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「取引いたしましょう?」


にこりと笑う私は悪役そのものだろう


彼の母を人質にしようとしているのだ

悪役以外の何物でもないだろう


「君が欲しているものが分からないな

正妻にして欲しい、とかならこんなことしなくても叶えてあげたのに」


私を優位だと勘違いさせないように紡がれる彼の言葉に私はフッと笑みをこぼす


「違いますわよ

わたくし、あなたの妃にはなりませんもの」


エリックはその言葉に驚いたように目を見開くが

すぐに冷静に私を見つめ返す

それはそうだ、有力な国王候補だ

突っぱねるだなんてもってのほかだ


「わたくしが望むのは保身だけ

例え家が傾いても、陥れられようとも

私が、平民になることなく、処刑されることなく居座れる立場が必要」


その言葉に訳が分からないとでもいうようにエリックは眉を顰める


「そんな立場、皇帝でも無理じゃないか」


つぶやきはもっともだ

誰でも不正を暴かれれば没落する


「私は、将来陥れられる可能性が高いの

名を捨ててもいい

私が破滅したときに聖女官といて受け入れてさえくれれば」


聖女官

それは女神信仰の強いこの国における女神の代行者

政治的な力こそないが教会によって守られたいわば国王の次に力のある存在


「聖女官は預言者か、聖なる加護によるー・・・・」


その言葉に私は口尻を吊り上げる

もちろんそんな力などないが

予知ならできる

シナリオを知っているのだから


「そうか、だから知っているのか・・・母上の事を」


聖女官は立場こそ高いが教会に引きこもっていなくてはいけないし

何かと不便な立場だ

危機的状況以外で名乗りを上げたくないというのも不自然ではない

かといって陥れられた先でなんのバックアップもなく登れる座でもない


すっかり騙されたようだ


あとは簡単だ

エリックの母親は孤立している

一人死んだことにしてうちで保護すればいい

流行り病だとでもいえば早々に死体を焼いたといっても誰も何も言いはしない


「あなたのお母様はもう心配ないわ

お料理がとってもお好きなようだし、うちの厨房も人手が欲しいと思っていたのよ」


私の言葉にエリックは気が抜けたように笑う

自分の行動によっていつ母が殺されるか分からない状態はさぞかし辛く緊張するものだったのだろう


「王になれるかは保証できないけどね」


初めて年相応なあどけない笑顔を見せたエリックに私も笑う


「もしご兄弟がお継になられたら、妃になって差し上げてもよろしくってよ」


フンッと笑う私にエリックも楽しみにしていると笑う


遠くからジル王子が花冠をもって走ってきている


「ありがとうジル、とっても綺麗だわ」


嬉しそうに花冠を私に乗せてくれる彼に私は微笑む

大丈夫よ

例え訳があって近づいたのだとしてもあなたはとっても良いお兄ちゃんよ

ジルがあなたを裏切ることはないわ


私を見捨てることはあっても、ね


「今度はお二人でうちに遊びにいらして下さいね」


エリックも、堂々と母と会う日が欲しいだろう


私の申し出にジルがはしゃぐ


近々我が家を訪れる二人にきっと父も私を勘当になんてしないはずだ




帰りの馬車に揺られながら私は瞼を閉じる


これで、婚約破棄をしたがる彼の気を引こうと私が躍起になることもなくなるし

ましてそれで身を亡ぼすこともなくなるだろう


一つ回避した・・・のかしら


まだまだいる攻略対象に気落ちしそうになったが大丈夫だ

破滅しても最悪、隠れ蓑は出来た

予言ができるのは物語のエンディングまで

その先の自分の立場は危ういが


それに、

あの物語では死亡するルートも多々あるのだ

気は抜けない

夕焼けに染まる帰路に悲しい自分の末路を重ねブルりと身震いした


帰ったら、まずあの箱を徹底的に調べなくては


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