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8

キョロキョロと周りを見渡しながらそろそろと歩を進める

気が付くと教会の廃墟のような不気味な建物にたどり着いていた


後宮から裏庭を通って本殿に入り、ザイドの部屋に戻ろうとしていたが・・・なぜこうなった

いつの間にか傾きだした日に不安感を煽られる

日が暮れるのも時間の問題だ

薄暗い教会内にぶるりと背筋を震わせた

国王殺害の疑念までかけられた今、このままスゥッと消えてしまえるのが一番だが、レオを見捨てるわけにはいかないし

まぁ、レオももしかしたら城内ではなく森林内の廃墟にいる可能性も十分あるのだが


私は恐る恐る教会内に入る

我が国の教会とは違うエンブレムや神の御姿に少し惚けてしまったがハッとする

なんだか、廃墟とは思えないほどきれいな個所がいくつかある

人の手が入っている・・・・

誰かがまだ管理している・・・?


綺麗に磨かれた御神体はところどころ剥げてはいるが施された金の装飾が鏡のように周囲を映している

そこで気が付いてしまったのだ

御神体に映る私の後ろに佇む影に

慌てて振り返ると強く腕をつかまれる

目を見開いて相手の顔を見てどうしようもない絶望感に打ちひしがれる


「・・・イスハーク様・・・でしたわね」


「よくご存じで」


いびつに笑う姿に背中にいやな汗が流れる


「国王陛下を暗殺なさったのは貴方・・・?」


震える唇から滲む恐怖を声を張ることで何とか誤魔化す


「さぁ、どうでしょう・・・貴女だと聞いておりますが?」


「あら、おかしいですわね

第一発見者はハキーム様だと聞き及びましたので・・・てっきりイスハーク様がお耳に入れたのかと思っておりましたのに」


嗅ぎまわった情報を必死に頭の中で整理し口を開くとスッとイスハークは真顔になる


「なんだ、そんなことまで掴んでいたのか」


あまりに冷たい瞳に戦慄する

そうか、私は生きていたら彼にとって不利益

大義名分のもとこの場で処分するのが彼にとってベストだ


そこまで思考が回ると目の前が白く霞んだ

腕を掴み拘束されている今、逃げ出すのは至難の業だ

よりによって、掴まれたのが指輪をはめている方の手だなんて


そんな私に気が付いたのかイスハークは満足そうに口角を上げる


「頭がいいのも考えもんだな」


卑しい瞳にこぶしを握る


掌に刺さった笛の感覚でようやくその存在を思い出した

咄嗟に笛を咥えると勢いよく吹く

音を聞いた誰かが来てくれればこの場で物言わぬ存在にならなくて済む

縋るような思いは簡単に崩れ去った


シューッと空気だけが漏れて笛は音すら立てなかった

ポロリと口から零れ落ちた笛が虚しく床に落ちる


私の手を強く握ったままのイスハークは転がった笛を見て、たまらずといった様子で笑う


「何がしたかったんだ・・・?」


「さぁ・・・てっきり音が鳴るものだと思っておりましたの」


私の言葉に訝し気に足元へ目をやると笛を蹴飛ばす

カラカラと悲しく笛は転がる


「わたくしは、王を殺しておりませんが・・・

冥土の土産ですわ、公務に来ただけのはずのわたくしが、なぜこんなことに巻き込まれてしまったのかだけ・・・ご説明願えます?」


あくまで強気にイスハークをまっすぐに見つめて口を開く


「時間稼ぎか?」


「言ったでしょう、メイドの土産だと」


儚く微笑むとイスハークは少し顔を歪め、そして口を開いた


「・・・・運が悪かった、それだけだ」


そんなことで納得なんかできるはずがない、そう思ったが

イスハークはそれ以上言葉を残す気はないようだ


「・・・イッ」


薄く刃を掠められた腕に思わず身を縮こませる


「無抵抗な状態で殺したとあっては糾弾されかねないからな

激しい抵抗の末仕方なく、でないといけないんだ」


細かく何度も掠められる刃に涙がポロポロと落ちる

これなら、

こんな死に方するくらいなら


エリックルートで婚約破棄されて、平民で飢えた方がよっぽどましだ


「そろそろ、かな」


そういって振り上げられたナイフに目をぎゅっとつぶった


「お嬢!!」


レオの叫び声に目を開くが目の前まで刃は迫っていた

最期にレオが無事なことが分かってよかったと少し安堵した




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