挿入話◆エリックの憂鬱
※2019/08/18 23:00
前話において、未完成のまま投稿してしまうという手違いを起こしておりました。
上記の時刻に完成版に差し替え、約1000文字程度追加内容があります
大変申し訳ございませんでした。
「エリックさまぁ」
甘ったるい声で腕にへばりつく少女に一瞬ザワりと背筋が震えたが拒絶しようと少女に目を落とした瞬間
自分のものとは思えない甘い感情が心を占める
「どうしたんだい、リリアン?」
自分でも信じられないくらいねっとりとした愛しさの込められた声が口から出た
自分が好きなのはクリスティーナな筈なのに
彼女の事は取り立てて気になる要素なんて無いはずなのに
どうしようもなく目で追いたくなるし
掴まれた腕にもなんだか悪い気さえしなくなってくる
「ジルったら変なことをいうの」
「ジルって呼ばないでーッ」
両目を覆ったままリリアンを拒絶していたジルだったがリリアンがしゃがみ優しく目を覆う手を外すとたちまちトロンとした目でリリアンを見る
おかしい
自分も、ジルもなぜかこのリリアンに振り回されている
もう来ないでくれといいたいのになぜか言えない
「またくるわね!」
去っていく馬車を見送り、姿が見えなくなったっところでようやく魔法が解けたかのように体の自由が戻る
「おにいちゃん・・・」
不安そうに服の裾をつかまれ俺も肩を落とす
ジルも俺もどうしたというのだろうか
「へぇ、あれがエリックの恋人か・・・?随分とクリスティーナ嬢とタイプが違うんだな
ああいう甘ったるい女がタイプか」
後ろからかけられた声に振り返る
「ヨシュアお兄様」
そう呼ぶといやそうに眉間にしわを寄せる
「その名で呼ぶな・・・で、いつクリスティーナ嬢との婚約を破棄するんだ?」
その言葉になぜか時期を言いそうになる口を慌てて塞ぐ
「クリスティーナ嬢との婚約破棄が決まったら教えてくれ、私がもらおう」
ふふんと口角を上げて笑う兄に思わず声を上げる
「なぜ、貴方がクリスティーナを?」
この問いにはあの方にお会いするためとか訳の分からないセリフが返ってきた
やはり話の通じない相手だと思ったが続けられた言葉に固まった
「クリスティーナ嬢が来訪した日にわざわざリリアンと懇意な仲を見せつけるほど疎んでいるというのに・・・何をそんなにムキになっているの分わからんが・・・
まぁいい、あのお方を抜きにしても彼女は優秀だ
他国とのパイプもしっかり作っているし・・・婚約者の逢瀬現場を見ても颯爽としていたしな」
クリスティーナが、見ていた・・・?
そんな、だって、彼女が来た日は特にリリアンは訪問していないはずだ
父上には報告したようだがなぜか自分のところには来ないとは思っていたが
そんなはずない
ジルや兄の存在さえも忘れ部屋に駆け出す
慌てて手帳を開き予定を見て頭が真っ白になる
あんなに、指折り数えて待っていたはずなのに
クリスティーナの戻る日を一週誤認識していた
毎日あと何日と数えていたはずなのに
なぜ、一体どうしてそうなったのだろう
先程言われた兄の言葉が頭に反響する
「クリスティーナ嬢が来訪した日にわざわざリリアンと懇意な仲を見せつけるほど疎んでいるというのに・・・」
つまり、クリスティーナは見たということだ
リリアンにデレデレと鼻の下を伸ばす自分を
そして何より、大変な外交を終え帰ると婚約者が他の令嬢と・・・
わざわざ、見せつけている
誰もがそう思うだろう
クリスティーナもそう思ったはずだ
「婚約者の逢瀬現場を見ても颯爽としていた」
自分がいかに慕われていないかと思うとガクリと膝をつきたくもなったが
クリスティーナは連日イザベラに虐められていた
疲労困憊の彼女に言及する力がなかったとも考えられる
ここまで考えてようやく、こちらに戻っている間に一切の連絡も訪問の無かったことを今まで気に留めていなかった自分に気が付いた
連日リリアンが訪問しており、思考がずっと謎の愛情にとらわれていたのは事実だが
逢瀬現場に鉢合わせた婚約者を放ってリリアンと会っていた
その婚約者は健気にも次の外交に勤しんでいる
・・・自分で自分が嫌になる
最近ひそひそとメイド達が自分を見ると何か話していると思ったが、これか
何とかしてリリアンに会った時のあの不思議な感覚から逃げださなくては
強い決意も虚しく翌日腕に絡みついたリリアンにまたもエリックは甘く囁き
クリスティーナの存在を意識の底に忘れ去ったのだった




