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7

トントンと肩を優しく叩かれ眠りから覚める

揺れる馬車の心地よさにいつの間にか眠っていたようだ

起きると隣に座っていたはずのレオが向かいに座っている


それじゃあ私が寄っかかっているのは・・・?


柔らかい茶髪が視界に揺れ

あ、おきた

と上からかけられた声に飛びのく


「たっ・・大変申し訳ございません!!」


慌てて離れるとアッシュがそんな慌てて飛びのかなくてもと苦笑いする


「気にしなくて大丈夫ですよお嬢、このむっつり」


向かいでレオが何やら毒ついている


「クリスティーナは疲れているんだから肩を貸してあげたいと思っただけだよ」


「別にアシュレイン王子でなくても私がいましたけどね」


「高さが低いだろう?君の場合」


ふふんとアッシュが笑いレオが歯ぎしりをする

アシュレイン王子は私より四つも年上なのだ

つまりレオも同じく、だ


「大丈夫よレオ、あと四年もすればあなたもきっと大きくなるはずよ」


「えぇ、確信しております」


今のレオは私とそう変わりない身長だが分かっている未来での彼はちゃんと高身長だ

伸びる未来が分かっている為、なぜか勝ち誇った顔でレオは笑う


「仲いいよねークリスティーナとレオは」


ため息交じりにつぶやかれクスリと笑う


「もちろんですわ、飼い主ですもの」


私の言葉に二人は微妙な顔をしてため息をついた




「とても興味深いわね」


私は設計図を見ながら声を漏らす


「ではここの構造が直線状ではなくあえてラインをずらしているのはどうして?」


ペンを走らせると隣からアッシュの腕が伸びる


「我が国の名産である鉱物は」


さらさらと書き足される

鉱物の特徴から気候的要因

さらにはこの工場の持ち主についてまで

よく調べているという印象はもちろんだが何より深い交流と信頼を感じる

頻繁に城下に降りているのだろう


あっという間の城下視察が終わると次は座学だ

目まぐるしいな今日は、と思いながら馬車に乗り込むと後にレオが続くはずなのにバタンとアッシュは扉を閉める


「え!?」


驚いて振り返るがアッシュはすぐさま馬車を進ませる

ぽかんとした顔のレオがハッと我に返ったころには馬車は城とは真逆の方向に歩を進めていた


「なんてこと!!」


慌ててアッシュのほうを振り返ると彼はおどけて笑う


「ちょっと二人きりになりたくて、大丈夫迎えはよこしてあるから」


その言葉に振り返ると馬を引いた近衛兵風の男性と話すレオが遠くに見えた

計画的犯行のようだ


「周りに従者がいるとさ、やっぱり羽を伸ばせないっていうか

ちゃんとしなきゃって思っちゃうだろ?」


急にリラックスしたように馬車内に横たわるアッシュにはぁっとため息をつく


「アッシュ様」


「アレンだよ、ティナ」


にやっと笑って見上げられる

他国の后妃候補のほうが緊張するのでは?という言葉はなんだか野暮な気がして引っ込めた


ゆっくりと速度を落とした馬車は森の中で止まる

馬車から降り、手を引かれて降りるとアレンは馬車を返す

ここからは本当に二人きりになるようだ


「ついてきて」


わくわくと胸を高鳴らせるようなきらきらとした目で私の手を引く彼にここは何か特別な場所なのだろうと察することができた

木漏れ日の中青々と生い茂る草を踏む感覚

髪を揺らす心地いい風

鼻を掠める自然の香り


少し歩くと湖のほとりに立つ小屋に出る


ワンッ


大きな犬が飛びつくようにアレンを押し倒し顔をぺろぺろと舐める


「あらアレン、戻ったの?」


小屋から出てきたおばあちゃんにアレンは嬉しそうに目を細める


「メルおばさん」


「おやおやそちらの子は?」


アレンに差し出された腕にそっと手をのせるとメルおばさんと呼ばれた彼女はゆっくりと私に目を向けた


「わたくしは「ティナだよ、メルおばさん」


名乗る言葉を遮るように発しられた言葉に少し眉根を寄せたが

なんとなく理由が分かり笑顔を取り持った


「ティナ、ティナちゃん

あぁ、よかったアレンにもようやく・・ようやく心に決めた人ができたのね」


しわしわの顔をよりくしゃくしゃにして泣いて喜ぶメルおばさんの背中をアレンは優しくさする


「それじゃあおばさん、ティナと少し二人になりたくて」


アレンの言葉にメルおばさんはそうね、そうよねと嬉しそうに声を弾ませて小屋に戻る

優しく手を引かれて湖のほとりに腰掛けるとアレンは深呼吸をして口を開く


「ごめん、利用するようなことして」


少し悲しそうな瞳で見つめられ首を振る


「メルおばさんは、母さんの姉さんなんだ」


死に目にすら合わせてもらえなかった育ての母・・・

レオの言葉を思い出す


「俺、ここで育ったんだ

貴族でも何でもない、ここでのアレンが俺自身だ」


ぱたんと芝生の上に寝転がり深く深呼吸をする

私も真似して倒れてみるとふわっと芝生に受け止められる


「おばさんももう長くはないのに・・王子だなんて・・・俺じゃないって依存していたから

ずっと心配かけてたんだ」


私がいなくなったらこの子はどうなるのかしら

きっと不安だったに違いない


「でもわたくし・・・」


彼に寄り添えるわけじゃない

あんなうれしそうな顔をしていたのに・・・嬉しそうにティナと連呼するメルおばさんに罪悪感が募る


「俺は、他国でもティナが・・・クリスティーナが同じ立場にいればそれでいい

例え俺の妻にならなくても、それでいい」


切なく囁かれ胸がぎゅっと痛くなる

熱っぽい瞳に思わず見とれる


「いい加減、しゃんとしないとな・・俺はこの国の王になるだから」


勢いよく起き上がると二かッと笑う


「しゃんとして頑張ればクリスティーナだって俺の妃になりたがるかもしれないだろ?

アレンは、もう終わりだな」


その言葉に少し口をとがらせ、クスリと笑う


「アレンのほうが素敵でしたのに」


メルおばさんに挨拶を済ませその場を後にする

会えてよかった


今度は心の底から嬉しそうに私を見つめる彼女を見つめ返すことができた



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