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7

こそこそと向かった後宮の中は非常に慌ただしかった

王が変わっただけなら隠居した前王が死ぬまでは自分たちの加護は消えない

前王の体調や老いを見つつ現王に取り入るべきか

故郷に帰るか決めるのが一般的だろう

様々な根回しの元、跡を濁すことなくそれぞれの道に消えていくものだ


ところが、前王の暗殺となったらどうだろう

確かに、政治的権力等は未だ保持するかもしれないが殺害対象としてはひと段落といったところか

正妻や側室たちは少し気が緩んだはずだ

慌ただしい後宮内には国に帰ろうと準備する者やハキームの母に取り入ろうとする女性たちで沸いていた


かきわけるようにしてようやく部屋に入ると侍女が数人身辺のものを片付けていた


「どなた?」


ばたんと閉まる扉に侍女たちが顔を上げる

私の一張羅を片手に振り返った女性にドキッとした

この国に来た時に部屋へと案内してくれた女性だ

母上くらいの年齢の落ち着いた女性が身の回りについたとき、イザベラとの苛烈な日々を思い出し

少し安心した為よく覚えている

若い女性が悪いわけではないけれど、年齢の近い子は少し身構えてしまいますもの


さすがに顔を知っている人に見られてはどうしようもないと息をのんだ

こんな乱雑な仮装なんかじゃすぐに私がクリスティーナだとばれてしまう


逃げなくちゃ


その思いと裏腹にあれだけは持って帰らないとと目が笛を探す


そんなに何かあるとは思えないが、

レオの慌てぶりを見るに今後の物語に欠かせない気がしたのだ

ツカツカと侍女は私に近づくと手を握った


「お逃げ下さい」


「・・・・へ?」


握らされた笛と侍女を交互に見つめる


「私は・・・貴女様が公務でいらっしゃったことを存じ上げておりました」


小さく囁かれた言葉に私は目を言開く


「ハキーム様が・・・我が主がなさった事をお許しください」


震えるお辞儀になんだか胸が苦しくなる

彼女に免じて、ハキームの事を少し許してやらなくもないだなんて思ってしまいそうだ


そして彼女は何か決意を決めたように息を吸う


「いいですか、ハキーム様のお側にいらっしゃるイスハークという男にご注意ください」


私はゆっくり頷く


他の侍女たちも思うことがあるのかちらりと私を見つめると申し訳なさそうに目をそらした


「ありがとう・・・なぜわたくしに良くしてくださるの・・・?」


つい出た疑問に彼女はフッと優しく目を細める


「私にも、貴女様と同じくらいの年齢の娘がいますから」


その言葉にじんわりと胸が熱くなる


「もしわたくしを庇って立場が悪くなるようでしたら気にせずわたくしの事を差し出すことを約束なさって・・・?

いざとなればわたくしには帰る国があるのですから」


そう言って微笑みかけると彼女は目に薄く涙を浮かべはいっと頷いた




「お嬢はそんなことしない!!」


人殺しの主人をもって大変だなと挑発的に発せられた言葉にカッと頭に血が上った

声を荒げる俺を睨むように向かいに座るアリは鋭い眼光を緩めもせずに俺を射貫く


「よく吠えるな、まったく

主人を庇いたいのは分かるがこちらも父上を殺されていてな

あまり挑発してくれるなよ」


細められた瞳に思わず息が詰まるほどの圧迫感を感じたがすぐに気を取り直した


「お前はそういうやつじゃないだろ、前王には恨みしかないはずだ」


そういう設定だしな


俺の言葉にアリは何かを探るようにさらに眼光を強くするとカーブした刀身がきらりと光るアラビアンナイフを俺に向ける


「何が言いたい、何を知っている・・・?」


お嬢の保身のためにも興味を持たれておくというのは大切なことだ

確かお嬢はエリックに取り入る時に聖女の話をしたと言っていた

これを使うしかなさそうだ


「俺じゃない、お嬢は聖女なんだ過去と未来が見える」


俺の言葉に訝し気に顔をしかめるアリに俺は言葉をつづけた

設定書を知っている俺にはアリを挑発することはたやすい


「どんなに才能を誇示しようと無駄だ、貴様にはその資格すらない」


教育係、父親、兄弟


ラシャド以外の全ての人に言われたセリフを俺が口ずさむとアリは目に見えて逆上した


掴み掛られた胸倉と突き立てるように首にわずかに刺さったナイフ

あえて口角を上げると俺は口を開く


「お嬢は、クリスティーナ様が言われていた言葉も同じだ

兄の真似をしようと無駄だ、お前は女なのだから、男を立てる装飾品としての価値しかない」


俺の言葉に少し首に触れるナイフが引いた


「女が王になれないのは当然だ」


「では虹彩が一色の貴方が王になれないのも当然ですね」


「・・・貴様」


キツく睨む瞳を睨み返しながら俺は言葉をつづける


「男が、虹彩が二色な人のみが王だと誰が決めた

女が優秀ではないと誰が言った

なぜクリスティーナ様が、アリ様が嫡子になれない」


俺の言葉に圧倒され始めたたのかアリの手は緩み掴みあげられていた服がゆるゆると離される


「クリスティーナ様は、貴方の身の上を案じていらっしゃりました」


完全に離された服に俺はパンパンとヨレた服を叩く


「まぁ、私もお嬢も国王になるべきなのはザイド様だと思っていますけどね」


俺の言葉に再度胸倉につかみかかってきたアリだが

先程より幾分もゆるく優しく感じた



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