」

 土岐が司に告げる。

「わかった。行くとしよう。空樹、後は頼んだ。」

 司は土岐が食堂に入った時点で立ち上がり、最後に空樹に一言だけ言うと、土岐と共に家を出た。

 土岐と司は朝の市場を横目に歩いてゆく。市場では、取れたての新鮮な野菜や魚が個々の店に所狭しと並べられていた。土岐は歩いているうちに、ふとある事に気づいた。

「あれ、そういえば車が一台も見当たらないけど……」

「この島にいる限りそんなものは必要ない。速い移動なら飛べばいい、物を運ぶのも能力を使えば負担もない。」

 司は土岐の感じた疑問に簡単に、なおかついつも通りの無表情で答えた。

「そっか。あと……」

「無表情で悪かったな。」

 司は土岐の心を読み、土岐が言い切る前に無表情から怒りの形相になった。

「もう(無表情の事は)何も言いません。」土岐はこれ以上司の怒りを買わないために、大人しく引き下がった。

「ここだ。」

 どうやらちょうどよく目的地に到着したらしい。そこで司が一度立ち止まった。土岐も足を止め、ふと上を見ると、「初風町商店街」と書かれたアーチがあった。土岐が再び前を見ると、いつの間にか司は再び歩き出し、アーチをくぐって一番初めにある右側の店に入っていこうとしていた。

「あ、待って。」

 土岐は慌てて司の後を追いかけた。

 店に入ると中には同じような剣と盾、弓などがそれぞれの棚にいくつも並べられていた。カウンターに店員はおらず、代わりに奥から金属を叩く音が聞こえる。司はそんな事はお構い無しといったように無人のカウンターの前まで行くと、大きく息を吸った。

「ブン、出て来い!」

 司は吸った分の息を全て使ったような大声で店の奥に向かって怒鳴り声を上げた。それは近くにいる土岐が慌てて耳をふさぐほどの声だった。土岐が司をよく見ると、司の手にはマイクまで握られていた。店内放送用のマイクだ。ちなみに音量は最大で、カウンターまで寄ったのは、マイクを取るためでもあったようだ。

 マイクの音に反応して、奥から聞こえていた金属を叩く音が消え、代わりに「あいよ」と声がした。そして、それに続いて少し小太りの、それでいて司とほとんど変わらなそうな年齢の男が出てきた。

「いらしゃい…なんだ、司か。何の用だ。」

 男は相手が司と分かるとぶっきらぼうに言った。男は音の通り奥で作業をしていたらしく、前掛けをしたままだった。

「用があるのは正確には俺じゃなくてこっちだ。」

 司は後ろの土岐を指して言う。

「嬢ちゃんが俺に用…司、その前に一つ聞くが……」

「俺の隠し子じゃないから安心しろ。それとそのボケは聞き飽きたからもうやめろ。」

 司は男の言いたい事を即座に判断して遮った。男は言おうとしていた事を先に言われたうえに、自分のボケを封じられてちょっと悔しそうに、「そうか」とだけ言うと、土岐の方に向き直った。

「俺はブン。真具売りだ。真具の事なら何でも言ってくれ。よろしくな、嬢ちゃん。」

 男――ブンは手を出して言った。

「私は鳥山土岐です。昨日この島に来ました。」

 土岐は差し出された分の手を握った。

「早速一つ聞きたいんですけど。」

 土岐はちょっと恥ずかしそうに切り出す。

「真具って何ですか?」

 土岐が疑問を発した瞬間ブンはおかしそうに笑った。

「ハハハ、思ってた通りの一言だ。初めて来たやつは大体それを言うからな。真具っていうのは能力を込められた道具の総称だ。一般的には武器や防具だが、例外的な物で家具まである。まぁ家具になると注文制になるけどな。」

 ブンは説明しながらカウンターを出ると、棚から片刃の剣を一振り取った。

「たとえば今の嬢ちゃんでも使えるの剣は風から刃を作り出す事ができる。もちろん風で作った刃は飛ばす事もできるし剣自体の刃と合わせて剣自体の切れ味を上げることもできる。しかしな、能力を付加されているという事はそれを制御するだけの使い手の能力も必要になってくる。制御できるかどうかはレベルで判断するようにされててな、嬢ちゃんのレベルを見る限りまだ四だから剣しか売れないな。もう一レベル上がればもうひとつ使える真具があるからまた上がったら来な。」

 ブンが土岐のレベルを言うと、司は少し驚いた。

「ん、どうかしたか?」

 ブンは無表情な司の表情のほんの小さな変化を見逃さずに指摘した。

「なんでもない。」

 司は文に顔を見られないようにしながら答えた。

「そうか。とおりあえず嬢ちゃんに真具を渡すか。真風の剣は……ん?そういえば昨日長老が言ってたのは嬢ちゃんの事か?」

 ブンは何か思い出し、それを司に確認する。

「そうだ。」

「それなら関係ないな。……ほれ、受け取りな、嬢ちゃん。」

 ブンは司から確認が取れると、カウンターの内側から鞘を取り出した。そして、それに剣を納めて土岐に手渡した。

「ありがとう……そういえばお金はいらないんですか?」

 土岐はとおりあえずお礼を言ったが、その後で現実的な思考が働いた。

「あぁ、関係ないって言ったのはそれだ。普通は金を取るんだがな、嬢ちゃんの事は長老から聞いてるから関係は無いんだ。」

 ブンはとおりあえず土岐の疑問に答える。

「それって昨日聞いた戦いの話と関係あるんですか?」

 土岐は手にした剣の刀身鞘から少しだけ引き出しながらもう一つ疑問を挙げた。

「あぁ、それで間違いはないだろうな。」

 ブンは土岐の様子に気づいたが、とおりあえず頷いておいた。

「そうなんだ。」

 土岐は剣を鞘に納め直しながら素気なく言った。

「まぁ暇ならゆっくりしていってくれ。茶ぐらいなら出すぜ。」

 ブンはカウンターに戻り、そこで頬杖をかいた。

「悪いがまだ行く所がある。……お茶はまた今度もらおう。」

 司は少しだけ時間を気にしてブンに告げた。

「そうか、それじゃあまた来てくれ。」

 ブンは二人を見送ると、さっきの土岐の様子を思い出す。

「あれは意外と尾を引きそうだったんだがな。司は気付いてる様子は無かったしな~。まああいつは意外と鈍感だから仕方ないが……だれか気付けばいいんだが。」――

 土岐と司は再び商店街の中を歩きだした。二人はしばらく無言だったが、思い切って話しを切り出したのは土岐だった。

「あのさ、私の能力ってそんなに強いの?」

 その声にはいつもある元気が抜けている。

「……そうだな。光の能力は極めれば最強クラスの能力であるのは確かだ。ちなみに次に行く場所でその能力を引き出してもらう。」

 司は少し変に思ってはいたが、ブンの予想通り全く土岐の変化に気づいてはいなかった。

「そっか。」

 司に気付かれる事もなかったので、土岐は暗い気持の中へと入り込んでしまった。この気持ちが土岐に芽生えたのは真風の剣の刀身を見た時からだった。今までは戦う事を口頭でしか知らされていないため、何処か実感というものがつかめなかった。しかし、実際に剣を手に取ると、いよいよ実感が出てきてしまった。戦わなくてはならないという事実がいよいよ現実味を帯び、土岐にのしかかってきた。

「土岐、着いたぞ。」

 司の声で土岐は我に返った。

「あ、着いたんだ。」

 土岐は立ち止まると慌てて、それでも悟られないように明るい声を出し、照れ笑いを浮かべる。そうした後に土岐は目の前の建物を見た。しかし、その建物を店舗と呼ぶ気にはなれなかった。土岐の目の前に立っていた建物は、立派すぎる洋館だった。

「……もしかしてこの洋館がお店なの?」

 土岐はそうはでないと思いながらもとおりあえず言ってみた。対して司の答えは首を縦に振るだけだった。その答えに土岐はしばらく言葉を失った。

「この館には侵入者用のトラップがたっぷりと仕掛けられている。気を抜くと本当に死ぬことになるぞ。それとこれだけは覚えておけ。館にはいる時は扉を2回ノックしてから入れ。つまり扉にもトラップが仕掛けられているんだ。」

 司はそんな事はお構いなしに注意事項だけ言う。

「命にかかわるようなトラップって何なの?」

 土岐は面白半分でその事を聞いてみたくなった。

「例えば入口の罠は毒付きナイフが飛んでくる。……ついでだ。以前この洋館を冒険しようとした時の話をしてやろう。」

 司は一度深呼吸をして覚悟を決めた。

「え、ちょっと待って、なんだか嫌な予感が…」

 土岐は司の様子で危険を察知したが、すでに遅かった。

「俺が十五歳の時だ。俺と仲間四人でこの館に入り冒険することになった。入口のトラップはこの町の人は全員知っているから難なく解除できた。しかし、問題はここからだった。階段を登れば段が消える。鎧のちょっとでも触れば暴れまわる。極めつけは床が抜けてその下に竹槍地獄。止めは大岩が転がってくる始末だ。」

 司は自分で言っていて恐ろしくなり、その顔色は真っ青だった。

「分かった。分かったからもうやめて‼」

 土岐は所かまわず悲鳴を上げた。心なしか周りの歩行者の顔も青くなっているように見えるのはおそらく間違いではないだろう。

「とにかく、この館に入る時は気をつけろ。」

 司はそう言って館の扉に二回ノックをして館に入った。扉が閉まると、土岐も言われたとおりに扉を二回ノックして扉を開けた。そして、罠が発動しない事をまず確認して館へ入った。

 舘の中は外見と同様に広かった。土岐が中に入ると、そこはエントランスになっていた。エントランスには一見しただけでは分からないが、豪華な装飾品がさりげなく飾られていた。しかし、階段のわきに置かれた古い大きな箱のようなものが全体の調和を見事にぶち壊していた。その横には一人の若い女が立っていた。

「こんにちは。」

 若い女は土岐を見て微笑みながら挨拶をする。

「あ、こんにちは。」

 土岐も若い女性に気付き、慌てて挨拶を返した。

「私は。この館で信書に術を記帳する仕事をしています。よろしくね。」

若い女――涙奈は自己紹介を土岐にさっきと非妙に違う笑みを向けた。

「私は鳥山土岐っていいます。よろしくお願いします。」

 土岐も簡単に自己紹介をすると軽く頭を下げた。

「あれ、そういえば司は知りませんか?私より先に入ったはずなんですが…」

 土岐は司の存在を思い出し、辺りを見渡した。しかし、司の姿は一見どこにも見えなかった。

「ああ、司ちゃんなら心配はないわ。」

 涙奈は笑ってそう答えた。

「……さっきから黙って聞いていれば、何が心配ないだ。そろそろ降ろせ。」

 どこからともなく司は涙奈に抗議の声を上げた。その声を頼りにして土岐はもう一度司を捜した。そしてふと頭上を見ると、そこにはたくさんのトラップと、片足を縄で引っ張られ、逆さ吊りにされた司がいた。その顔は無表情を保とうとしてはいたが、隠しきれない怒りがにじみ出ていた。

「今降ろしたら面白くないじゃない。」

 涙奈はいたずらっ子の笑みと共に楽しそうに答えた。

「……土岐、悪いが剣を貸してくれ。」

 土岐は司に言われたとおりに剣を渡した。司は剣を受け取ると体をひねり、なおかつ他のトラップに当たらないようにしながら足の縄を切ると、もう一度体をひねって見事に着地した。

「「おお~」」

 土岐と涙奈は司の動きに拍手した。当の司はうれしくも何にもないが。

「そろそろ俺をいじめるのはやめろ。」

 司は声に怒りをのせて言う。怒りをのせても大声にならないのは司が頑張って自制しているにすぎないが。

「あら、ごめんなさい。」

 涙奈は反省する気などないようで、司の言葉も怒りも軽く受け流した。

「それとちゃんをつけるのもやめろ。」

 司はあきらめずにもう一言追加した。

「それはそれとして今日は何のご用かしら。」

 涙奈は明らかにわざとらしく話題を変えた。司は怒る気力すら失ったようだった。

「はぁ、まあいい。今日は土岐の能力を解放してくれ。」

 大きなため息をひとつつくと、司は端的に用件を言った。もう涙奈と口論する気は全くないようだ。

「了解。土岐ちゃん、ちょっと本貸して。」

 土岐は涙奈に言われるがまま自分の白い真書を手渡した。

 涙奈は土岐から真書を受け取ると、古い箱のふたを開けた。箱の中には真書がちょうど入る穴が開いていた。涙奈はそこに土岐の真書をはめ込むと、ふたを閉めて箱の側面についているボタンをいくつか押した。しばらくすると箱から『ピピッ』と電子音が響き、箱のふたが軽く浮いた。涙奈は箱を開けるとそこから真書を取り出し、「確かめてみて。」と土岐に返した。土岐は早速真書の表紙を開いてみた。

『リーム わずかばかりの癒しの光』

そこには今まで見たことのない文字が並んでいたが、土岐はそれをなぜか読むことができた。二ページ目、三ページ目とめくっていくと、四ページ目まで記されており、それぞれのページにそれぞれ別の言葉が記されていた。

「これが今の私が使える能力ってこと?」

「あぁ、そういうことだ。」

土岐が言うと、司が答えた。

「初めてだからちょっと試してみないと実感もわかないでしょ。ここには覚えた術を試すための地下室があるの。そこでいくつか使ってみるといいんじゃないかしら。」

 涙奈はなぜか少し楽しそうに土岐と司を地下室へ連れ込んだ。

 地下室はいうなれば射撃の訓練場のようだった。少し変わっているのは、的の位置が一つ一つ違うことくらいだろう。

「ここならだれにも迷惑かからないから好きなようにやってね。」

 涙奈に言われ、土岐は改めて呪文一つ一つを確認してみる。

『リーム わずかばかりの癒しの光』

『レラーム 硬く透明な殻』

『ラナハナール 鋭利なる光の渦』

『エムル 眠りに誘う青煙』

 土岐が今使えるのはこの四つらしい。土岐はとおりあえず最初の呪文を唱えてみる。

「リーム」

 呪文に呼応して、土岐は薄い橙色の光に包まれた。その光はその色のように暖かかった。

「何だか暖かい光だったけど、これ何なの?」

 土岐は体のあちこちを見てみたが、大きな変化は何もなかった。

「それは回復系の真術にある作用ね。たぶん傷を治療するタイプの回復呪文だと思うわよ。意識すれば自分以外の人にも使えると思うからちょっとやってみたらどうかしら。」

 涙奈の説明を聞いて、土岐はもう一度、今度は司を狙って呪文を唱えてみた。

「リーム」

 涙奈の言ったとおり、橙色の光は司を包み込んだ。

「回復呪文で間違いはないようだな。さっき罠から脱出する時にかすった傷がきれいに治っている。」

 司はけがをしていたらしい左手を見て言った。その手には確かに少しだけ血の跡が残っていた。

「効果も分かったところで次の術行ってみましょう。」

 涙奈はなぜか土岐をせかす。よくよく見ると、涙奈の手には小さな手帳が握られている。どうやら術の効果をメモしているらしい。

「はい、えっと、レラーム」

 土岐はせかされるがまま真書のページをめくり、そこに書かれた呪文を唱える。今度は半透明の薄い光がドーム状に展開された。土岐がそれに触れると、その光は意外なほど硬く、叩いてみるとコンコンと音がした。

「結界ね。防御用の呪文だけどこういう術は意志の力が強ければ強いほど防御力も上がるから重宝すると思うわ。確か同じような術でレベル差が倍以上ある術を防ぎきったっていう逸話があるくらいよ。」

 涙奈は説明とうんちくを垂れながらも、手帳に効果を書き込んでいる。

「でも攻撃的な呪文がないな~。」

 土岐は内心ほっとしながらも軽口を叩いてみる。

「光の能力はどちらかというと防御、回復系が多いといわれるからな。攻撃はどちらかというと闇の能力の方が得意だ。」

 土岐の軽口に司は少し説明を入れる。

「えっと、次の呪文は……ラナハナール」

 土岐はそうと分かると自発的に呪文を唱えた。しかし、それは土岐があまり望んでいなかった呪文だった。

 土岐の呪文に呼応して出てきたのは、眩い光の渦だった。それは近くの的に当たると、その的を数回切り裂いた。

「……へ?」

 土岐は思ってもいなかった事態に呆然とした。

「俺は攻撃呪文が無いなんて一言も言ってないぞ。どちらかというと少ない方だと言ったんだ。」

 司は土岐の様子を見て言う。その言葉は土岐の心に突き刺さり、再び暗い感情が湧き上がってきた。

「と、とおりあえず次で呪文は最後だよ。」

 土岐はその感情を抑えるように、不自然でない程度の明るい声を出す。そしてページをめくり、呪文を唱える。

「エムル」

 その瞬間、土岐以外のすべては青い煙に包まれ、見えなくなった。

「え、ちょ、ちょっと、これ何?」

 土岐は慌てて呪文を消そうとするが、消し方が分からない事に気付き、さらに慌てる。

「つ、司!涙奈さん!大丈夫?大丈夫なら返事して!」

 土岐は声を張り上げるが、二人から返事はなかった。

 土岐が慌てている間に、煙は完全に消えていた。土岐がそれに気付いたのは、煙が消えてさらにしばらくしてのことだったが。

 煙が消えると、司と涙奈は倒れていた。それに気付いた土岐はさらに慌て、パニックに陥っていた。

「つ、司、涙奈さん、大丈夫。」

 土岐は慌てて二人に駆け寄ると、二人の状態を確認した。しかし、確認してみると二人はただ寝息を立てて寝ているだけだった。

「よかった。ただ寝てるだけで。」

 土岐は寝ているだけと分かってやっと落ち着きを取り戻した。

 土岐はしっかりと落ち着いてから寝ている二人を起こした。二人が完全に目覚めると、土岐は体調に変化はないか尋ねてみた。

「大丈夫だ。少しまだ眠い事を除けば体に変わったところはない。」

 司は心配するなといつもの無表情で答えた。

「私も眠いだけ……」

涙奈は眠そうなのを隠しもせずに答えた。

 土岐の呪文は一通り調べ終わったので、司は眠気が覚めると、「そろそろ次の店に行くとしよう。」と言った。

「あら、もっとゆっくりしていけばいいのに。」

 涙奈はいまだに覚めきっていない眠気をこらえながら、からかうような笑みを司に向ける。

「そうも言ってられない。まだ行く所がある。」

 司は早くここを離れたいという本心を悟られないように言った。

「そう、今度はお茶でも飲みに来てよ。」

 涙奈は名残惜しそうにしながらも二人を見送った。

 土岐と司は再び再び初風商店街を歩きだす。館を出た時点で空に昇る日は真上にあった。そろそろ昼時であろうというそんな頃、「グゥ~」と唐突に土岐の腹の虫が鳴いた。

「自己主張の激しい腹だな。」

 司はあきれたように目を伏せる。

「しょ、しょうがないでしょ。お腹減ったんだから。」

 対して土岐は顔を真っ赤にして呟く。

「まあいい。ちょうど俺も昼飯にしようと思っていたところだ。」

 司は珍しく笑った。

「むう、言い返せないのは悔しい。」

 土岐は顔を真っ赤にしたままむくれた。

「よし、今日は空樹もいない事だしどこかで外食をしよう。」

 司は空樹が家に来てからあまり行けなくなった外食をしようと朝食の後から考え、そのために空樹にいくつか頼み事までしていたのだった。

「え、今日は外で食べるの。」

 土岐はさっきまでの事を水に流して嬉しそうに言った。

「ああ、だがどこで食べようかまだ迷ってはいる。」

「そうだな、あそこの定食屋なら何でもあっていいんじゃないか?」

 司が何を食べるか決めようとした時、二人の後ろから誰かが提案する。

「そうだな、あそこなら好きなものを自由に……空樹、一体いつから居た?」

 司はいきなり後ろから現れた空樹にびっくりしながらも、何とかそれを表に出さないよう努力して言う。

「ん?確か土岐が今日は外で食べるの。とか言ったころから居たぞ。」

 空樹はどうしてそんな事を聞くのか少し疑問に思いながらも答えた。

「そうそう、明日の準備は全部終わったぞ。だから午後からはおれも一緒に回っていいか?」

 空樹はどうやら司に頼まれていた事を片づけてしまったようだった。

「そうか、確かに午後に回る店は空樹がいた方がいいかもしれないな。」

 司は空樹の仕事の速さに驚いたが、とおりあえず午後の予定とすり合わせて、空樹がいた方が良いと判断した。

「まあ何をするにしてもまずは飯だな。」

 空樹はちらりと土岐を見て言う。

「……そのようだな。」

司も土岐をちらりと見てそれに同意した。

土岐はもうご飯の事しか考えていないという思考がその表情に現われていた。こんな表情をした土岐を今から飯以外の方向に連れて行ける自信は、まだ付き合いの浅い二人には全くなかった。もしくは永遠に無理であろう。空樹を加えた三人は、ひとまず腹ごしらえのために定食屋へと入って言った。

一時間後

「ふう、お腹いっぱい。」

 土岐は幸せいっぱいといった表情で定食屋から出た。(本日の土岐の昼食 お好み焼き《豚玉》 豚骨ラーメン あんみつ アイスクリーム 各一つ)

「よく食うなぁ。」

 空樹は土岐の昼食の様子を思い出して言う。(本日の空樹の昼食 塩タン定食)

「確かに毎度思うが見事な食べっぷりだ。」

 司は島に来てからの土岐の食いっぷりを一つ一つ思い出す。どれも清々しかった。(本日の司の昼食 そば定食)

 二人にそれを言われると、さすがに年頃の女の子である土岐はちょっと恥ずかしくなった。(実は少し食べすぎていると自分でも分かってはいるのだった。)

「そ、それはそれとして次は何の店に行くの?」

 土岐は二人に言葉と自分の思考から逃れるように話を変えた。

「次は情報屋に行くぞ。」

 司はいつも通りも無表情に戻る。

「ま、食った分は働けってことだな。」

 空樹はちょっと意味あり気な事を言って歩き出した。

 三人は定食屋からしばらく歩くと、ガラス張りの店の前で足を止めた。その店はガラス張りであるのにもかかわらず、そのガラス一面にびっしりと何かの紙が張り出されていた。土岐はとおりあえずなんとか読めるものをいくつか読んでみた。

「蝙蝠三十匹討伐百シンク。真獣?…の散歩五十シンク。土地三十つぼ十万シンク。……司、この店一体何の店?」

 土岐はわけのわからない紙を眺めながらも尋ねてみる。

「さっきも言ったが情報屋だ。そのついでに仕事のあっせんとか不動産の管理とかもしている。その証拠がこの紙の山だ。」

 司もしばらく見ないうちの溜まったな。と思いながら答えた。

「結構溜まってるようだけど、誰かやる人いるの。」

 土岐はこの様子を見れば誰でも思う疑問を口にした。

「ああ、今は俺が大半の仕事は片づけてる。それでこれからは土岐にも手伝ってもらうぞ。俺一人じゃできない仕事もあるからな。」

 空樹は土岐の疑問に答えつつ、土岐の仕事を増やす事を告げた。

「……さっきの言葉の意味はここにあったのか。」

 土岐はさっき空樹に言われたことの意味をここでやっと理解した。

 土岐と空樹と司は、店の前でいつまでも話しているのも時間の無駄なので、とおりあえず店の中へと入って言った。その時、空樹は適当な仕事が記された紙をガラスから外していった。

「いらっしゃい、今日は新しい仲間の紹介かな。」

 店に入ると、店員であろう若々しい青年は涼しげな笑みと共に三人を出迎えてくれた。そしてなぜかこちらの要件が少し分かっているようだった。

「さすがジンだな。土岐、彼はジン。情報屋だ。」

 司は土岐にジンを紹介する。

「大体の情報は扱ってるよ。でも今は情報より依頼の方が多いくらいだけどね。あ、あと家出をしたくなった時もここに来るといいよ。適当な不動産貸してあげるから。」

 ジンは、有料だけどね。と付け足して子供っぽい笑みを浮かべた。

「私は鳥山土岐、昨日この島に来ました。」

 土岐が自己紹介すると、ジンは紙に土岐の名前を書き、ファイルにとじた。

「土岐…ね。今までで入ってる情報は光の使い手でちょっと変り者ってくらいだな。」

 そして土岐に関する情報をあいさつ代わりに披露した。

「か、変り者って……私を何だと思ってるの?」

 土岐はちょっと悲しくなった。

「まあ、間違ってはいないな。」

 空樹は昨日の出来事を思い出して言う。

「間違った情報ではないな。」

 司も同意するので、土岐はかなり傷ついた。

「周りの評価って厳しいな。」

 土岐はちょっとだけ社会の厳しさ(?)を知った気がした。

「それとジン、この仕事は初心者でも問題ないよな?」

 空樹はそんな土岐を放っておいて、入りがけに取った依頼の記された用紙をジンに見せた。ジンは依頼内容をよく読むと、軽く頷いた。

「ああ、これなら初心者どころか小学生でもできるね。」

「でも見たことないやつは驚くだろ?」

「それはそうだね。」

「それじゃあこれ受けるぞ。」

「毎度どうも。それじゃあよろしく頼んだ。」

 空樹とジンは何やら面白いいたずらでも思いついたような雰囲気だった。

「土岐、いつまでもうじうじしてないで仕事するぞ。」

 空樹は悲しみの中にいる土岐を強制的に現実に戻すと、土岐に本日の仕事を示した。

「えっと、ポチの散歩?報酬は五十シンク……ところでシンクって何なの?」

 土岐はポチとは何かも気になったが、とおりあえず昼ごろから聞き始めたシンクという言葉の意味から先に尋ねることにした。

「シンクはこっちの通貨だ。言うまでもないがこっちで日本の金は使えんぞ。」

 司は土岐の質問に答えるついでにすかさず注意した。

「あ、そうなんだ。それじゃあこっちで使えるお金もちょっとは貯めといた方がいいかな。」

「そういう意味でもここの仕事は結構儲かるぜ。この島の人たちはそれぞれ自分の仕事があって、ここにある仕事まで手が出せないからな。まぁここに仕事があるってことは、仕事で手があかないから趣味の手伝いしてくれとか、その仕事に支障をきたす事態が起きて自分ではどうにもならないから誰かどうにかしてくれっていう人がいるって意味でもあるんだけどな。」

 空樹は最後にちょっと困った顔をした。

「仕方ないさ。空樹自身まだレベルは高い方じゃないし、それに一応賞金稼ぎもいるからそういう仕事はそのうちにそいつらがやるよ。討伐系は報酬も高いから。」

 ジンはそんな空樹をなだめるように言う。

「それはわかってるさ。でも、ちょっとだけもどかしいってだけさ。」

 空樹は憂いあり気にジンに言った。

「さて、とおりあえず受けた仕事をまずは終わらせるか。土岐、行くぞ。」

 空樹は憂いをひっこめて土岐を笑顔で引っ張っていく。

「ちょ、空樹、まだ聞きたい事が…あぁ、もうこうなりゃ何でも来い!」

 土岐は引っ張られながらも質問しようとしたが、笑っている空樹を見て何となく質問する気が無くなってしまい、結局やけくそになった。

 空樹に連れられて、土岐はポチの散歩を依頼した依頼人の元へと向かった。そこで待っていたのは依頼人と、土岐がまだ見たことのない謎の生物だった。

 その謎の生物は、何となく犬に似ていたが、犬とは比べるまでもなく大きかった。そして、全身長く白い毛に覆われていた。

「また空樹君ですか。それは良かったね。ポチ。」

 依頼人の女性は謎の生物をポチと呼び、やさしくなでた。

「またお願いします。」

 どうやらこの頃は空樹がこのポチという名前の謎の生物を散歩に連れて行っているらしい。それが分かっているのか、ポチと呼ばれている謎の生物も空樹によくなついていた。

「ねえ、ポチってどういう生き物なの?」

 土岐は依頼人に気付かれないようにこっそり空樹に言った。

「まあちょっと待て。」

 空樹はポチに手際よく手綱をつけると、「それじゃあいってきます。」と言ってポチと共に歩きだした。土岐は空樹が歩き出したので、とおりあえずその後をついていくことにした。その様子は別に驚いたわけでもなさそうで、ただ単にもの珍しそうにポチを見ているだけだった。

「驚いてないな。真獣を初めて見れば叫び声の一つくらい上げると思ったのに。」

 空樹は土岐の様子を見て少し悔しそうだった。

「そう?結構かわいいと思うけど。あ、実は肉食だったりする?」

 土岐は冗談っぽく言った。

「それだったら俺は今頃食われてるよ。」

 空樹は笑って答えた。

 ポチは散歩中楽しそうに犬よりも長く大きな尻尾を左右に揺らしていた。そして街の外れまで来ると、そこには大きな川があった。

「少し水浴びするか?」

 空樹はポチに尋ねた。

「ガウ!」

 ポチは空樹の言葉が分かるらしく、それを聞いた瞬間嬉しそうな声を上げた。空樹は手綱をはずしてやると、ポチの銅を軽く二回たたいてやった。ポチはそれを合図にして河川敷へと飛び出した。

「いいの?」

 土岐はちょっと心配になったので空樹に言う。

「水浴びのことか?あいつには必要だからいいんだよ。」

 空樹は水浴びしているポチを指して言った。ポチをよく見てみると、ポチは水中を見事に泳いでいた。そこに映るポチの影は、まるで小さなクジラのようだった。

「え、なんだか形変わってない?」

 土岐はいきなりの出来事に今度こそ驚いた。

「ポチはちょっとだけ変わっててな、体全体が水に浸かると後ろ脚と尾が変化して尾ひれになるんだ。おかげで狙ってくるチンピラも多くて困ってはいるんだけど、それでもあいつは水浴び好きだからさ、多少見られたとしても俺がポチの散歩する時はだいたい水浴びさせてやるんだ。」

 空樹は水浴びというより、もう完全に泳いでいるポチを見守っていた。

 ポチの水浴びも終わり、土岐と空樹はポチを依頼主の元へと返すために、帰路に就いた。帰り道では、ポチも大満足のようだった。しかし、帰り道で異変は起こった。

「今日こそその真獣いただくぞ。」

 突然目の前に男が現れた。そして、それを合図に数人の他の男たちも現れ、土岐と空樹とポチを囲んでしまった。

「またあんたたちか。いい加減俺を相手に勝とうと思うなよ。」

 空樹はうんざりした様子で言った。

「今日は女もいるからそうやすやすとは動けないだろ?」

 男は下品な笑みを隠しもせずに言う。

「あの人たち何なの?」

 土岐はばかばかしいと思いながらも空樹に尋ねた。

「さっき言ったろ?ポチを狙うチンピラがいるって。」

 空樹は周りの男たちの動向に注意しながら答える。

「なにをごちゃごちゃ言ってる!」

 男は手をかざすと、そこから真空波を放った。空樹は冷静に同等の真空波を放って相殺した。

「今日はいきなり武力行使か。進歩したのか退化したの……」

 空樹がしゃべっている途中でも容赦なく周りから真空波が飛ばされる。空樹は一人で何とか全てに対処しているようだが、少しずつ押されている。

「う~ん、これ以上やると私も怒りますよ?」

 土岐はこの現状にちょっと憤りを感じ始めた。

「お前みたいながきに何ができるんだ?」

 リーダー格と思われる男は嘲るように土岐に言い返した。

 その瞬間、土岐の中の何かが少しだけ外れた。

「私にできること……ね。今の私でもこの位はできるかな。エムル!」

 土岐は残酷な笑みを浮かべたかと思うと、いきなり呪文を唱えた。

 呪文に呼応して、青い煙が現れる。しかし、今度は空樹とポチに当たらないように煙は操作されていた。そして煙が消えると、男たちは全員眠っていた。

「女だからってなめると痛い目見るよ。」

 土岐は残酷に言い放ってからやっと我に返った。

「あ、またちょっとやりすぎた。」

 土岐は自分でやった事に右往左往してしまったが、空樹は土岐の変化に驚きつつも、いつものようにチンピラを縛り上げ、全員路上に転がしておいた。

「まぁいいんじゃねえか?あいつらも少しは賢くなれたわけだし。」

 空樹も土岐の変化を見て、女には気をつけようと少しだけ意識を変えるのだった。

 その後は大して変化もなく、無事依頼を終わらせることができた。土岐と空樹は報酬をもらうと、司とジンが待つ情報屋へと戻って行った。

「お疲れさま。ちょうどお茶淹れてるところだから二人も一緒に飲んでってよ。」

 ジンはねぎらいの言葉を土岐と空樹にかけると、司の座っているテーブルを指した。二人はそれぞれ司の隣に座ると、仕事の報告と感想を言った。

「真獣ってすごく大きいけど結構かわいいね。」

 まずは土岐が感想を述べた。

「ああ、あいつらは温厚な性格もあってこの町では飼っている家庭も多い。大体の家は子どもに散歩をさせるが、子どものいない家はここに依頼しに来るんだ。ポチ以外は子どもたちが小遣い稼ぎにやるほど楽な仕事だがな。」

 司は待ちくたびれていたようだが、うんちくを垂れるのは忘れなかった。

「そうそう、またあのチンピラどもが来たぞ。今回は土岐が全員眠らしちまったけど。」

 次に空樹が報告をした。

「またあの馬鹿たちが出たのか。そろそろ一人じゃつらくなってきた?」

 ジンはお茶の準備をしながら空樹に尋ねた。

「そうだな。もう俺一人だと誰一人けがを負わせないのは無理があるな。」

 空樹は困ったように答えた。

「空樹は眠らせたりする術は使えないの?」

 土岐はさっき自分がやった方法を使えないか空樹に尋ねる。

「できなくはないけど、一人一人眠らせる術だから効率が悪いんだ。」

 空樹もその方法はすでに考えていたが、自分の術の性質上無理だと分かっていたらしい。

 そこでジンはお茶を運んできた。香りからしてどうやら紅茶らしい。

「そうか、なら依頼としてのランクを上げるかしないみたいだな。」

 ジンはお茶を配りながらも、深刻そうに言った。

「ランクを上げられると俺が手だしできなくなるんだけどな~。」

 空樹はジンの言葉を聞いて困ったように言った。

「仕方ないだろう。今だって実際はもうランクを上げてもいいくらいの依頼を空樹が全てをうまく納めることで何とか均衡を保っていたんだから。保てなくなった以上、ランクを上げるのは仕方ないじゃないか。依頼主には少し悪いが料金も引き上げてもらわないとな。」

 ジンは空樹の気持ちも分かってはいたが、それはそれとして割り振り、厳しい選択を下した。

「えっと、それって空樹が均衡を保っていられればポチの散歩は今現在の状態で続けられるってことなの?」

 土岐はちょっとだけ悩んだが、それでも自分に何かできるのではないかという思いで言う。

「ん、ああ、均衡を保てれば別に問題はないな。受け手がそれでいいって言ってるわけだし。」

 ジンは土岐の言葉の意図が分からなかったが、とおりあえず事実だけを伝えることにした。

「それならまだ空樹は均衡を保てるね。」

 土岐は何かいたずらを考えついたような笑みと共に言った。

「ちょ、ちょっと土岐、俺は……」

「できるでしょ。気がするの。」

 空樹は戸惑いの声を上げようとしたが、それを遮って土岐が言った。土岐の眼は、空樹に「まだできると言いなさい。」と命令していた。空樹も土岐の言葉を聞いてやっと悟った。

「そうだな。そういえばまだもう少しだけ均衡を保つ手段があったわ。」

 空樹も土岐と同じような笑みを浮かべて答えた。

 ジンは二人のやり取りを見てしばらく考えたが、全体の損得を考えて、さらにさっきから軽くにらんでくる司の意図まで考えに入れて結論をまとめた。

「そうか。まだできるなら俺は何も言う事はないよ。でも無理はしないようにね。」

 ジンは結局ポチの散歩はランク上げしない事にした。それを聞いて、土岐と空樹は見ても分かるほど喜び、司は司で内心ジンの決断に満足しているようだった。

「さあ、もうこの話はやめにしてお茶を飲もう。せっかく冷たく冷やしたのにぬるくなっちゃうしね。」

 ジンは自分も座ると、ティーグラスを持って言った。

「せっかく冷たくしたのなら冷たいうちにいただくとしよう。」

 司もジンにならってティーグラスを持った。土岐と空樹もティーグラスを持つ。

「いただきまーす。」

 土岐はそう言うと、四人とも冷たいお茶に口をつけた。控え目な砂糖の甘味が紅茶のうまみを引き立て、そのわずかな甘みは暑い中散歩してきた土岐と空樹にはありがたいものだった。その後はもう仕事の話は一切せず、ジンが町の噂を交えた冗談話をいくつか聞かせてくれて、土岐と空樹と司はそれに時々茶々を入れる程度だった。

 土岐と空樹と司の三人は、お茶を飲み、しばらく雑談した後、ジンに別れを告げて家路に就いた。土岐は帰り道、今日一日の出来事を思い出していた。生れてはじめて日常では見ることのできなかった剣を見た。そして、それは土岐のものになった。実際今もその剣の重さが怖い。今日は新しい能力を手に入れた。一つは誰かを傷つけられる能力だった。でも、ポチを狙うチンピラを見て、土岐はポチを守りたいと思った。どれも土岐の本当の思いだが、土岐はまだ揺れていた。怖いのだ。自分に人を、いや、別に人でなくてもいい。とにかく生き物を殺す能力があることが怖くてしかたない。さすがに土岐も誰も傷つけずに生きていけるとは思ってはいない。だが、今日手に入れた力は、どれも一歩間違えば簡単に人をも殺してしまう。土岐はそれだけの力を手に入れた今、それだけの力を手にするという事は本当に恐ろしいことだと分かった。しかし、今日手に入れた力でポチを守れたのも事実だ。

土岐は、まだ結論を見出してはいない。しかし、土岐は今日見た笑顔を守るためなら、今日手に入れた力を少しは使ってもいいのではないかと思っていた。

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