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私はすっかり日課になったクロルドの部屋での食事をとりながら紙に筆を走らせる
レオとの連絡は一切といっていいほどとらず私はクロルド担当
レオはディアン担当として動いている
はじめは嫌がっていたが諦めたのか慣れたのか、今では三食を当たり前のようにクロルドととっている
会話が弾むとかはないがそれぞれ自分のことをしながら空間だけ共有する
そこそこ居心地は良く何の問題もない
今日はディアンについてのバックボーンの整理をしつつレオがどう動くかを考える
前回のイザベラの時のようにこまめに連絡が取れればよかったのだが
ディアンはイザベラと違い信頼されているし国王よりもディアン派という存在も居そうだ
こそこそと連絡を取り合うのは難しそうだ
ワープできる範囲内にレオの部屋があったらよかったのだが
従者用の棟が別になっておりワープができない
その為、レオがディアンに信頼されるためのサポートを打ち合わせなく行わなくてはいけない
ざっくりしか聞けていないディアンの過去を振り返る
陰謀によって嵌められた没落貴族
爵位も何もかもを手放し平民・・・いやそれ以下になり果てたらしい
ディアンは国自体に強い恨みを持っており国家ごと潰そうとナイルを蔓延させているらしい
厄介なことに養子として入ったのか没落後ご両親が成り上がったのかは分からないがディアン・レイヴァル・・・ということはレイヴァル商会が出自ということになっている
レイヴァル商会はエルミタージュにいても名を知るくらい大きなフォスマインの商人団体だ
爵位を得る日も近いとまで言われていたはずだ
この国きっての商人団体が率先してナイルの流通に力を入れている
それが意味する事が恐ろしく身震いする
レオはそこそこうまくやってはいるだろうがきっと販売ルートや取引先リストまでは手に入っていないだろう
ディアン側から直接そこに行きつくのは難しそうだ
だったら、レイヴァル商会側から顧客としてもディアンと接触したらどうだろうか
レオは元奴隷・・・それだけでエルミタージュへの恨みの証明になる
フォスマインを潰したいディアンが
もし元奴隷のエルミタージュの男がこそこそとナイルを大量に購入している現場に遭遇したらどう思うだろうか
きっと国家を潰そうと企てる同志のように映るだろう
やらなくてはいけないサポート内容に思いが行きつき眉間にしわを寄せる
乗り気はしないが仕方ないだろう
重い腰を上げ私はディアンとたまたま遭遇すべくクロルドの部屋を出た
◆
暗闇の中手に入れたナイルを月夜にかざす
怪しく光るその液体に口角を上げ上物だなとつぶやく
設定やシナリオ作成に参加こそしたがレイヴァル商会のどこまで行きつけばディアンと接触できるかまではわからない
一日に何人もの商人からナイルを買い付け、だいぶ深く知り合っては来ているがまだまだだろうか
対面しているディーラーにちらりと目をやる
服は上物・・・恰幅もよくそこそこ金持ちそうだ最初に接触した下っ端からしたら随分と上層部になってきたがまだまだだろう
金貨の入った袋を渡し闇夜に消える
一か月以内で何とかたどり着かなくては
最近少し寝不足気味だからか少しだけ視界が霞んだ
軽い仮眠を澄ませ廊下を歩いているとお嬢とディアンが話していた
なんとなく咄嗟に隠れると二人の会話に耳を傾ける
「あぁ・・・あれは元奴隷上がりの出来損ないですの
ディアン様に失礼がないか不安に思っておりましたが・・・よかったですわ」
冷たい声色に思わず凍り付く
「せめて足は引っ張らないでほしいですわ
ディアン様も、気を使ってあんなのと仲良くしてくださっているようですが
捨ておいてくださって結構ですのよ」
高笑いとともに颯爽と去っていく後ろ姿にぐらりと視界がゆがむ
強い憎しみと憎悪が体の底から沸き上がり頭が沸騰するように熱くなる
殺してやる
あんな女、この手で・・・必ず
視界までも赤く染めてしまいそうな感情にとらわれているとポンッと肩に手が乗る
驚いて見上げるとディアンが優しいまなざしでこちらを見ていた
「どうかしたのかい?」
柔らかい声色に嘘のように怒りが収まる
俺は今、何を考えていた?
お嬢が発したあの言葉が、何を意味するのか理解できるのに
何で燃えるような怒りが沸いてしまったのか
自分で自分が恐ろしくなる
お嬢を、クリスティーナを憎めと運命が動こうとしている
お嬢の言葉が、俺にディアンの意識を向けるためだとわかっているのに
強くこぶしを握る
しっかりしろ、俺がお嬢を守らなくてどうするんだと強く言い聞かせる
今夜にでも接触してくるだろうディアンに意識を向け
少し痛みの残る頭のまま俺は覚束ない足取りで部屋に戻った




