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「ふわぁー」


あくびをしながらぺたぺたと使用人棟内を歩く


気を張っていなくていいし、旦那さまや奥様がまずいないこっちのほうが気が休まる

執事長は厳しく口うるさいが、ここでの態度はそこまで細かく言われない


「ん・・・?」


窓の外にフラフラと馬小屋に向かう影が見えた

違和感を覚えたが、もしかしたら世話係が施錠を忘れ、酔いの冷めない足取りで向かっただけかもしれない


なんてことないかと寝室に再度足を向ける

何より眠たかった


うちに髪の長い世話係なんていただろうか

うっすら見えただけだが

金髪の、柔らかい・・・


そこまで思考を巡らせてハッとする


「お嬢!?」


一瞬だけ横になった体をすぐに起こし馬小屋に走る


開けっ放しの馬小屋から一匹、黒くて毛艶の美しい馬が消えていた

鞍も何もつけていないのだろうか

それらが持ち出された形跡はなく

地面に残された蹄の跡のみが誰かが馬にまたがり消えたという証拠を残していた


馬小屋からお嬢の部屋を見上げる

窓からはうっすらとした光が漏れている

ベッドサイドの小さな灯りのものだろう

お嬢はいつも寝る前にああして小さな灯りの元に本を読むのが好きだ


きっと、俺が慌てて行くと


今日は特に何も共有できることなんてありませんわよね?


なんて澄まして言うにきまってる

そう、思っているのに

なぜか心臓はやけに早く打ち

不安と焦りをもたらす


長い廊下の先

なぜかクリスティーナの部屋の扉は開いていた


誰もいない部屋

ベッドの上に置かれた手紙に気が付いた


手を触れようとしてそっと引いた

明らかにおかしいクリスティーナの様子はこれのせいかもしれない


デスクに置いてあったハンカチを手に取りそれを介して手紙をつかむ


「やっぱり、何かあるなあの王子は」


差出人を確認する

ほのかに鼻腔を掠める甘い香りに一瞬眩暈がした


本文は簡潔に一行


〔 高き塔にて待つ 〕




最近こんなのばかりだわ


霞む視界

頭が痛くなるほどの強い甘い香り


足元に血で魔法陣のようなものが書かれているせいかなぜか体はピクリとも動かない

私を中心として陣の中に数人、規則的に女性が転がされている

誰一人として身じろぎ一つしない


死んでは・・・いませんわよね?


そして


窓からのぞく大きな月と

それを背に目の前で恍惚と笑う男の姿


「お初にお目にかかりますわ、リビア様」


凛とした自分の声が石でできた冷たい部屋に反響する

口は、動くようだ

座ったまま、指一つ動かないが


私の声にニタリと彼は笑う


「かわいそうに、目が覚めてしまったのか」


あぁ、かわいそうかわいそうと騒ぎ私を見下ろす

無機質に目が向いただけ

私を見ているわけではないその瞳に背筋が凍る


「これから贄になるというのに」



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