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「これは・・・なんですの?」
そうつぶやいて指輪を見つめる
レヴィリアは驚くほど無表情だ
「それは、余の心臓だ・・・自分で所持することの出来ない呪いがかかっている
それを所持すると譲渡しない限り外れないが、代わりに保有者はガラスのように簡単に壊せる」
壊したらどうなるかなんて聞けなかった
「誰が・・・そんなこと・・」
さぁなと少し首を振るとレヴィリアは私をちらりと見て笑う
「壊したいと思うか?」
首を勢い良く横に振ると彼は儚く微笑んだ
「今まで幾度となく壊されかけたのだ
所持者を側に置き、危うくなるとその者を手にかけた」
空をかける足を止めるとレヴィリアは真剣な表情で私を見た
「殺されるのならば余がいいと言ったな」
私は彼を見上げる
まぁ、似たようなことは言った
少しニュアンスが違う気もするが
「あの時、余も思ったのだ
悠久の我が命を終えるならばどうしたいかと」
切なく甘く彼は私を見つめる
「クリスティーナ、余はお主の手でこの世を終えたい」
なかなかロマンティックだと思った
満天の星の中、私をまっすぐに思ってくれる人の腕に抱かれて
もしかしたら
彼は今後、変わらない愛を・・・
自分を選んでくれるのではないかと
そう思えるほどに
「えぇ・・・わたくしが人生を終えるときは、きっとあなたにもご一緒していただきますわ」
指輪をそっと撫でてそう言うと彼はハハッと笑う
彼に、ストーリーのどこまでが組み込まれているのか分からない
もしかしたらボツになったとはいえヒロインが現れたら彼女に心を奪われるのかもしれない
ただ、もしも彼の前にヒロインが現れても、決して揺るがないくらい
彼を夢中にさせればいいだけだ
私を待ち受ける破滅の道も
彼ならば指先ひとつでどうにかしてくれるのではないかと
そう思った
◆
レヴィリアはふわりとロドワール家の庭に降り立つとパチンと指をはじく
すると馬にまたがったレオが現れた
「お嬢!?
あれ?なんで屋敷に?
森を走ってたはずなのに・・・えっ?」
きょろきょろと周りを見渡す
馬も足を上げたりおろしたりと走るべきか否か悩んでる様子だ
「クリスティーナ」
なんだかおかしくて笑っていると横から声を掛けられる
何かと顔をそちらに向けると額に熱が降ってきた
「よい夢を・・・」
熱に浮かされたまま口を開くと指でツーッと唇をなぞられる
妖艶な笑みを残してレヴィリアはパッと消えた
「・・・・ハッ
なんかわかんねーけど当てられてたわ
まぁ、お嬢が無事ならよかったわ」
疲れたように口を開くレオに私は向き直る
はだしの足に芝生が冷たい
「わたくし、レヴィリア様を信じてみようと思いますわ
彼ならばあるいは、ヒロインではなく、わたくしを救おうとしてくれるかもしれない」
「それって・・・」
「えぇ、わたくしは一応貴族ですもの、魔王との内通は身分が危ぶまれるかもしれませんわね?」
「一応って・・・ロドワール家は歴史あるなかなか重鎮系貴族だぞ」
呆れるレオに微笑む
「どうせわたくしの将来は政略結婚の末の破滅しかありませんもの
何もせず破滅するくらいなら、魔王との内通・・・
なかなかいい響きじゃありませんこと?」
ニタリと笑うクリスティーナの顔を
後にレオはこれが本当の悪役令嬢かと思い知るほど邪悪だったと語った
◆
「今!!なんとおっしゃいましたの!!」
私は暢気に昼食を嗜む父を前に絶叫する
「何を慌てているんだい?もっと喜ぶかと思ったのに」
拗ねたように口をとがらせる父親に殺意さえ覚えそうになる
全然かわいくなんかない
「だから、決まったんだよクリスティーナとエリックの婚約が
王家との婚約だぞ?願ったり叶ったりじゃないか」
回避したはずのエリックの婚約という破滅ルートはどうゆう訳かしっかりと修正されてクリスティーナの前に立ちふさがった




