6
「クリスティーナ様、こちらを」
「レオ、ありがとう」
スッと差し出されたカトラリーを見つめ微笑む
「彼は君の従者?」
「えぇ、レオっていうのよ
まだ見習いよ、ギリギリ及第点といったところかしら」
一礼して下がるレオに目を配りつつ前に座るエリック様に視線を向ける
あれから一週間、レオは思いのほか呑み込みが良くすっかり見違えた
同い年ということもあるせいか二人きりになるとすぐに生意気な口をきいてくるが
それはそれで新鮮で面白い
こうやって人前に徐々に出しているが大きなミスや粗相はない
今日はエリック様とジルが私を訪ねてうちに来た
テラスでというのもいいが前回招かれたのがテラスだったため客間を装飾した
その方が厨房も近い
なかなかあることではないが料理人が一人たまたま料理を運びに来ても父や、うるさい父の側近などに見られてしまう心配は少ない
「ジル、大人しくして」
エリック様の言葉にふてくされながら窓枠によじ登ろうとしていたジルが降りる
つまらなそうだ
「レオ、ジルを少し案内をしてあげてくれないかしら」
私の言葉にレオは一礼してジルの方に向かう
「ジル王子、僭越ながらわたくしがクリスティーナ様のお屋敷をご案内したく思います」
ジルに手を差し伸べる姿は三歳差とは思えないほど優雅で洗練されている
これは将来が楽しみだ
顔もかっこいいし
なんという逸材
フッフッフと笑う私を一瞬レオが振り返る
私というよりエリック様の方を見たようだ
「代わりの者を呼んでも?」
少しくだけた言い方にキッとレオを睨むと首をすくめられた
考えた後誰も呼ばないほうがいいなと思い至る
二人きりになる今が良いだろう
「いいわ、誰も呼ばないで
厨房にスペシャリティを持ってくるようにと言っておいて」
そう伝えるとレオはかしこまりましたと一礼し、ジルを連れて部屋を出る
何故か出るときエリック様を睨んでいたし、エリック様もレオと何やら合図をし合っていた
いつの間に仲良くなったのやら
パタンと閉じられた扉に私はようやく本題に踏み込む
「心配しなくてもうまくやっているわ
一応我が家は資産家だし
苦労はさせていないはずよ」
カチャリと口元に寄せていたカップを下ろす
うん、今日も紅茶は美味しい
「そこはあまり心配していないですよ」
柔らかく笑い彼もカップを置いた
コンコン
ノックされた扉に私は口角をあげる
「スペシャリティをお持ち致しました」
そう言って出されたのは幼少期彼が食べていたというアップルパイ
そして持ってきているのはー・・・
私がここにいるのも無粋だろう
「失礼するわね」
スっと腰を上げ部屋をあとにする
扉の鍵は、外から私が閉めておいてあげよう
二人の再会は国家秘密物のはずだから
◆
一応、部屋に戻り動かないあの箱を触っておこう
この時間帯にはなかなか手に取れないし
もしかしたら時間帯によってはつくかもしれない
そう思い至り部屋に足を伸ばと
私の寝室が何やら騒がしい
「流石にいけません、ジル様」
「僕にも見せてよぉ!」
大方想像はつくが、私の寝室だと案内して通り過ぎるはずがジルが興味を示して入ったのだろう
乙女の寝室に入るなんて
これは少し怒らないと
「私のお部屋で何をなさっているの?」
コンコンっと、空いている扉をノックすると2人が驚いたようにこっちを見た
ジルから遠ざけるように何かを持ったレオにジルがよじ登ろうとしていた
レオの手にある箱は、物語のタイトル画面を映していた
「動きましたの!?」
気まずそうに姿勢を正した2人だったが私は掴みかからんばかりにレオに迫る
勢いよく奪った箱は直ぐに何も映さなくなる
「あぁ、もうどうしてっ」
落胆したが二人のキョトンとした顔にハッとする
取り乱したが説教をしなくては
これは・・・本当は今すぐにでも箱と向き合いたいが来客中にすることではないだろう