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ガシャン


勢いよく絞められた扉に

放られて倒れ込んだまま檻の外の従者の方を見る


「貴方・・・これが国際問題にならないとでもお思いですの?」


「・・・クリスティーナ様は一か月間の国賓滞在中にハキーム殿下との子を妊娠

エリック様との婚約は破談となり帰る場はなくなる予定です」


感情無くつぶやかれた言葉に私は強くこぶしを握る


「お父様は・・・エリック様との縁談に失敗したわたくしをきっと見捨てますわ・・・

ロドワールからの後押しはないものと思った方がいいですわね」


強気で返したが鼻で笑われる


「もともと、ハキーム殿下が王になるための婚姻です

戴冠式の済んだ今、貴女はすでに用済み・・・ロドワールからの支援がないと分かれば本格的に不要になります」


その言葉にひゅっと咽喉が鳴る

私は今、父の支援目的に生かされているに過ぎない

切り捨てられたらここで、場合によっては身重の状態で捨て置かれる可能性がある


「ハキーム殿下を悦ばせることに尽力するんだな」


女を蔑んだ、下賤な顔

悦ばせることと、孕むことにしか価値がないとでも言いたげな瞳・・・


絶対に許せない


ガシャン


強く殴った柵が揺れる



取り押さえられた俺はあわててその場を離れる

あれは、あのネックレスは代々后妃に送られるものだ

つまりクリスティーナは誰かしらかの妃として迎えられている


クリスティーナが消えた方向からワァァァァっと民衆の歓声が聞こえる

お披露目がされているとわかり駆け出す

誰かに仕組まれたことは一目瞭然だ・・・とにかく事態を自国に伝えなくては

ここにいては事を揉み消すためにも自分は邪魔なはずだ

一刻も早く離れないと


足早に城から出ようとしてふと立ち止まる

王国から出なくては、新国王が即位している可能性がある

だからといって国から離れたらその間にクリスティーナがどんな目に合うか分からない


そこでようやくアレイデア王国にいる攻略対象について思考が廻った


第一王子のラシャド王子は心優しく穏やかな性格。

王としての素質は無く期待外れだと言われているが・・・確かエンディングはそうだ聖職者になって田舎でスローライフを送っていたはずだ


第十二王子のザイド王子は覇王といわれた先々代の血を色濃く受け継ぐ王子だ

カリスマ性もあれば戦のセンスもある

上の兄たちをいかにして陥れ、勝ち上がるかを考えていたはずだ


可能性として考えられるのはザイド王子による策略だが、どうも詰めが甘い

それに、プライドが高く俺様気質・・・

彼ならクリスティーナを惚れさせて俺の女にするとか何とか言いそうなものだ

だが可能性が捨てきれない以上、俺が頼れるのはラシャド王子の方だろう


設定では裏庭の神殿跡地にある廃教会によく通っていたはずだ

俺は着せられた白い服を適当に脱ぎ、従業員服を拝借する

褐色の肌でよかった

どう見てもここで働く一召使にしか見えない



明かりのない檻の中、廊下にいた見張りの男が交代の為に地下から出た

チャンスは今しかない

誰も私を見ていなければ移動できる

瞬間移動先は・・・思いつくのがここしかない民衆溢れる広間を一望出来るテラス

しゃがめば人ひとり隠れられるだけのスペースが端にあったはずだ

どうか誰も居ませんように

そう祈って私は強く目を閉じる


柔らかに頬を掠める風の感覚にゆっくりと目を開く

星空の広がる空と人々の賑わいが少し遠くから聞こえる

良かった

ほっと胸をなでおろしゆっくりと立ち上がる


「誰だ・・・?」


横からかけられた声にびくりと肩を揺らした

燃える赤い髪にどうしようもない絶望感が襲ったがこちらを向いた彼は右側に流れる前髪が紫がかかり

鋭い眼光も神秘的で紫焔のようだ

別人だったことに安心したいのに

余りのプレッシャーに言葉が出ず喉が張り付いたように動かない

絶対的な王のような強いカリスマ性を感じた

近づいてきた彼にまるで蛇に睨まれた蛙のようにいたずらに捕食の瞬間を待った


ぐいっと顎をつかみ持ち上げられると彼は私の顔をじっと見て首にかかったそれに鼻で笑う


「なんだ、貴様がハキームを王にした女か・・・愚王にお似合いの装飾品だな」


その言葉にカチンときたからか

するりと強い呪縛から体がほどかれるのが分かった


「誰があんな男の・・・わたくし、男を見る目はありますのよ」


失礼ねと手を叩き射殺すような強い眼光を睨み返す


「あんな卑劣な男と番になるくらいならば・・・平民落ちした方が幾らかマシですわね」


フンとあざ笑うように吐き捨てるように言う

私の言葉に男は目を細める


「・・・ほう・・」


「貴方も王子のお一人?あなたの方がよっぽどふさわしくてよ

国王の失墜の方法をご存じかしら?」


そう紡ぐと彼の瞳はさらに鋭さを増す


「面白い・・・」


まったく顔は笑っていないが


「探せ!!貴様、何してたんだ!!」


後ろでが鳴るハキームの声が聞こえた

私を見張っていた男がハキームに殴られながら必死に駆け回る

身をかたくする私を包み込むように目の前の男が靡くマントの中に匿うとぐっと顔を近づける

柔らかい感覚に目を見開く


え・・・唇・・当たって?


「なんだザイドか、珍しいな女といるなんて」


そういって私の方をのぞき込もうとするハキームから私を隠すようにするとすごむように低い声を出す


「見てわからなかったか?お楽しみ中だ・・・邪魔するな」


その言葉におずおずと引き下がるとハキームはふんっと小者らしく鼻を鳴らす


「俺が王になったことを忘れているようだな」


その言葉を無視してザイドは再度私に唇を寄せる

まったく相手にすらしていないような振る舞いにハキームはわなわなと怒りに肩を震わせたのちいかり肩で去っていく


ちゅっと音を立てて離れた唇に私は真っ赤に固まったまま唖然とする


「おっと・・・もしかして初めてだったか?」


悪戯っぽく笑う彼に私は息を吸うのさえ忘れてそのまま後ろにばたりと倒れた



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