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投げ込まれた部屋の中、ばたんと扉が閉まった
「殺しはしないよ、国際問題になるしね・・・」
最後に残された言葉に俺は思考を巡らせる
殺されはしないが監禁はされる
今後の展開に邪魔になるからだろう
一体何をしようとしているんだ
もぞもぞとかぶせられた頭の布を外そうと動くがなかなか外れない
苛立っていると外からグイッと布が外される
「大丈夫・・・?」
一気に開けた視界にてっきり牢獄に一人だと思っていたからきょとんとしてしまった
普通に生活ができるような簡素な部屋に俺を心配するようにこちらをのぞき込む青年がいた
「ラシャド・・・王子・・・ですか?」
俺の言葉にコクコクと頷く
思いもよらない展開に汗が流れた
なるほどな
「あいつ・・・戦争を起こす気だな」
俺の言葉にラシャド王子は目を見開く
「ねぇ君、それはどういう意味で言ってるの?」
タイミングとしては速すぎるがもしこの展開が本編で描かれているアレイデア兄弟戦争だったらまずい
ラシャド王子攻略ルートで影武者の存在に気が付くリリアン
影武者のアリとラシャドは双子で見た目もそっくりだが唯一の違いは王にのみ発現すると言われている虹彩異色症が発現していなことだ
いわゆるオッドアイやダイクロイックアイだ
アリだけが単色
つまり王の証がないのだ
他の兄弟もはっきりと表れており、覇王の生まれ変わりと騒がれるザイド王子に関しては燃える炎の揺らめきの様な形で赤と紫が発現している
才能のない双子の兄にたかだか目の色が二色という理由だけで劣ると決めつけられて影武者に落ちたアリは国を心底憎んでいる
そこで兄であるラシャドの戴冠式の際に重役大臣や貴族を引き入れて反旗を翻す
ハッピーエンドではラシャドが虹彩や血筋による王権の継承を取りやめる法律を制定
アリに王位を渡しスローライフ
通常エンドでアリが討たれてラシャドが葛藤ながらも王位につく
バッドエンドではラシャドを討ったアリが自責の念に囚われ狂王としてザイドに討たれるエンドだ
この簡素な部屋はルートの途中、ラシャドがアリとの戦争を拒み心を病み、病床に伏せる時に一旦隠れるために用意される部屋だ
その間も戦況は悪化しヒロインがラシャドを奮い立たせるため病床に通う・・・
あれ、俺ヒロイン??
俺としては、悲劇っぷりがクリスティーナに被るアリの事は救いたいと思っている
出来ればラシャドにもスローライフを謳歌してほしい
ただ、王位に関してはザイドに渡すべきだ
設定上彼が王位につくのが一番この国の発展につながる
「ねぇ」
揺り動かされた肩にようやく意識がラシャドに向く
考え込んでいる間にどうやら俺を縛っていたロープはほどかれたようだ
「君は・・・確かクリスティーナ様に付いていた従者だよね??どうしてこんなところに?」
その言葉でハッとする
「お嬢は誰と結婚したんだ?この国は今どうなってる!?」
俺の言葉にラシャドは驚いた顔をする
「自分の主人の結婚相手も知らないなんて・・・どうなってるの?現王はハキームだよ」
意味が分からない
ハキーム?そんな奴大きく取り上げられていないはずだ
それに、否定しなくてはならないことがある
「お嬢は嵌められただけだ・・・国に婚約者もいるし、アレイデア王国を訪れたのも国交の円滑化を目的とした公務のためだ」
その言葉にラシャドは目を見開く
「それは一大事だ・・・君、僕たちの計画に参加する気はない・・・?」
その言葉に唾を飲み込むと俺は頷いた
現状としてはハキームがアダッド家の支援の下、クリスティーナとの結婚を理由に王になった。
アダッド家は本来アリの後ろ盾になるはずの国だ
ただ、愚王である現王はしっかりとした地盤を固めることなくただ王位を渡したため、家臣であるクマール家や大貴族のサレハ家の承認を得ていなかった
クマール家はラシャドに正当な王権を譲るべきとして反旗を
サレハ家はザイドに王位をと反旗を翻そうとしているのが現状らしい
まだすべて下火だが大変なことになっている
「僕は王位なんて欲しくない
だからアリに掛け合ってみたんだ・・・クマール家にも話はつけた」
なるほど、だから二人は一緒にいたわけか
だが、クマールに話をつけられるだろうか・・・あの家はだいぶ血筋や虹彩を気にしていたはず
アリを王にするだなんて認めるはずがないが・・・
俺の知らないハキームとかいう男がのさばっている以上差異くらいあるのかもしれない
「ごめんね、クリスティーナ様が騙されているだなんて思ってなくて
君の事もクリスティーナ様に婚姻関係解消を交渉するときの切り札になるんじゃないかと思ったんだ」
なるほど、唯一自国から連れてきた従者だもんな・・・俺には人質の価値はあるか
「とりあえず、お嬢を奪還するのが最優先事項だ」
俺の言葉に頷いたラシャドは顔を上げる
「アリにこの話をしないと」
そう立ち上がった時だった
勢いよく扉が蹴破られたのは
「前王が殺された!それも后妃クリスティーナの手で!!」
「なっ・・・!」
勢いよく立ち上がった俺はめまいがするほどの気の動転を押さえ何とか伝達に来た男の言葉を処理するので精一杯だった




