肝試してみた(現パロ)
現代設定で肝試しをするお話です。
今回の主役はエドウィージュとレオポルドです。
前置きの方が長くなってしまいました( ̄▽ ̄;)
二人の絡みがちょびっとになってしまいました。すみません……
【誘う者】
ただそこにいるだけ。
言葉は発さない。
ただただ、そこに佇む女性がいた。
一人の木こりの話である。
ある日、何時ものように木こりの仕事に出かけ日が暮れて帰る途中に彼は出会った。
長い髪をした細身の女性が一人佇み悲しんでいるのか顔を俯かせていたそうな。
声をかけようと木こりの男は舗装された道を外れて女の元に向かおうとした。
すると茂みが揺れて足元に蛇が現れた。
驚いた男は尻もちをついてひっくり返るも何とか蛇をやり過ごし、再び顔を上げた時には女の姿はなかった。
また、次の日。
この日も仕事を終えて一人で家に帰る途中だ。
また、舗装された道から外れた山の中に女の人が一人佇んでおり顔を俯かせていた。
男は何故か放っておけずに「おーい」と声をかけながら近寄った。
しかし、今度は大きな銃声の音が山の中に鳴り響いて驚いた男は尻もちついてひっくり返る。
鳥を仕留めた猟師が背後から現れ安堵する木こりの男。
だが、再び正面を向くと女性の姿はなかった。
そのまた、明くる日。
やはり仕事終わりの帰路の途中に顔を俯かせて佇む女性が一人。
今日こそは、誰なのか突き止めてやろうと木こりは茂みの中に入っていく。
「おい、お前さん。こんな所で何してんだい」
女は答えない。
「女一人で危なかろう」
女は顔を俯かせたまま。
「こんなけもの道に入り込んで迷子にでもなったのかい?」
女はただただ、そこに佇むだけ。
木こりは更に女に近付いた。
「おい、何やってんだ」
背後から肩を捕まれ振り返ると、銃を担いだ昨日の猟師が立っていた。
「何やってんだ」
もう一度猟師は言った。
「何って、女が一人でおったから危なかろうと思って…」
そう言って女がいた場所を振り返った木こりは言葉を失った。
木こりが立っていた場所は崖の上だった。あと、数歩足を踏み出していれば木こりは女に誘われて帰らぬ人となっていただろう。
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「その話の元となったのがこの場所だとされている」
そう快活にデジレは述べた。
この日、同じ学園の友人と共に山にキャンプに来ていたルイーズ達。
メンバーは、ルイーズ、ソレンヌ、エドウィージュ、エルヴィラ、ロマーヌの女性五人。
スタニスラス、ロラン、レオポルド、ヴィヴィアン、ドナシアン、デジレ、ピエール、セレスタンの男性八人。合計十三人である。
「よーし、じゃあくじはコレを引いてくれ」
彼等は今、日の暮れた山の前に佇んでいた。灯りは彼等が持って来た懐中電灯六つのみが頼りである。
デジレの企画で夏休みにキャンプに来たまでは良かった。
だが、肝試しをしようと外に呼び出されただのお遊びかと思えば先の話を聞かされた挙句、この場が曰く付きの山であるという。
女性陣は震え上がった。
こんな中で肝試しなど冗談じゃない。だけど、此処で辞めるなど言い出せる空気を読めないような者は一人もおらず、渋々参加する事となった。
「ちょっと待て。これだと一人余るんじゃないか?」
人数的に一人余ることに気付いたロランが尋ねると、デジレは既に対策済みだったようで直ぐに答えは返ってきた。
「男女ペアで行くから女性陣の中から余ることはないから安心してね」
その言葉に女性陣は安堵する。
しかし、ならば、男性陣の中から余りが出るということになるのだが。
「なんと!男女ペアになれなかった野郎三人は、三人で一緒に山の中に入ってもらいマース」
何が悲しくて、むさ苦しい野郎三人で肝試しなどしないといけないのかと男性陣はペアを勝ち取る為に僅かな闘志を燃やした。
くじ引き結果。
1.エドウィージュ・レオポルド
2.ルイーズ・スタニスラス
3.ロマーヌ・ドナシアン
4.ソレンヌ・ロラン
5.エルヴィラ・ヴィヴィアン
6.デジレ・ピエール・セレスタン
「何だよこのご都合主義の結果は!」
デジレが叫んだ。
「肝試しか!ワクワクするな、エド!」
「お、おう!そうだな」
目を輝かせて心踊らせるレオポルドとそれに、ぎこちなく頷くエドウィージュ。
「ルゥ、怖かったら言うんだよ?」
「だ、大丈夫ですわ」
恋人繋ぎでしっかりとルイーズの手を握り気遣うスタニスラスと青い顔で強がるルイーズ。
「ドナシアン~怖いよ~~」
「ロマ、僕から離れちゃ駄目だよ」
無意識イチャラブ最年少ズ。
「………」
「おやおや、怖過ぎて固まってしまったようだ」
微苦笑を浮かべてソレンヌを抱き締め、安心させるように頭部を優しく撫でるロラン。
「わたくし…怖いですわ…」
「大丈夫だよ、何があってもエリヤは僕が守るから」
震えるエルヴィラの肩を抱き寄せるヴィヴィアン。
「何だよこのいい雰囲気!誰だ肝試ししようなどと言ったのは」
男女ペアのイチャラブっぷりを目の当たりにして憤るデジレは地団駄を踏む。
「貴方でしょう。それに、くじもアナタお手製なのですから日頃の行いの所為でしょうね」
ピエールが叫ぶデジレの肩に手を置く。
「あ、あの。よろしくお願い致します」
「君はセレスタン君だったかな。よろしく」
セレスタンは年上二人に気遅れしながらもデジレとピエールに挨拶をした。
未だ、もう一度くじ引きをし直そうと駄々を捏ねるデジレを放置して最年長のスタニスラスとロラン、ピエールによって肝試しが開催された。
山中に入って真っ直ぐ歩くと、小さな祠があるという。そこに、手渡されたお花を置いて戻って来るというだけなのだが、先程のデジレの話を聞いた後では尻込みしてしまう。
一番手はエドウィージュとレオポルドのペアでその数分後に1組ずつ順に中に入って行く。
女性陣はそれぞれペアの男性に寄り添われ気遣われているのだが、エドウィージュの相手であるレオポルドはぐるんぐるんと片腕を回してやる気満々でエドウィージュの様子に一切気付いていなかった。
「それでは、エドウィージュとレオポルドのペアスタートしてください」
ピエールの合図で山の中に入って行くエドウィージュとレオポルド。
懐中電灯はレオポルドが持ってエドウィージュを先導する。
「おお、やっぱり夜の山は雰囲気あるな~」
キョロキョロと暗闇に包まれた周囲を見渡すレオポルド。
「本当に何か出そうだな。な!エド」
ワクワクと心踊らせたまま尋ねるレオポルドだが、エドウィージュからの返事がない。
そこでやっと、レオポルドはエドウィージュに顔を向けた。
「おーい、エド?何だ。お前怖いのか?」
目を見開き正面だけを見つめるエドウィージュからはただならぬ気迫を感じ、レオポルドはこんなに緊張しているエドは久し振りにみるなとぼんやり考えながら尋ねた。
「そ、そんなわけないだろ。オバケくらいなんてことは無い!馬鹿言ってないで早く行くぞ!」
体育会系女子であるエドウィージュは幼馴染のレオポルドであっても、弱い所など見せられないとプライドが邪魔して強がる。
しかし、その割には進む足の速度は遅く、僅かに震えているようだった。
だが、レオポルドは気付かない振りをして正面を向いて歩き出す。歩く速度は先程よりも落としてエドウィージュの速度に合わせた。
ガサッ
草が揺れた。
「ひぅっ」
ビクリとエドウィージュは肩を上げた。
思わず漏れた声に慌てて口を閉ざすも前を歩いていたレオポルドが気付いて振り返った。
「べ、別に怖がっているわけじゃないからな。た、ただ驚いただけだ」
レオポルドは一言も何も言っていないのに、慌てて取り繕うエドウィージュ。
だが、レオポルドは直ぐに気づいた。
エドウィージュがレオポルドの裾を掴んでいることに。
「裾、伸びるんだけど」
レオポルドは率直に伝えた。
「っ!いや、これは…えっと。れ、レオが歩くのが早いからレオがはぐれて行かないようにだな──」
エドウィージュは苦しいと思いながらも、強がりに言い訳する口は止まらかった。
素直に怖いと言えない自分に恥ずかしくて惨めに思うものの紡がれる言葉は言い訳ばかり。
挙句、レオポルドの所為にするなど最低だな。と、自己嫌悪に俯いた顔は双眸に涙が浮かぶ。
すると、言い訳を続けるエドウィージュの頭部を強い力に引き寄せられた。
「こうして歩けば一緒に歩けるし、俺がはぐれてしまうこともないだろう?」
エドウィージュの頭部を引き寄せたのはレオポルドで、ポスンとレオポルドの胸元に抱き寄せられる。
頭部に回された手はいつの間にか肩に回されており、レオポルドに寄りかかるような体勢になっていた。
エドウィージュは驚いて顔を上げる。
「足場も悪いしこの方が俺も二人の足元を照らしやすいしなっ!」
懐中電灯をゆらゆらと揺らして道を照らす。
見上げた先のレオポルドは太陽のような快活な笑みを浮かべていた。
「……ありがと」
エドウィージュはレオポルドに寄り掛かりながら小さな声でお礼を言った。
「お?なんか言ったか?」
「何でもない」
そうして、二人は祠に一輪の花を置いて何事もなく無事肝試しを終えた。
素直になれないエドウィージュ。
それを分かっていながら、大らかな性格で包み込むレオポルド……みたいな?
本当は、スタン×ルイーズとロラン×ソレンヌも書きたかったけどまた別の機会に書くかもです!