祖父母との話し合い
川島家は重工業で栄えた家柄のようだ。
民間向けの船舶や鉄道車両、航空機。軍事用の戦闘艦、戦車や戦闘機も作っているデカイ会社だ。
会長として社会的に影響力があるので、今回の孫である俊和が生存していたことを知り、狂喜乱舞したようだ。
あ、これは島風から教えてもらった。
その後、違和感を覚えて色々と調べた結果、離島への生存者の探索が一度も行われずに放置されていた理由が自分の身内の仕業と分かり、大激怒した。
川島五郎には、防衛軍から生存者無し。と知らされていたのだが。
当時、信頼していた人間からの報告だったので川島五郎はこれを信じた。
まあ、長年騙していたことが露見して、川島一族内と防衛軍内部でかなり激しい粛清が行われたらしい。
島風曰く「半月で終わらせるのは不可能な仕事量だったはず」とも言っていたが。
まあ、川島五郎も後ろ暗いことがある人なのだろう。防衛軍のお偉いさんと取引などを行ない。孫の俊和を迎える準備を急ピッチでやったようだ。
で、今俺達は軍が用意してくれた応接室で、川島五郎とその妻の川島妙子と面会している。
三人がけのソファに俺と俊和が座り、向かい側のソファに川島五郎と川島妙子が座っている。
俊和の正面が川島五郎。俺の正面が川島妙子だ。
で、見届け人は沖田水無月司令官が俺達の右側のソファに座り背後には戦艦扶桑が控えている。
「初めまして、というべきだろうな。ワシが川島五郎だ」
「わたくしが川島妙子よ」
目の前に居る老夫婦は綺麗な白髪で、川島五郎は立派な白い髭を生やしている。
二人とも和装で、川島五郎は会長に就くだけあって威厳がある人だ。正直言うとあの人型のエイリアン。王女級と戦っていなかったら委縮していたかもしれない。
奥さんの川島妙子は、品の良い淑女だ。ニコニコと嬉しそうに微笑んでいる。
「は、初めまして、跡部俊和です。それと、こっちが姉ちゃんの」
「初めまして、私は航空母艦、信濃です」
俊和と俺が自己紹介をすると、なるほどと川島老夫妻が改めて俺へ視線を送る。
うん、めっちゃ観察されている。
俺が俊和と数日一緒に暮らし、エイリアンの王女級を倒したことは知っているはずだ。
敵意は感じないから一応、良しとするか。
「孫が世話になったようだな。ありがとう。貴女が居なかったら、孫と生きて会うことは無かった」
「ええ、本当にありがとうございます。信濃さん」
「いえ、私もこの世界に降り立ち、どうすれば良いのか分からず途方に暮れていたところで、俊和君と出会いました。ですから、お互い様です」
俊和がいなかければ、俺は無人島生活を開始する羽目になっていた。
エイリアンの王女級とも戦おうともしなかっただろう。下手をすれば殺されていた可能性がある。
命を捨てるつもりで戦ったから、俺はあのエイリアンとの戦いに勝って生き残ったと思っている。
「では、自己紹介も終わりましたので、さっそく今後について話し合いましょうか」
沖田司令官の言葉に俺達四人は頷いた。
まず、俊和の引き取る人物だけれど。
「ワシが保護者になろう。跡部の御夫婦からも手紙を頂いておったしな」
「手紙ですか?」
「うむ」
俺の問いにしっかりと頷く川島五郎。
彼の話ではこういうことだった。亡くなった俊和の母方の跡部家の祖父母は、自分達が死んだ時は、孫をどうにか助けてほしいとお願いする手紙を送っていたようだ。
その手紙には、俊和の両親と赤ん坊の俊和の三人が映っていた写真も添えられたいたらしい。
「あの馬鹿息子の忘れ形見だ。面倒を見る。もう煩い輩も居なくなったことだしな」
「ええ、本当に」
クククと迫力のある笑みを浮かべる川島五郎と目が全く笑っていないのに上品に笑う川島妙子。二人の迫力に俺と俊和、沖田司令官は引くことになった。
「それで、俊和よ」
「は、はい」
「事前に聞いた話だが、ワシ等の元へ来るのに迷いがあると聞いたのだが」
「あ、うん」
「うむ、何故かな?」
「そ、その……」
うわぁ、圧力が凄いな。隣に座っている俺も感じるほどって、未成年にやるなよ。大人げない。
俺が一拍置いて、俊和をフォローしようと口を開きかけると、俺の右手に俊和が手を乗せてきた。
チラリと俊和を見ると俊和と目が合い、俊和は首を横に振った。
なので、俺は何も言わずに俊和を見守ることにする。
俊和は一度、深呼吸すると真っ直ぐ川島五郎を見据えて、こう言った。
「姉ちゃんをこれから守れる男になりたいからです」
「ほぉ……」
「あら……」
「え……?」
「……」
どう言うことだ? と俊和に先を促す川島五郎。興味深そうに俺を見つめてくる川島妙子。とちょっと目つきが鋭くなった沖田司令官。
今の言い方は誤解を招くかもしれないなぁ……。と俺は遠い目をした。
「姉ちゃんが人型のエイリアンに襲われた時、俺なにも出来なかった」
「いやいや、拳銃で牽制射撃したからね!」
何もしてなくは無い。ファインプレーだよ。あの一瞬の隙を作ってくれなかったら、俺も俊和も死んでいた。
「どう言うことかな?」
「ええっと」
「申し訳ございませんが、機密になります。俊和さん。信濃さんもそれ以上は喋っては駄目ですよ」
俺がざっくり説明しようとしたところで、沖田司令官からストップが入った。
後で聞いた話だ。この世界の日本でも民間人が拳銃を撃つことは犯罪だ。
エイリアンが襲来しても民間人に銃器の所持を認めていない数少ない国家。
まあ、拳銃などではエイリアンに効果が無く、日本で銃器の販売を許可すれば一気に治安が悪くなるのは分かりきっているので、日本政府は初めから銃器の販売許可は出すつもりは無いのだが。
アメリカがエイリアン襲来時に日本に銃器の販売を強引に迫ったらしい、それはもう過去最大級だったそうだ。
結局は日本政府が首を縦に振らなかった訳だが。
それなのに、俊和が拳銃を発砲して、王女級のエイリアンの撃退に貢献したと分かれば、未だに銃器の販売をしたがっている奴等が騒ぎ始めるので、王女級との戦いは俺が単独で倒したことになっているらしい。
大げさな、とは思ったけれど、男だった時のデモとか暴動のニュースを思い出せば、国民というか集団心理は怖いものだ。
「あ、そうだ。俊和は指揮官になりたいそうです」
「指揮官に?」
「はい、俊和。後は自分で言いなさい」
「あ、うん。爺ちゃん、俺は戦女子の指揮官になりたいんだ」
沖田指揮官に言っては駄目だ。と言われて、何を言えば迷い始めた俊和に俺は助け船を出した。
すると俊和は自分のしたいことをはっきりと川島五郎に伝えた。
「それは「それと俺は爺ちゃんと婆ちゃんとも一緒に暮らしたい!」むっ?」
俊和の言葉に川島夫妻は困惑した。うん、どの道、それも伝える予定だったけど、畳み掛けたな。俊和も生きているこの二人と仲良くなりたいと思っているが、今は俺を守りたいという気持ちの方が大きいらしい。
「でも、爺ちゃんと婆ちゃんが指揮官を目指すこと、姉ちゃんと一緒に居ることを反対するなら、俺は……」
俊和は俺を見て、川島夫妻に力強く宣言した。
「姉ちゃんと一緒に生きて行く!」
……うん、事前の打ち合わせではもう少しソフトな表現で、自分のやりたいことを伝えるはずだった気がするんだが。
なんだろう。誤解をされそうな力強さがあるよね……。
あ、沖田司令官が、俺を見て「どういうことだ?」って目で俺を見てくる。
うん、俺も想定外だよ! というか、何で犯罪者を見るような目で見てくるのかな君は? 何もしてないよ!?
俺が心の中で頭を抱えていると、川島五郎が腕を組んで唸った。
「俊和よ、適性者で無かったら、お前はどうする?」
「別な方法を探す。もう、守られているのは嫌だ! 婆ちゃんの時はなにも出来なかった。――姉ちゃんもそうなるところだった!!」
俊和が力強く宣言すると、川島妙子が夫の肩に手を置いて、優しく微笑んだ。
「あなた、今度こそ、この子を支え、見守りましょう。あの子にしてあげられなかったことを……自由に。今はそれが出来る環境です」
「…………そうだな。俊和よ」
「な、何だ? 爺ちゃん」
「お前は川島を名乗れるが、どうする?」
「川島?」
「苗字を変えて、川島の後ろ盾を貰えるってこと。川島は社会的地位があるから。有利にはなるね」
首を傾げる俊和に俺がそう教えてやる。
少し考えて、俊和は首を横に振った。
「うーん……、いいや」
「良いのか?」
「うん、だって死んだ爺ちゃんも。男だったら体一つで成り上がって見せろって言ってたし」
胸を張ってそう言う俊和。
それを優しい表情で見つめる二人の老夫婦。
「分かった。まずは適性者の試験を受けて、適性者かどうか調べてもらおう」
「分かりました。それと俊和さんと信濃さんの生活環境ですが」
「うむ、原則的に戦女子と異性が暮らすのは問題があると言う話だったな」
「ええ、ですので川島妙子さんが間に入れば問題はありません」
沖田司令官から、俊和が俺と一緒に暮らしたいと触りだけ聞いていたらしい。
一度は却下されていたが、どうにかならないか? と問い合わせたら意外と抜け道があった。
「あら、私だけで良いのかしら?」
「ええ、川島さんはまだお忙しいでしょうし、お孫さんと四人で暮らす前準備ということにすれば、湘南基地に近い地下街で暮らすことは可能です」
「ふむ、ワシとしては異論は無いな。孫と暮らせるのなら。孫の我が儘に付き合うのは問題ない。とは言えどの道俊和には保護者が要る。川島の名前ではまた良からぬことを考える輩が出るやもしれぬな」
「それなら、わたくしの実家の名前で引き取りましょう。姉様が引き取った形にすれば」
「ああ、そうだな。それが良い」
うん、ドンドン話が進んでいる。このあとあれやこれや話し合い。俺と俊和は基本的に大人しくしていた。
ま、結果だけ言えば。俊和は川島妙子の実家、西園寺の当主。西園寺綾子の養子となった。
それから、湘南基地に近い地下街に川島五郎が家を買い。
そこに西園寺綾子の養子の俊和を預かるという形で、祖父母と俊和が暮らすことになった。
ぶっちゃけ、そんな面倒なことする必要あるの? と思ったが、遺産相続。企業内の派閥争いなどを考慮すると、勝手に俊和に危機感を持って何かをしでかす輩が出るかもしれない。
もちろん、今はその可能性が低い。粛清したばかりだし、川島重工のトップは俊和のお父さんの妹夫婦だ。
遺産相続については、俊和へ残す金のことがあるので、多少変更があるけれど。
現状、俊和には川島重工や関連企業へは関わるつもりは無いし、川島夫婦もその気は無い。
でも五年後、十年後は? 神輿は軽い方が良い。と馬鹿なことを考える奴もいるかもしれないので、養子縁組をすることになった。
ただ、戸籍上は跡部俊和で名乗って大丈夫なようだ。うん、権力最高。
「俊和よ。まずは勉学に励みなさい」
「うん、分かってる」
「それと鍛錬も必要だな」
「うん、死んだ爺ちゃんも言ってた」
「うむ、最高の人材を集めてやろう」
「え、あ、うん?」
後日、俊和が悲鳴を上げたが、俺は見守ることしか出来なかった、とだけ。
「信濃さん」
「は、はい」
横で俊和と川島五郎が漢とはみたいな話していると、いつの間にか隣に移動して来た川島妙子が、俺に声をかけてきた。
「孫のこと、よろしくお願いしますね」
「え、ええ、可愛い弟分ですから」
「まぁ、ふふっ、そう、弟分ですか」
「はい、弟分ですけれど……?」
俺がそう言うと、何故か川島妙子は懐かしい者を見る目で、俺を見てきた。
え、なに? と思っていると、肩をポンッと叩かれてこう呟いた。
「弟は気が付けば、あっという間に男性になるの。貴女も気を付けてね」
ニコニコと微笑む川島妙子。
なぜだろう。俺は川島妙子から同類の様に思われている気がする。
俺は背中に大量の冷や汗をかきながら、それから軽い世間話をして、今回の話し合いは終わった。
川島夫婦と別れた後、俊和はやる気に満ちているから精神的に問題は無い。
俺達が退出した後、沖田司令官と川島夫妻が色々と大人の話が始まる。
まあ、詳しい話は後で聞こう。
とはいえ、思ったよりもすんなり俊和の主張が認められてホッとしている。
川島夫妻がゴネたら、沖田司令官が切り札投入して、色々取引をする予定だった。
これなら、彼女は良い取引が出来るのではないだろうか。俊和が適性者の場合、どの派閥に属するか、とか。
翌日、グロッキー状態の沖田司令官が俺の病室に来て結果を報告してくれた。あの後の取引交渉で彼女は川島夫婦にメタメタにされたらしい。
あ、最低限は利益と目的は果たしたらしいから俺の方も問題はない。俺の目的は川島夫婦がやろうと思っていたことだと思うし。
ま、あの夫婦からしてみれば、沖田司令官は、小娘だったようだな。まあ、とりあえず、彼女にはこう言っておいた。
ざまぁっ!!
読んでくれて、本当にありがとうございます。
本当にお世話になりました。
良い御年を(^_^)




