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挿入話◆ジルの冒険

「ジル様」


「いいから早くっ!!」


困り顔の御者をせかし僕は一人馬車に揺られていた

この事はおにいちゃんにも、お目付け役にも誰にも伝えていない


こないだ、クリスティーナがお城に遊びに来てくれた

今回はお薬で有名な国に行っていたらしい

楽しそうでいいなと思っていたがお世話役のロザリーは


「とっても体力のいる大変なこと」


とか


「クリスティーナ様だからできる立派なお勤め」


とか言っていた


久しぶりのクリスティーナに僕も会いたいなとそう思っていたのにリリアンが遊びに来ていてなんだかそんな気にならなかった


ハッとしたのはバラ園でリリアンにお花を摘んでいた時だった

チクリと刺さったバラの棘と指先から出る赤い血に僕を守る血だらけのクリスティーナを思い出した


「あれ・・・なんで?」


一人で誘拐されて・・リリアンが兵を呼んでくれて助かった・・・?

いや、違うそんなはずない

だって一緒に商店でお買い物をして

あれ・・・?


頭がずきずきと痛い

僕は・・・僕を助けたのは・・・?

蹲って近場にあった石を何の気なしに投げた

森に飛んで行った小石に驚いたのかカラスが数羽飛び立つ


漆黒の羽の艶やかさに黒い魔王のような男を思い出した

腕に抱いたクリスティーナを見つめる燃えるような赤い瞳


そうだ、あの時僕を救ったのは、手を引いてくれたのはクリスティーナだ

あの悪魔のような男に眠らされてぐったりと地面に崩れ落ちた彼女に縋って泣いたこと

レオの連れてきた衛兵たちに見つけられ保護されたこと


どうして忘れていたんだろう

はっきりと思い出した出来事に頭の中で何かがパキリとわれた気がした


クリスティーナに会わないと


口の中でつぶやきすくりと立ち上がる

慌てて駆け出した僕にリリアンがきょとんとした顔でこちらに来た


「あら?どうしたのジル、お花を摘んでくれていたんでしょう?」


リリアンとしっかりと目が合ったのにいつもみたいにうっとりととろけるような感覚にならなかった

むしろ隣で優しくリリアンを見守るおにいちゃんに呆気にとられる

僕もこんな顔でリリアンの事を見ていたのかな・・・


「ちょっとといれ・・・」


そうつぶやき足早に庭園から屋敷に戻ると少し奥まった陰に隠れるようにしてクリスティーナとレオがいた。

思わず庭と廊下の間に置いてある花瓶の裏に隠れるとそっと二人を覗く


ジッと無表情にエリックとリリアンを見つめるクリスティーナに僕の方が焦ってしまう


「完全に虜、ですわね」


「お嬢も彼女みたくかわいらしくエリック様ぁとか言いながら寄り添えばよいのでは?」


「御冗談を」


薄く口角を上げて笑いレオに向き直る


「思ったよりも早く、わたくしは婚約を破棄されてしまいますわね・・・」


少し切なくつぶやかれた言葉とともにクリスティーナは帰っていった

どうにも話しかけにくい雰囲気だ

それにリリアンの虜になっている兄とクリスティーナを鉢合わせたくなかった

僕が今話しかけたら、リリアンとおにいちゃんがクリスティーナに気がついちゃう



その夜、ご飯を食べた後ずっと考えていた

消えた記憶

なぜか惹かれるリリアン

他は大丈夫なのになぜクリスティーナの存在ばかりがそうでもいいと思えてしまうのか


考えても考えても分からなかったがふと

レオに聞いてみようかな、なんて思ったのだ

達観していて何でも知っていそうだと以前から思っていたのだ


そうして僕は情けなくなってしまったおにいちゃんに伝えることなくクリスティーナのお屋敷に独断で向かっている

リリアンがくると面倒なので早朝に

ロザリーが騒ぐといけないので念のため彼女宛に置手紙だけ用意した

クリスティーナに外交についての話を聞きに行くという旨と

兄には伝えないでといった内容だ


まだ日の高いうちにクリスティーナの屋敷につく

あまり騒がせてはいけないと思い裏から従業員棟を目指す


「レオ!!」


たまたま裏の庭を通りかかったときにレオが見えた


「え・・・?ジルティアード様??」


驚くレオに手をこまねき草むらの奥に隠れる



「僕が誘拐された時、クリスティーナも側にいたよね?

レオが兵と一緒に助けに来てくれたんだよね??」


立て続けにした問いかけにレオはきょとんとした後口を開く


「えぇ、私が付いた時にはすでに不義を働いたものに関しては気絶しておりましたが

クリスティーナお嬢様とのお買い物中に事件が起こったと認識しております」


やっぱり・・・ううーんと考え込むとレオが心配そうに僕を見つめる


「どうかなさったんですか?」


実は・・・そう口を開こうとしてすぐに口ごもった

まだあの誘拐事件があってから半年も経っていない

それなのにもう当時の事を正確に思い出せないなんて

僕が病気かと思われてもおかしくない


「あ・・・えっと、最近リリアンがよく来るから・・えっと、町に出たいんだけど危ないかなって」


アワアワと言葉を探していたがレオの悲しい顔に口をつぐむ


「そうですか・・・ジルティアード様も・・・

護衛を複数つければ城下に降りてもさほど危なくないかと存じますよ」


自分の言ったことを引っ込められたらいいのにと思った

これでは自分もクリスティーナを差し置いてリリアンに夢中みたいに聞こえただろう


「レオ・・・!僕は・・!!」


慌てて訂正しようとすると後ろからレオを呼ぶ声が聞こえた


「申し訳ございません、私もそろそろ戻らなくては・・・

エリック様に・・・よろしくお伝えください」


ほんの少し冷たい声色に僕はきゅっと口をつぐむ

クリスティーナが婚約を破棄されたらどうなるのだろう


何とかしておにいちゃんからリリアンを引きはがさないと

自分が抜け出せたのは大きなチャンスかもしれない

あのよく分からない魅惑からおにいちゃんを救わないと


そう強く決意した


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