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フォスマイン王国編

「お嬢・・・」


気遣うように発せられたレオの声に私はぐっと下唇をかむ


「大丈夫よ、そんなことより・・・時間がないわ」


指先が白くなるほど手を握り、私は窓の外を見据える

本当は遠出なんてしている場合ではないが始めてしまったものは今からどうにも出来ない

私が動いたことで破滅までの道のりがもしかしたら近くなってしまったのではないか

そんな不安が思考を占領する中私はこれから向かう次なる王子について、レオがまとめてくれた資料に目を通す


シュタイン王国から帰国するとまずはエリックや国王陛下にご報告の為と登城した

そこにはなぜかリリアンが遊びに来ていたのだ

本来男爵家はそうやすやすと登城できないはずだがなぜか、いた

近衛とも仲良く話していたし、ジルとも仲良さそうだった

そしてなにより

エリックも、自然な笑顔で笑っていたのだ

作られた、王子様スマイルではなくだ

確実に外堀を埋めようとしていると、そう感じた


「お嬢、気が気でない気持ちも分かりますが、クロルド・フォスマイン王子に集中しましょう」


レオの言葉に顔を上げ深く頷く

クロルド王子

別名引きこもり王子

頭脳明晰で特に医学に精通した彼は社交界には一切顔は出さず

政にも興味のないオタク気質な青年だ

ひたすら城の地下に籠り医学や科学に熱中しているという


注意したが出てくることはない

しかしたまに役立つ医療知識を出してくるため国王も怒るに怒り切れない状況だとか

ひと月という期間で彼を地下から引き摺り出す事ができるかどうかが勝負だ


私は付け焼刃で用意した医療書に目を通しながら盛大にため息をついた



国王との謁見を終えた私は案内された部屋に移動し、ぐったりと座り込んだ


「いやぁ、なかなかでしたね」


レオも頭痛がするのか頭を抱えている

謁見時、国王に言われたセリフは要約すると


引きこもりの息子を何とかしてほしい

エリックほどの人物を射止めた君の魅力があればいけるはず

その為に呼んだんだからね

という感じだ


おかしい

おかしすぎる


私は、交流のために来たのであってドラ息子の更生に来たわけではないのだ

そういった問題は家庭内で解決していただきたいものだ


謁見の際にすら顔の一つも出さなかったクロルド王子に私の取りつく島なんてあるのだろうか


それに、私はエリックを射止めたわけではない

こうしている今にもエリックはリリアンに射止められそうになってる


あぁもう


考えていても仕方のないことだろう

私は、私にできることをするしかなさそうだ



「クロルド王子」


ノックをしても返事のない扉に声をかけるがやはり返事はない

レオのことをちらりと見ると大きく一度頷かれる


「クロルド王子、出てきてくださらないと交流会の意味がございませんわ

このまま閉じこもるとおっしゃるならわたくし、無理やりにでも中に入りますわよ」


これは最終警告だ

これでだめならレオに聞いたクロルド王子が外出時に使用している抜け道を使う予定だ


シンと静まり返っている扉の向こうから身じろぐような布のこすれる音がした

いるのは確かだが顔どころか返事もしないとはいい度胸だ


「はぁ、いいですわ勝手になさい・・・私も勝手にさせていただきますわよ」


最期にそう言い放ち扉の前を後にする


「お嬢、こっち」


レオに力強く手を引かれる


「レオ、どういたしましたの?」


なんだか様子が違う気がして声を上げる


「いや、ごめんなお嬢も不安なのに・・・なんかエリックの様子見て少し俺も思うところがあってさ

絶対お嬢の事、俺は裏切らないって言いたいのに

何かのチカラが働いて、ストーリー通りになったらどうしようって

少しそんなこと考えちまってさ」


あまりに短期間でエリックを含め城内に浸透していたリリアンに不安感を感じていたのはレオも一緒だったようだ

これがヒロイン補正というやつだろうか

私も少しぞっとした


『ずっとこの時を待ち望んでたよ

お前が!お前が無残に死ぬところを!!!』


クリスティーナを破滅に追いやってレオはそう叫ぶ

反乱による火が燃え上がる中

平民たちの手で無残な死を遂げる主を見ながら


ゾクリと背筋が凍る

それを察してかレオはぎゅっと強く手を握る


「俺は、最後まで守るよクリスティーナ」


初めて名前をちゃんと呼ばれた気がする

力強い手に引かれながら私は新たに強く決意する


どんなに物語に追われようと

もっともっとめちゃくちゃに変えてしまえばいいのだ



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