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「ぁ・・・・」


小さな声が漏れた

私はこれを、知っている・・・・




私の社交界デビューは完ぺきだった

周囲の感嘆を背に私は誇らしく会場を歩く


さすがの声は私ではなく宰相である父に降り注ぐ

そういうものだ、世の中

兄たちの時は父の横で肩を抱かれねぎらわれていたが

私の場合そういったことはない


アクセサリーとして

また一つ父を輝かせることができたというだけだろう

なんだか嫌になった

ずっとずっと待ち遠しいと思っていた社交界のはずなのに

なんだかたまらない気持ちになった


「いい人に嫁ぎなさい、それが君の価値だ」


いつだか言われた言葉を思い出し、頭が痛くなった


どうせ私がいなくても、あの会場は変わらないだろう


少し一人になりたいと思い抜け出たパーティー会場

たまたま迷い込んだ裏庭

水滴がキラキラと滴るバラの咲き乱れた庭園にきれいな少年がいた


「だれ?」


やわらかそうな唇から漏れ出たか細い声に顔に熱が集まる


「わたくしは・・・」


そう声を上げてゾクリと背中に寒気が走る


『わたくしはクリスティーナあなたは?』


『ぼくは、ジルティアード・・』


頭に流れる会話


攻略対象のジル王子と悪役クリスティーナの出会いのシーン

クリスティーナ断罪イベントでジル王子が思い出して心を痛めるシーンだ

背景も、露に濡れるきれいなバラ園も酷似している


「だいじょうぶ・・・?」


控えめにかけられた声にハッとする


「え・・・えぇ、ごめんなさい

わたくしはクリスティーナ、あなたのお名前は?」


現実にまで持ち込むなんて

あれは夜のお楽しみに過ぎないのに

馬鹿な考えを振り払い笑顔で聞いたが次のセリフに再度固まらずにはいられなかった


『ぼくは、ジルティアード・・』


幼い笑顔


まさかそんな、あれは物語に過ぎないわ

あの絵と、今のここはとても良く似ているけれど

でももしあれが下町で騒がれている物語の一つなのだとしたら

王国のバラ園をモチーフにしていても何らおかしなことはないはずだ



「ここで何をしているの?」


そう聞くと彼は居心地悪そうにもじもじと体を揺らした


「みんな楽しそうなのに、僕にはお部屋にいろって言うんだ」


口をとがらせてそういう彼はいじらしくかわいい

部屋からこの音が聞こえるということはこの家の子・・・

召使の子という可能性も捨てきれないが服装的に騎士団長の子

あるいは国王の子だろう


バラ園があるということは後宮もそう遠くはなさそうだ


「社交界はあんまりおもしろくはなかったわよ

あなたもそのうち出ることになるし・・・出なくていい今を満喫したほうがいいかもしれないわよ?」


冗談めかして言うと彼は私の手を取り無言で奥に足を進める


アーチ状になったバラの屋根の下にある椅子に私を誘導した


「わぁ、きれい」


椅子に座ると視界にスプリンクラーのようなものが噴水のように霧状の水を出し

バラに水を撒いていた


「僕もはじめは綺麗だったんだ」


そういうといたずらっぽく笑った


「でも毎日見てたらあきちゃった」


「あら、そう・・・」


まぁ、そういうものか

遠くで何やら楽し気にしていたら気になるのだ

バラ園も、遠くからしか見ちゃだめだと言われれば気になる



「ジル様ぁぁ

ジルティアード様ぁぁぁ」


遠くから聞こえた少年を呼ぶ声に再度思考が戻される

目の前の少年がびくりと肩を揺らした

どうやらここにいてはまずいようだ


フゥと息を吐く

声のもとに行こうとする私の手を握って彼はフルフルと頭を振った


私にも一度経験があるが

しつけ係はどこの家の子も怖いものだ


「私が気を引いておいてあげますわ

怒られるのは嫌いでしょう?お部屋に戻るといいわ」


私の言葉に彼は少しだけ目を見開き

きらきらとした瞳を少し細めると私の頬にその柔らかい唇を寄せた


「ありがとう、おねぇちゃん」


微笑ましい気持ちになり顔をほころばせると私は怒りながらジル様ぁと絶叫する貴婦人のもとに向かった


他の家の子供にまで怒鳴るしつけ係などいない

彼にとっては鬼でも私からしては使用人の一人と同様なのだ




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