表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/58

4

「すっきりしたわ」


私の言葉にエリックは苦笑いをする


「思ってたより壮絶だったようだね」


「あら、今日は随分とぬるい方でしたのよ?」


ふふんと笑いちゃんとおいしい紅茶をすする

砂ではなく砂糖が入った紅茶を口にしたのはひさしぶりだ


国賓対応での嫌がらせを目の当たりにした国王は顔を真っ赤にして怒りそのままイザベラを勘当する勢いだった

私だってそこまで鬼ではない

処遇に関してはこちらから提案させてもらった

その提案というのがイザベラ付きのメイドをなくすこと


着替えはもちろん料理や部屋の掃除はすべて自分でというものだ


靴一つ自力じゃ履けない彼女からしたら地獄の始まりだろう

せいぜい苦労すればいい


手の空いたメイド達には対等にイザベラに意見する権限を与え、フォローに回ってほしいと話した

完全に自分より下の立場しかいないで育ったからああなってしまったのだ

自分の家がスパルタだったことを初めて感謝した


「それじゃあそろそろ戻るよ」


夕暮れを背にエリックは私に向き直った


「あら、そうね・・・道中お気をつけて」


にこりと微笑む私にエリックは複雑そうに下を向く


「・・・どうなさいましたの?」


「・・・アシュレイン王子が、公務も落ち着いたから明日からは時間がとれるそうだ」


そうだったのか、最近忙しそうにしていたが

残り一週間はいろいろと案内してもらえそうだ


よかったとつぶやくとますますエリックは黙り込む

どこか体調でも悪いのだろうか

うつむき気味の顔をのぞき込もうと一歩近づくとエリックは勢いよく私の腕をつかむ


「ねぇ、クリスティーナは僕の婚約者だよね?」


じっと見つめられきょとんとしてしまう

何を言っているのだろう


「・・・えぇ・・そうですわよ?本当にどうなさいましたの?」


驚きながらそう口を開くとエリックは悩まし気にまつげを伏せる


「君とアシュレイン王子は随分仲がよさそうだから」


ぽそぽそと呟くエリックにプッと吹き出す


「仲がいいだなんて、まぁ他国の方で唯一交流はありますけれど」


少し悩んで口を開く

不敬罪一歩手前だろうか


「アシュレイン王子は貴族がお嫌いですのよ

私の家紋を見て苦い顔をしておりましたもの」


私と恋仲になるより、町の娘や使用人と駆け落ちのほうがまだ現実味のあるお方なのだ

どこか納得のいかない顔でエリックは帰っていった




夜中、妙に寝付けず目を覚ます

ココアか紅茶でも飲もうと厨房に向かう

夜も遅いし誰も起きてはいないだろうと思っていたがうっすら明かりがついていた


のぞき込むとぐっちゃぐちゃに散らかった厨房に一人イザベラがいた


「何してますの?」


声をかけるとびくっとイザベラは肩を揺らし慌てて振り返る

が、私を見た途端顔つきが険しくなる


「なに、なんであんたがいんのよ」


「のどが渇いただけですわ」


フンッと横を通り過ぎてテキパキと用意する

ブレンドはどうしよう

シナモンとショウガを入れてチャイにしよう

茶葉はアールグレイ・・・

はちみつをたっぷり入れるとふんわりと甘い匂いが漂う

ホイップした生クリームを落として

うん、いい出来だ


カップをもって立ち去ろうとするとじっとイザベラがこちらを見つめる

いや、甘い匂いの漂うカップを見つめる


「どういたしましたの?」


「な、何でもないわよ!!」


そう声を上げると同時にグーッとお腹が鳴る

どうやら料理が出来ずまともにご飯が食べれていないようだ


「済んだなら、さっさと帰ってよ」


ツンとした態度でそういうイザベラに言われなくてもとその場を離れようと思ったが

どうにもあの汚い厨房で唖然とするイザベラが気になった


はぁ、


お人好しな気はするが戻ってあげよう


「はぁ・・・おいしい」


口の中にほのかな甘みとシナモンが広がりショウガが体を芯から温める


「なんなのよあんた!!」


真横で紅茶に口をつけるとイザベラはバンッと机をたたき私を睨みつける


「欲しいなら一口差し上げてもよくてよ?あぁ、わたくしはあなたと違って食べ物を粗末にしようだなんて思いませんもの砂は入れませんわ」


私の言葉にぐっとイザベラは黙る


「なにをイラついていますの?

あんなに食べ物を粗末にしたんですもの飢えて死んだって仕方ありませんわ」


はんっと笑いカエルでもお食べになったら?と挑発する

イザベラはプルプルと肩を震わせ瞳に涙をためる


「改心なさい」


そういって飲みかけのチャイを差し出すとイザベラは飛びつくように口をつけた


「・・・・おいしい」


「さぁ、飲んだらお片付けなさい、これじゃあ夜食の一つも作れませんわ」


私の言葉にイザベラは顔を輝かせる

まったく、結局私が甘やかしたんじゃ意味はないのに


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ