4
ひんやりと肌に触れる艶やかなシルクの心地よさの中目を覚ます
うとうととまだ重たい瞼を薄く開くと木漏れ日が優しく差し込む
気持ちの良すぎるまどろみの中寝返りを打って絶叫した
隣に心地よく眠る裸の男性がいた
「おい、うるせぇぞ」
投げられた枕が顔に当たりようやく絶叫を止めた
「な・・・なんて格好なさっているの!!!貴方に恥じらいというのはないんですの!?」
「あ?隠れてんだろ、ほら」
横になったまま肘をつき自分の体を見せてくる
かろうじて腰に乗った薄い絹が確かに隠している
隠しているが
骨盤のラインとか・・・
割れた腹筋とか・・・
とにかく、とにかくエロい
私には明らかに刺激過多だ
思わず顔を覆い赤面する私に呆れたようなため息が降ってきた
「お前も、人の事言えねぇだろ」
そこで初めて見下ろした自分の体は下着姿だった
「な・・なな・・な・・ッッ」
わなわなと肩が震える
にやにやとした笑みを浮かべながら私と対面している彼に顔が真っ赤になる
「・・・ッき」
叫ぼうと口を開けた私は再度投げられた枕に沈んだ
◆
「・・・・っはぁ・・はぁ」
裏庭からつながる森の中に廃教会はあった
あたりはすっかり暗くなり俺を探す追手も気が付けば後についてきていないようだった
巻いたのか、はたまた何か別の問題が起きたのか
お嬢の事だ、大人しく妃に収まってはないと思うが
無事でいてほしい
出来れば今すぐにでも乗り込んでお嬢を連れて国に帰りたい
が
それをするには自分はあまりに力がない
廃教会の中に入ると月明りの下一人の青年が熱心に祈りをささげていた
無遠慮に中に入ると足音に気が付いたのか儚げな青年が振り向く
さすが攻略対象、輝いてんな
「・・・誰・・?」
中世的な柔らかい声色の問いかけに俺は片膝をつく
「ラシャド王子・・・お助け願いたく参りました」
呼ばれた名前に眉根を寄せる王子をまっすぐに見つめて口を開く
頼みの綱としては頼りないが、ここに頼るほかないだろう
◆
「本当にこれで大丈夫ですのよね?」
私の言葉にザイド王子は適当に頷く
「よかったな、胸が貧相で」
「なんですって!」
私の絶叫にザイルは笑う
「どっから見ても少年だ、よかったな」
全然うれしくない
とりあえず周囲に見つからないように男装したけれど
なんだか複雑だ
「まさかハキームが王になるとはな・・・あいつはノーマークだったが・・誰か後ろ盾がいるな」
腕を組みながらのつぶやきに私はじっとザイド王子を見る
「最近新たに加わったハキーム様の側近はおいでで・・・?
一人、妙にわたくしに挑発的な男がおりましてよ」
「イスハークか」
呟かれた言葉に私は口の中でその名前を連呼した
私を見下してバカにした男だ
タダじゃ置かない
「あの男の出自を洗うか、お前はどうする」
「クリスティーナですわ、一緒に来た従者が心配ね・・探し出さないと」
「せっかく男装してるんだからやめろよそのお嬢様口調
それに・・・一旦はクリスって名乗ったほうが自然だな」
クリスか、せっかくならこの地方独特のかっこいい名前がよかったが仕方ない
私の見た目じゃ合わないだろうし
「それじゃあ、あまり無理をするなよ」
「あら、心配してくださるの?」
「面倒ごとを増やさないでほしいだけだ」
つれない言葉に唇を尖らせて私は部屋を出た
◆
ぼんやりと月明りが降り注ぐのを眺めてふと祭壇に跪く男を見る
いつまでこうしている気だ
そわそわと落ち着かない俺とは対照的に神に祈りを捧げる彼はようやく顔を上げた
「ふぅ・・・お待たせ、移動しようか」
その言葉に軽く頷く
意識として日本人の俺は無宗教だ
自分が作り上げた神への敬虔な信者というのはどこか不気味さを感じずにはいられなかった
廃教会から裏庭に出て裏口から王宮に入る
「こっち」
連れられながら向かった途中、朝クリスティーナが入っていった広間の扉が男によって開かれる
がっつり女性とキスしているザイド王子の姿が見え思わず目をそらした
女好きキャラだったイメージはないが
まぁ、女に不慣れでもない
適度に遊んでいるのだろう
前を歩くラシャド王子は不愉快そうに眉間にしわを寄せそそくさと自室の扉を開いた
「で、僕はどうしたらいいの?」
そういって振り向いたラシャド王子を見てあぁ間違えたと思った
ちゃんと明るいところで彼を見ていなかったこともあるが失念していた
彼には双子の影武者がいる
「とことんついてないな」
そうつぶやいた俺は無抵抗のまま袋をかぶせられる
まさかこっちが黒幕だなんて考えもよらなかった
いや、焦りすぎて判断を誤ったのか




