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王子様がはやり病に―――――



僕がまだ5歳の時、小さな弟が生まれた

父上の寵愛が他のものに向いていた母上は日々泣くばかり

慰めることも

寄り添うこともうまくできなかった


どうしたら母上は笑ってくれるのだろう


どうしたら母上は僕を見てくれるだろう


どうしたら・・・母上は・・・


そんなさなかだった

僕がはやり病に倒れたのは


それでもやはり母上は僕を見てはくれなかった


それどころか

生まれた見ず知らずの子を自分の子だと主張し

子が生まれたのだから私にはまだ愛が向いていると

そう叫んでいた


ひゅうひゅうと咽喉が鳴った


僕はもう、長くないのかもしれない

どうせ死ぬのならいっそ


「・・・あの醜い女も死ねばいいのに」


母への愛は深い憎悪に変わり

僕の心を蝕んでいた


窓の外を眺めながらつぶやいた言葉に答えるように

左目に何かが入った


「ぁっ・・・・・・!!!」


かすれた咽喉から声にならない悲鳴が上がる

目が焼けるように痛い

目に突き刺さったそれはずぶずぶと眼球の奥に沈んでいく

なぜか一滴も血は垂れず抉るような痛みだけが絶えず続く


どんなに藻掻こうと

どんなに苦しもうと


使用人の一人さえこの部屋には立ち入らなかった


そして一晩が明け


気が付くと病にかかる前よりもずっと体が軽くなっていた


慌てて鏡を見ると左目の色素が赤に変わっていた


とっさにそれを隠すと頭に母親の映像が流れる

小さな赤子を抱いて我が子だと叫ぶかわいそうな姿


そしてヒソヒソと噂話をする使用人たち


使用人のような女を執拗に抱く父上の姿


げぇぇっと中身のない胃から水分が出た


今のは何だったのだろう

異様にリアルで鮮明な・・・


もう一度瞳を閉じる


私、うつったらいやだわ

僕の看病を押し付けあう使用人たちの姿が見えた

何度か揉めた後

ようやく観念したのかそのうちの一人が嫌々、こちらの扉に足を延ばす


トントン


ノックする映像と現実でのノック音が重なる


「●●●様」


入ってきたのは映像と同じ

嫌々こちらに足を向けた使用人だった


この目は、今起きていることが見通せる魔眼に変異していた



一日のうちのほとんどを瞳を閉じて過ごした

城には嫌なことしかなく、外の世界は楽しかった


そんなある日


北のはずれに廃城を見つけた

意識をどんなに近づけようと覗けないそれは僕にとっては気になって気になってしょうがなかった


周囲にいる魔物たちによるとあそこにはレヴィリアという魔王が住んでいるという

とても強く、聡明で

人知を超えた存在


もしかしたら、僕にこの目をくれたのは彼かもしれない

そうして一人魔王に憧れた少年の悪魔信仰は加速していく


それから、王子がある事件を起こすまでそう時間はかからなかった

後宮に来たばかりの少女や若い使用人たちが次々と消えていった


生娘たちを使って悪魔降臨の儀を行った姿をまず発見したのは彼の母親だった


全身血だらけでの彼はまさしく悪魔そのものだった

おぞましい息子の姿に怯える母を一瞥すると彼はニタリと笑う


「貴様も同じだろう、汚い魔女め

どんなにあがいてもアレはお前の子ではない」


その言葉を最後にリビアは塔に幽閉された

八歳という幼さでたった一人


少しも抵抗せずに連行され、重い扉が閉まるとき

リビアは笑っていた


その笑顔は

こんなところに閉じ込めたとしても無駄なのではないかと

そう思わせるほどに怪しく、妖艶だったという




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