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「クリスティーナ・ロドワールと申します
親和的国交と相互の国土発展のために参りました
ひと月という期間、至らぬ点は多いかと思いますがよろしくお願いいたしますわ」
同じ悪役令嬢なのだから、彼女もきっと色々と大変なことがあるはずと親しみをもって挨拶する
「いっー「よろしくお願いいたしますわ」
ぐっと強く踏み込まれた足に思わず顔が引きつるがぐっと体を寄せ手を握られ
周囲に分からないよう声までかぶせられた
歪んだ顔にも踏まれた足にも誰も気づかない
ギリギリと強く握りしめられた手が痛い
悪役令嬢の手本とも思えるような凶悪な顔で笑うとイザベラはぱっと離れる
「お兄様が言っていた通り
クリスティーナ様ってとっても素敵な方みたい
わたくし、とぉーっても気に入りましたの」
ニタリと悪魔のような顔でこちらに笑いかける
「一か月、毎日楽しみだわ」
ひゅっと咽喉が鳴った
過保護すぎるメイドなんてもうどうでもいいかもしれない
大きな試練が立ちふさがった
◆
私はベットに突っ伏し泣きたくなる気持ちをぐっとこらえた
なんて、なんて性格が悪いのかしら
イザベラはアッシュとは異母兄妹だが本当に兄を慕っている
本気で兄との婚約を夢見ている設定だ
しかしどこかで自分とは結婚できないことも分かっているため
いっそ結婚や婚約をさせまいと近づく女に嫌がらせを行うお邪魔キャラだ
私は国賓だし、すでに婚約済み
いやがらせ対象にはならないはずだし、していい相手でもない
しかし、だ
恋する乙女はここまで頭が悪いのかと嘆きたくなる
紅茶に砂糖を入れてあげると砂を入れられ
間違えてしまいましたのと庭園散歩中に泥にはめられ
街に出れば巻かれて一人放置
歩いて帰ってはきたが門は閉じており裏から入ろうとすれば下賤な泥棒と間違えたと上からゴミや水をかけられた
「絶対、絶対ろくな死に方いたしませんわよ!!」
イザベラに比べたら私なんて可愛いものだ
こんなにひどいいじめなんてしない
それでもあんな悲惨な末路なのだ、イザベラが幸せになんて許せない
「お嬢、もうアッシュ様かお父様にご報告した方が・・・」
つぶやくレオにそうしてやりたいという気持ちが溢れそうになったが堪えた
「相手はまだ社交界デビューもままならない12歳のお子様
屈する相手ではないとお父様なら跳ね除けるに違いないわ」
私の言葉に納得するレオを横目で確認しながら私はベットの上で枕をぎゅっと抱きしめる
アッシュ様に言って注意してもらった日にはもっととんでもない目に遭いそう
「リリアン様の際もこのような嫌がらせを?」
「そうだな、まぁもうちょい優しかった気もするが」
リリアンはこれに耐えたのか
そう思いながらあの母性本能を妙にくすぐるウサギのような少女を思い出す
「何でわたくしが嫌がらせを受けなければならないのか
まったくもって分かりませんわ」
ごろりとベットで寝返りを打つようにして声を上げると扉の横にもたれかかっているレオがやれやれと頭を振る
「なかなか強烈ですねイザベラ嬢は」
呆れたように声を出すとそのまま続ける
「まぁ、今のお嬢はヒロインみたいなものだし、王子もお嬢に首ったけみたいだし」
からかうような声色に私はむくりと上半身を上げレオを見る
「アッシュ様は別にわたくしの事を好きでもなんでもないですわよ?」
呆れたような目の彼に私はフッと自嘲気味に笑う
「今はまだ出会っておりませんが
いずれリリアン様に会えば彼女にご執心なさるはずですもの」
先日の初めてリリアンと対面したときのエリックの横顔を思い出す
『君のことは愛していない、必要なのはその家柄と資金力のみだ
傲慢な君を愛し、寄り添ってくれる人など・・・本当に要るとお思いですか?』
彼の口からそう放たれるのに、果たしてあと二年も猶予があるのだろうか
小娘相手にくじけそうになっていた自分を律する
悪役には悪役なりの戦いがるのだ
「あの小娘・・・ただじゃ済まさないわ」
彼女にふさわしい破滅の道は何かと考えると少し心が躍る
私も立派な悪役ね
人を陥れるよう模索するのがこんなに楽しいだなんて




