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「貴方が・・・わたくしの味方になってくれたこと・・嬉しかったですわ」


絞りだされた言葉に体が凍り付く

燃えるような復讐心も恨みも一瞬停止した思考に鎮火され

疑問符が頭を占める

後ろでディアンが俺を味方だと言ったクリスティーナのことを笑っている


言い残すことはないと目を閉じた目の前の少女に視線を落とす

味方、味方といったのか・・・?


クリスティーナの味方?

自分がいつそんなことをしただろうか

鞭を片手に自分を殴る彼女を思い出し必死に憎しみを増幅させる

振りぬかれた鞭と虐げる眼差し

でも、どうしても映像として思い出せない

なぜか第三者視点の画像としてしか記憶がない


疑問に思うとズキリと頭が痛んだ


「当たり前だろ、スチルはあっても映像では製作してない」


記憶をたどっているとポンと肩をたたかれる


「お嬢は俺を傷つけてない」


無精ひげの男はたばこを片手に笑う


「俺は・・・」


クリスティーナから受ける暴虐の日々が塗り替えられていく


握られたおにぎり

教育係ですからとひたむきに俺と向き合う姿


「レオ!」


笑顔で俺を呼ぶ彼女を守りたいと思った

気高くてプライドが高いが

誰よりも努力家で

誰よりもまっすぐな彼女を

俺の手で幸せに出来ないのかと


暗く靄のかかった記憶が晴れる

そうだ、ここは俺の作ったシナリオの世界

何かが外れるような解放感にすっきりと頭が冴える


運命の歯車から自分が解き放たれることが分かった


どうあがいても幸せになれないお嬢を救うのが俺の役目だろ


「おい」


軽く肩を叩かれハッとする

お嬢の腕をつかんだ男が固まる俺を怪訝そうに見ていた

ぐったりとしたお嬢に自分の手に握られた注射器が刺さっていた

ドクリと心臓が跳ねる


「なんだよ、怖気づいちまったか?」


どけと体を弾き飛ばされ後ろにふらつく

目の前の男がお嬢の腕に注射針を突き立て一気に押し抜く

ビクンと一度お嬢の肩が揺れた




とりあえず一人馬車を追ったが

たどりついた小屋にナイルの証拠を見つけ慌てて城に戻る

この場でディアンを打つのが最善だろう

しっかりと近衛を連れてすぐにでも出直さなくてはならない


わかりやすく証拠がそろっている現場にいかに自分たちが間抜けで出し抜きやすい相手だったかが伺える


城に戻るとすぐさま困惑している数人の兵たちを引き連れ小屋に戻る

ナイルの蔓延はこの国にとっても大きな問題だ

麻薬ディーラーのアジトを見つけたと声を張り上げればすぐにでも人は集まった


合図とともに扉を突き破り小屋に突撃する

視界に飛び込んできた衝撃に駆け出さずにはいられなかった


ぐるぐるに椅子に縛り付けられてぐったりとうなだれるブロンドの髪

露わになった白く美しい腕には深く突き刺された注射器が取り残されていた

次々に取り押さえられていく男たちに目もくれず一目散にクリスティーナのもとに向かった

後ろで喚き散らすディアンが視界に入らないほど

心臓がうるさく警鐘を鳴らす


慌てて注射器を引き抜きさし口から毒を吸い出そうとするがうまくいかない

あぁ、そんな

後ろで唖然としているレオに怒りをぶつけたくなったがやめた

それもこれも、彼女に叱咤されるまで動かなかった自分の招いた結末だ

巻き込まれた彼を責める権利など自分にあるはずもないのだ




勢いよく体に流し込まれた液体に死すらも覚悟した

思考すらもまともに出来なくなるのだろう


・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・


ん?


勢いよく開かれた扉も

駆け寄ってくるクロルドも妙にはっきりと認知できる

ボーっとするどころか次第に体が冴えわたり意識がはっきりしてくる

抜かれた針も、刺されたときよりちゃんと痛い


むしろ体から毒が抜けたかのような感覚だ

まだかすかに重い頭を上げるとレオのほうに視線を向けた

どうやら、あの注射器に入っていたのはナイルの原液ではなく解毒薬だったようだ


「レオ、縄をほどいてくださる?」


私の言葉にレオは呆気にとられた後テキパキと縄をほどいた


「お嬢、俺・・・」


完全に自由になった私にレオはとても気まずそうにこちらを見上げた


「レオ!!貴様嵌めやがったな!!」


もの言いたげなレオに言葉をかけようとすると後ろから人が変わったようにがなるディアンの声が響いた

今度は私がロープに括られたディアンを見下ろす


「嵌めるも何も、レオはもともとわたくしの従者でしてよ?」


ふふんと笑い幕引きにいざなう


「貴方が勝手にレオと同調して勝手に信頼しただけ・・・

レオはわたくしの事が大好きですもの・・憎しみなんて存在致しませんわ」


オーホッホッホと悪役らしく笑う

すべて調べ上げた

もともと、貴方を陥れるためにした演技だと思い知らせる


確かに、物語に飲まれたレオにはヒヤリとしたが

どこかに理性が働き毒を盛らなかった

それだけで十分に信頼できる

同じく物語に抗おうとしてくれている存在は彼しかいないのだ

例えレオが責任を感じ私から離れようとしたとしても絶対に離してなんてやらないつもりだ




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