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「よくやったねクリスティーナ」


父の声に身に覚えのない私はきょとんと首を傾けた


社交界の翌朝

早速父に呼び出された私は訳が分からずにいた


「昨日会場で王子の目に留まったようだ」


そうにこやかにいう父にますます訳が分からなくなった


私より二つ年上の王子には挨拶をしたが

軽い社交辞令を交えて終了

綺麗だとは言われたがあれはただの世辞だろう

聡明で麗しいと私も言ったがありふれた賞賛だし、心に留めてないに違いない


何より大勢の人と行った流れ挨拶の一つだ

明日はぼんやりとしか顔も思い出せない


「茶会に招待されたよ、それも今日

二人で会いたいそうだ」


昨日あいさつしたのは第二王子

第一王子は体が弱く長いこと表に出ていない


実質彼が次期国王になるのではないかと騒がれている

父が浮かれるのも当然だ

ずる賢い父の事だ

年老い、世代交代が囁かれつつある現国王退避後

彼が王になったとき摂関政治を行おうという魂胆が丸見えだ

その為には私が后妃になっていた方が何かと動きやすいだろう


本当は、昨日のことを確かめるためにももう一度部屋に引きこもり王子を攻略したかったが仕方ない


手早く準備をしなくては招待に間に合わないのだから



招かれた茶会にちょこんと座っていたのはジル王子だった


私を呼んだのは第二王子ではなかったようだ

父の早とちりだろう

なんだか少しホッとしてしまった


それよりも、だ

並べられたクッキーを前に嬉しそうにしている彼に目をやる

昨日の暗闇では分からなかったが銀色の柔らかそうな髪をしている


やっぱり彼は王子だったのね

ますます設定が似てきてしまいゾクリと背筋が凍る

髪の色まで一緒だなんて


王の側室の子

王位継承権はそんなに高くないが立派な王族だ

穏やかで甘えん坊な性格から王位継承は難しいとされており

そのせいか第二王子と仲が良く勢力争いといった具合ではない

本人も

『王を支えたい』

と忠実な宰相や臣下になるのが物語の設定だ


が、現実はそうはいかないだろう

まだ彼は幼いし

きっと王位を争っているはずだ

ましてやおにいちゃんなんて呼んで慕っているはずが・・・


そう思考を巡らせたとき

ザァっと風が髪を揺らした


ふわりとバラの香りとともに

きらきらと光る柔らかい髪が靡く

金の絹のような髪を青いリボンで一つに束ねた第二王子がアクアマリン色に透き通る瞳を細めた


「ジル、彼女が・・・?」


私に柔らかな笑顔を向けると彼はジル王子に目を向けた


「おにいちゃん!」


嬉しそうに椅子から飛び降りる彼に私も転がり落ちたくなる


おにいちゃんと、確かにそういった

優しく義弟の頭をなでると彼は美しく一礼したのだ


「エリック・ジャン・エルミタージュです」


あまりの美しさについ惚けてしまったが慌てて立ち上がりドレスの裾をもって頭を垂れる


「クリスティーナ・ロドワールです」


一礼しながらも私の頭はぐるぐる回っていた


エリック王子はまさしくそのままだわ

まだ幼さはあるけれど


やはり似すぎた容姿の登場に確信せざるを得なかった

これは、あの箱の物語と全く同じだわ

もし、同じだとしたら

私は今日ここで

エリックと婚約をしてしまう


物語では今日、一目惚れのように彼に射止められた私がエリックに求婚するのだ

彼は二つ返事で私と婚約する

それは決してほだされたり、同じく一目惚れでなんてロマンチックな理由などではない


宰相であるクリスティーナの父親の後ろ盾

また、ロドワール家は資産家な上

兄たちは優秀で将来は保証されている


摂関政治を目論む宰相だと知りながらも大きな見返りの為に15歳という若さで家しか取り柄のない傲慢な女と婚約したのだ


ちなみにだが破滅していくクリスティーナをジルは最後まで擁護しようと奮闘する

ジルの初恋はクリスティーナだが彼女はそんなジルの恋心を知ってか知らぬか彼をとことん利用するのだ


まさに悪役令嬢って感じよね


あまりの悪事についにはかばいきれなくなるのだが


私はふっと息を吐いた

一瞬本当に一目惚れはしそうになったが私は彼に婚約を迫らない

杞憂に終わればいいが万が一にもここが私の知る物語の中だったら大変だ


だが手ぶらでは帰れない

父親からの要望はただお茶を飲んで帰るのでは満たされない

少なくとも次の約束くらい取らないと破滅は勘当という別ルートが開ける可能性もある


それに


ちらりと視線をあげる


ただ義弟と遊んだから

なんて理由で私をお茶に誘うなんてありえない


もし、彼があの物語と同一人物なのだとしたら

悪知恵なく近づくはずはないのだから


ゴクリと一度喉を鳴らすと

にこりと顔に笑みをたたえて前にいるエリックを見据えた


確かめないといけないわね

彼が、私の知る彼と同じなのかどうか



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