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犬猿の仲

ほぼ、スタニスラスとマティアスの掛け合い(?)です。

ルイーズは今日婚約者であるスタニスラスがカプレ家に来訪があるということで浮き立っていた。


「来たっ。スタン様の馬車だわ」


窓から外を覗いていると一台の馬車がカプレ邸の門を通って玄関の前で止まる。

ルイーズは齧り付くようにへばりついていた窓から漸く離れればスタニスラスを出迎える為にドアに向かう。


「あれ?ドアが開かないわ」


扉を押しても引いてもビクともしない。

鍵を掛けてしまったのかと思い確認するも施錠された様子はない。

再度扉を押すがやはり開かれる事は無かった。


こんな事が出来るのはあの人しかいない。


そう思ったルイーズはある人物に目星を付けて盛大な溜息を吐き出した。

ルイーズは机の中から通信機を取り出しある人へと連絡をした。



一方その頃────


二階の陰からエントランスを覗く一人の人物がいた。


「マティ?こんな所で何を──」

「お母様っ、しーーっ!」


ルイーズの二番目の兄であるマティアスは背後から現れた母に驚き慌てて彼女の口を塞いだ。


「今、いい所何ですよ」


声を潜めて言うマティアスに訝しんで母は壁際からエントランスを覗き見る。

そこには、今来たのであろうスタニスラスとルイーズの姿がエントランスに入ってすぐの所に二人佇んでいた。


母は知っていた。

息子、マティアスが夜な夜な妹のルイーズ人形を本物そっくりに作り上げていることを。

兄馬鹿の度を越したシスコン具合にはルイーズを溺愛する家族でも引くほどである。


「あれは…」


母は胡乱げな目を向けた。


「力作のルイーズ人形ですっ!」


マティアスは得意気に胸を張る。

我が息子ながら馬鹿だと思うものの、流石この母から産まれただけはある。母は娘の婚約者がどういう対応をするのか興味津々で、マティアスを注意するどころか一緒にスタニスラスを観察する事にした。



「いらっしゃいませ。お待ちしておりましたわ、スタン様っ!」

「やあ、ルゥ──」


スタニスラスはカプレ家に着いて直ぐに出迎えてくれた婚約者を見て笑顔で固まった。

瞬時に周りを一瞥するも、エントランスにいる使用人も背後に控えるスタニスラスの付き人も彼の目の前に立つ少女に何の違和感も持っていないようだった。だが、スタニスラスは入って直ぐに目の前に立つ子女が本物のルイーズでは無いことに気付いた。


──マティアスさんの仕業か。


スタニスラスは即座に犯人を見破った。

しかし、その張本人が見当たらない上に本物のルイーズもいない。

こうなれば、マティアス本人を引きずり出すか本物のルイーズが来るまで適当に対応するまでだと結論付けた。

ここまでの思考時間約0.5秒である。


「やあ。君に会うのが待ち遠しかったよ」

「わたくしもですわ」

「ところで君は、風邪でもひいたのかい?」

「え!?いえ、風邪はひいていませんが如何してそうお思いに?」

「そうか、それなら良いんだ」


スタニスラスが気付いた要因の一つ。

限りなくルイーズの声に近いが身近で何時も彼女の声を聞いているスタニスラスには直ぐに何時ものルイーズの声では無いことに気付いた。

スタニスラスは笑顔を保ったまま安堵の息を吐いてみせた。


「何だか何時もの君の透き通った声音とは違って聞こえたからね。風邪ではないなら良かったよ」

「え、ええ。お気遣いありがとうございます」


その頃。

二階の陰に隠れていたマティアスと彼の母はスタニスラスが偽物のルイーズだと気付いていないと思っており、笑いを堪えて肩を震わせていた。スタニスラスがルイーズの名前を呼んだのは、エントランスに入った直後の一度きりだということにも気付かずに……。

ルイーズ人形の受け答えは遠隔通信機を使ってマティアスが受け答えをしてルイーズ人形がルイーズの声で喋る仕組みとなっているのたが、声が震えないようにするのでマティアスは精一杯であった。


「ところで、今日は何時ものアレはしてくれないのかい?」


その言葉にマティアスと母の動きが止まる。

アレ…とは何のことだと二人は思った。


「アレ…ですか?」


ルイーズ人形を声を引き攣らせながら首を傾げた。

細かい動作まで出来るとは流石、発明のストレンジを保持するだけはある。

これが、国の為に使われればいいのだが、如何せんマティアスは気分屋な上にルイーズの言葉しか聞かない癖者であった。


「前に約束しただろう?私が君の家にお邪魔する時は、君の方からキスをすると」


スタニスラスは顔色一つ変えずに言った。

表情等はマティアスと連携でもしているのだろうか。目の前に立つルイーズはポカンと口を開けて呆然としていた。


「何だい、その顔は。君のそんな顔初めて見たけど、呆然としている君も可愛いね」


スタニスラスはルイーズ人形の頬に触れる。

少しひんやりとはしているものの、ここまで質感そっくりに再現していることにスタニスラスは内心驚いていた。


「あっ、ええっと…此処では恥ずかしいですわ。だって、皆がみているんですもの」


ルイーズ人形を操作するマティアスは慌てて繕う。

早く用意した部屋にスタニスラスを連れて行くか話題を変えようと口を開くも、一歩スタニスラスの方が早かった。

スタニスラスはルイーズ人形の腰を抱いて空いた手で顎を掬い顔を上げる。


「恥ずかしがる君も可愛いけど、久し振りに君と会えたんだ。今まで我慢していたのだし直ぐにご褒美が欲しいな」


実は、スタニスラスは王太子としての執務に追われ、一週間もルイーズと会えずにいた。

今日、やっと愛しい彼女に会えると思えばこれだ。

人形何かでスタニスラスの溜まっていた鬱憤が晴れるはずもなく、本物のルイーズと会えない事と、彼女との逢瀬の時間が短くなっていることに僅かな苛立ちを覚え始めていた。


そんな事は、露ほども知らないマティアスは知るかよ!と内心叫んでいたがそれを直接口に出すわけには行かない。

それに、ルイーズ人形とはいえ、可愛い妹そっくりに作り上げた力作なのだ。家族以外の他所の男に触れられている挙句、キスなど言語道断だと憤る気持ちを抑えた。

そんな二人の内心までも見破っているのかいないのか、この場で笑いを耐えているのはカプレ夫人ただ一人である。


「や、やっぱりわたくしには無理ですわ」


ルイーズ人形は目を潤ませて頬を紅潮させ顔を背ける。スタニスラスを胸板を押して、さり気なく距離を取ろうと後退るも腰をがっしりと掴まれている為離れる事が出来なかった。


「仕方ない、ならば今日は私の方からしてあげよう」


そう言って、背けたルイーズ人形の顔を顎を掴んで正面に向けて顔を近付けるスタニスラス。


「えっ、ちょ…待って下さいませっ」


制止も虚しく距離はどんどん縮まる。


「やめろ!俺のルイーズ人形から手を離せっ」


堪らず二階の陰から飛び出したマティアス。

スタニスラスは陰りを作ったまま口角を上げた。しかし、直ぐにルイーズ人形から手を離してマティアスを見上げる。


「こんにちは、義兄さん。ルイーズ人形とはどういうことでしょうか?」


にっこりと微笑むスタニスラス。

その笑みに黒いものが含まれていたが、興奮状態のマティアスには分かっていなかった。


「俺はあんたの兄さんではない!義兄さんと呼ぶな!」

「やだなぁ、何れは義兄さんになるんですからその練習ですよ」


ははは、と声を出して笑うスタニスラスに彼の元へ向かおうとするマティアスだが、身体が動かない。

いや、正確には上半身は動くものの膝下から一切足を動かせなかった。

膝から下を見るとそこには氷が足の周りを覆って床に貼り付けられていた。


「やっと出て来て下さったのです。逃がしませんよ。本物のルゥは何処ですか?」


疑問形なのに有無を言わせない圧力がある。嘘を言おうものならば、頭の先まで氷漬けにされてしまうだろう。そんな気迫が眼孔が見開かれたスタニスラスから伝わって来た。


「誰が教える──」

「スタン様っっ」


それでも、意地でも教えまいとするマティアスに被せて、凛と涼やかな透き通る声音がエントランスに響いた。

エントランスの階段下に現れたのは本物のルイーズだった。

スタニスラスはルイーズの元へと向かう足を早めた。また、ルイーズも漸く閉じ込められていた部屋から脱し、愛しい人に会えた喜びにスタニスラスの元へと駆けた。


「お会い、したかったですわ」

「私もだよ。ルゥ、漸く君に会えた」


二人は人目も憚らず抱き合った。


「今度こそ、本物のルゥだよね」


スタニスラスは僅かにルイーズを離して顔を確認する。彼の記憶と寸分違わぬ顔立ちに声音にルイーズが本物であると分かって再びキツく抱き締めた。

熱い抱擁にドギマギと胸を高鳴らせるルイーズは、何処か何時ものスタニスラスと違う様子に小首を傾いだ。


「スタン様、どうかされましたの?」

「原因はこれだろうね…」

「……え?」


ルイーズはスタニスラスの頬に手を添えて、眉尻を下げ心配そうに尋ねた。

その時、スタニスラスの斜め後ろから声がして其方に目を向けると、カプレ家の長男であるグエナエルが立っており、その隣には実寸サイズのルイーズと瓜二つの女性が立っていた。

スタニスラスはルイーズの腰を抱いたまま身体を離しグエナエルに向き直る。


「お久しぶりです、グエナエルさん」

「久し振りだね、殿下」

「あの…それって……」


和やかに挨拶を交わす二人を他所に自分そっくりのルイーズ人形を見つめる本物のルイーズは目を見開き口を開いた。


「マティアスだろうね」


ルイーズが聞きたい疑問を先読みして、答えるグエナエル。


「これも、ルゥの部屋の扉に細工したのはマティ。お前の仕業で間違いないな」


グエナエルはルイーズの肩越しに向かって声を上げた。

それに、ゆっくりと首を回すルイーズ。振り向いた先にいたのは、足を氷漬けにされたままのマティアスの姿があった。

ルイーズは、部屋の扉に細工したのはマティアスであることは分かっていた。その為直ぐに長男のグエナエルに連絡をして彼のテレポートで迎えに来てもらったのだが、ルイーズの婚約者にこんな事をしているとは流石のルイーズも思いもしなかった。


「これは…違うんだ。本当にルゥを想っているなら人形になんか騙されないだろうと思ってだな。彼がルゥに相応しいか見極めていたんだよ」


慌ててマティアスは取り繕うが全ては後の祭り。

フルフルと小刻みに体を震わせていたルイーズは振り返って正面からマティアスと対峙して顔を上げた。


「マティ兄様なんか大っ嫌いですわっ!行きましょう、スタン様」

「…あ、ああ…」


ルイーズはそう大声で叫んでスタニスラスの腕を引いて、客間へと向かった。

流石のスタニスラスもここまでルイーズに言われてしまっては、僅かに同情の念が湧き、マティアスの足元を覆っていた氷を静かに解いた。


残されたマティアスとグエナエル。そして、未だ、陰に隠れて爆笑しそうになるのを堪えている彼等の母親。

マティアスはルイーズからの言葉が相当効いたようで既に足枷は解けているというのに、その場から一歩も動けなかった。それどころか、灰となりそうな程に放心してしまっていた。

それを回収に向かうグエナエル。

グエナエルに見つかれば、マティアスと共に怒られてしまうとその場を離れようとした母に背後から声がかかる。


「お母様。逃げようなどとお考えではないですよね?」


黒い笑みを浮かべた悪魔。基、テレポートで背後に立つ息子に退路を絶たれ大人しくマティアスと共に連行されて行った。




──────────────


客間へと向かったルイーズとスタニスラスは使用人にお茶を淹れてもらい、向かい合って座っていた。


「本当に申し訳ないですわ…」


しゅん、と垂れた獣耳でも見えそうな程に肩を落とすルイーズに、スタニスラスは静かに笑った。


「ルゥの所為じゃないんだから顔を上げて」

「…でも、カプレ家がスタン様に粗相をしたことに変わりありませんわ」

「先程のマティアスさんの言葉を借りる訳では無いけど、今回の件でもし、ルゥの偽物が現れたとしても見破る自信がついたからそう落ち込まないで」


スタニスラスの言葉にルイーズは顔を上げた。


「わたくしが言うのも何ですが、あんなにそっくりでしたのにわたくしでは無いと分かったんですの?」


ルイーズは驚いた。

恐らく、自分が逆の立場なら自分とルイーズ人形の見分けなどつかない自信がある。


「声も本物のルゥの方が透き通った綺麗な声をしているし、笑った時に下がる目尻も2mm程上がっていたからね」


スタニスラスのなんて事ないかのように話す口振りに、ルイーズの頬に熱が集まる。

そんな細かい部分まで覚えられているのかと思うと恥ずかしくて堪らなかった。

だが、スタニスラスの口は止まらず、それに、と続ける。


「心から君に触れたい、全てが愛しいと思わなかったし、心の底から君を求めるのはやはり本物のルゥじゃないと私の心は動かされないようだ」

「…スタン様」


恥ずかしいのに、こんなにも好きな人に愛を囁かれて動じない人はいない。

ルイーズは愛しい、その想いが身体の奥底から湧き上がる感覚に熱情を孕んだ視線をスタニスラスに向けた。


「わたくしも、もし、スタン様の偽物が出て来ようとも、心の底から求めるのは本物のスタン様。ただお一人ですわ」


顔を真っ赤にしながらも真っ直ぐにスタニスラスを見つめて想いを告げるルイーズ。

それに、少しだけ困ったように眉尻を下げてスタニスラスが笑った。


「本当に…私の愛しい婚約者は世界一いい女性過ぎて困るよ」





一分一秒でも隣に居たい存在

純粋な恋が本当にあるなんて、

君と出会うまでは思いもしなかったけど

かけがえのない想いに

気づかせてくれてありがとう


私の最愛の可愛い婚約者────

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