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生暖かい風と強い湿気の不快感で目を覚ます


「んぅ・・・」


麻の棚引くカーテンと漏れる月明り・・・

そして窓辺にある陰にひゅっと咽喉を鳴らす


黒い影がこちらを見つめていた


「れ・・・」


咄嗟に呼ぼうとしたレオの名前はその黒い影によって塞がれる


「危害を加える気はない」


耳元でささやかれた言葉に必死に頷くとそっと口から手を離される


「手荒な真似をして済まない」


スッと離れるとその男は私をジッと見つめたまま感情のない顔で口を動かす


「本日、我が妹をお救いいただいたと聞き及んだ・・・貴殿には感謝している」


その言葉にきょとんと首をかしげる

誰か助けたりなんかしたっけ??

暗がりの中目を凝らすようにしてジッとその人物を見る


紫がかった黒髪にやる気のなさそうなぼんやりとした目


いよいよ身に覚えがないぞ?


「船にて・・・」


呟かれた言葉にようやく理解できた

船酔いで苦しんでいた彼女だ


「ただ、薬をお渡ししただけですわ」


なぜ宿が分かったのかも

なぜここにいるのかも

何もかも分からない

きょとんとしていると手に笛を渡される

革の紐に通されたシンプルなものだ


「これは?」


笛を見つめて顔を上げるともういなくなっていた

夢かと思うくらいに一瞬で、つい頬をつねった


「・・・・いたいですわね」


間違いなく手にある笛に軽くため息を落としもう一度ベッドに身を潜り込ませた



「おまっ・・・これ・・・!」


渡した笛を震える手で握りながらレオは叫ぶ


「これをどこで手に入れた!?」


ラクダに揺られながら絶叫するレオは少し落ちそうになる

耳元で叫ばないでほしい

同じラクダに乗っているため距離の近い今キンと耳に響く

私はまだ万全ではないのだ


「どこって・・・昨夜はずっと宿にいたの、ご存じでしょう?

これが何かお分かりですの?」


ゆらゆらと不規則に揺られながら返事をするとレオは複雑そうな顔をする


「これは、ビーステインの守り笛だ」



守り笛

そうつぶやきながらレオの手から垂れ下がりゆらゆらと揺れるそれを見つめる


ビーステイン王国は広大で木々の生い茂る湿地帯に獣人族が文明を築いている

身体能力が非常に高く、大昔は人族との戦争も絶えなかったとのことだが現在は友好的な関係だと聞く


「ビーステインの守り笛は昔の文化だが

男が婚姻を結んだ女に一生守るって誓いを立てて送るものだ

その笛の音はどんなに離れてても送り主には聞こえるように調律されてる」


きらりと光る笛を見ながら昨夜の男性を必死に思い出すが頭がくらくらしてなかなか働かない

砂漠の照り返しは強くフラッシュのように私の視界を奪うのだ


すごく眠そうな顔をした、やる気のなさそうな瞳

耳やしっぽはマントをかぶっていたためあったかどうかなんてわからない


「・・・・ん?

わたくし、求婚されておりましたの!?」


数泊置いてから驚いて声を上げるとやれやれとレオが声を上げる


「求婚時に送ってたのは昔の文化だと思うが・・・・なんにせよ、不用意に吹くのは避けよう

そいつがどんな意図で守り笛を渡したのか分からないしな」


幸い、ラクダでは酔わなかったがいかんせんお尻が痛い

不規則な前後運動は踏ん張りがきかないし

上下にも思ったより揺れる


「昨日の船にいた女の子を覚えていて?

彼はあの子の兄上だとおっしゃっておりましたわ」


「は・・・?あの女の子は人・・だったよな?」


「えぇ、耳やしっぽを隠している様子ではありませんでしたが・・・わたくしも自分のことでいっぱいいっぱいだったのであまり自信はありませんわ」


ビーステインへはまだまだ先だが訪問の予定自体はある

笛の事はその時にでも聞こう


途中、砂漠の中に生い茂る木々と湖を中心としたオアシスで休憩し、露天商で売っている綺麗な装飾品や南国の様々なフルーツを堪能した

王宮から派遣されているガイドのおじさまはとても親切で文化や人々の暮らし

このオアシスに主に集まる商人団体についてなどを教えてくれた


アレイデア王国の名産は宝石や装飾品

それに繊細に編み込まれたエキゾチックな柄の絨毯だ

私の部屋をアレイデア風装飾に変更したくなるくらい素敵で心惹かれる


「文化的交流や魅力を知るためにも・・・色々と買い付けるのも手ですわね」


呟く私にレオがそうですねと賛同する


「モロッカンか、いいねインド的装飾もまた」


スンスンとスパイスの香りが鼻を掠める中レオは何やら呟いている


「和の文化に近い国も設定しておくんだったな」


何やら自分の世界に入ってしまったようだ


「王宮まではあともう数時間です、そろそろ参りましょう」


水分などの補給も済み再度ラクダに乗せられる

少し休んだはずなのにズキリとおしりが痛む


今から帰りの道が億劫だ

ここから数日間北上したところにあるビーステインにはそのまま向かうことに予定を変更すべきだなと思うほど船も砂漠も体力を奪う

レオも同じ事を考えているようで

次の国はビーステインにしましょうと何度もつぶやいていた




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