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「ぼつきゃら??」
聞き慣れないレオの言葉を復唱するように私は口を開く
「あぁ、その通り
レヴィリアは本編に登場しないはずだ」
「あんなにカッコイイのに・・・勿体無いですわ」
ブツブツとつぶやく私をレオはジトッと睨みつけると再度口を開く
「ギリギリまでは出すつもりだったんだが辞めたんだよ
パワーバランスというか、世界観に合わないと思ってな」
「でも、オープニングにこれが出てましたわ」
そう言って首に下げたネックレスを見せる
「何か鍵になるかと思って買いましたの」
レオはネックレスを見て目を見開く
「お嬢・・・よく気づいたな
オープニングに出てたって・・一瞬だろ?」
「一瞬って・・・しっかりと首に下がってましたわ
こんなに大きなルビーが着いたネックレスを何故彼女がと思えば気になりますわ!」
誰しも、貧相な暮らしの設定のくせして何故これが首に下がっているのだと疑問に思うはず
少なくともわたくしはまず疑問に思いましたのに
「案外、コンシューマーは細かく見てるって事だな
修正させておくべきだったか」
「なんですの?ボソボソと」
いや?っと顔を上げてレオは真剣な顔で私を見る
「本来、いるはずのない最強魔王がこの世界にいるってことがわかった
これがどういう意味が分かるだろ?」
「何を訳の分からないことを仰ってますの?
いいから早くおっしゃって」
ついついムッとして素っ気ない態度をとってしまった
なによりニヤニヤとした笑い顔がどうも癇に障るのだ
「ストーリーに出ないキャラがいるんだ
こいつがお嬢を破滅から遠ざける鍵になるんじゃねぇのか?」
スプーンでピッと私の鼻を指す
「ネックレスは反応したんだろ?」
そう言われてネックレスに目線を落とす
キラリと光る赤は深く、レヴィリアと同じ怪しさを宿す
「反応、そうね
ネックレスに血がたれてしまったのだけれど
その時に急に光りだしましたわ」
垂れたはずの血が綺麗に無くなっている
装飾の隙間さえ
元々そんなことは無かったかのようだ
「レオが綺麗にして下さいましたの?」
いや?と首を振るレオを確認しながらネックレスを外そうとチェーンに手をかける
後ろの金具を外さなくとも頭を通り抜けられるほど長いチェーンを掴み
そのまま持ち上げて外した
筈なのに何故かネックレスは手に無く首にある
「あれ・・・?」
再度同じく手をかけるがいつの間にやら首に戻っている
「外れませんわ」
驚く私に貸してみろとレオが手を伸ばす
「お待ちになって!
レヴィリアが触れた時、手が焼けてましたの」
危険よ、と付け足すとレオはゴクリと唾を飲み人差し指だけをゆっくりとネックレスに近づけツンっとつついた
焼けはしなかったがバチッと音がして指を引っ込める
私の方にも静電気程度のピリッとした痛みが走る
「いってぇ」
ふぅふぅと指先を吹きながら涙目でレオがネックレスを睨みつける
「なんだこりゃ!?つけてて痛くないのか?」
余程痛かったようだ
「痛くも痒くもありませんわ
私からしたら本当に普通のネックレスなんですの」
ただ、困ったな
「わたくし、瞳も青いですし
ドレスは青が似合いますの
赤のネックレスが外れないだなんて」
はぁと頭を抱えると向でレオも呆れたように溜息をつく
あぁ。そうだわ
そう言って立ち上がると棚から針を出し指先をちょこっと指す
プクッと血が出た状態で赤い大きな宝石を握る
「あら?光りませんわ」
「そうだな」
隣からかけられた声はレオではなかった
「なんだ、クリスティーナもう俺が恋しくなったか?」
ふふんと得意げに笑うレヴィリアにネックレスを突き出す
「えぇ、会いたかったですわ
このネックレス、外れませんの」
その言葉を聞くとレヴィリアは不愉快そうに眉を顰める
「外したい、と?」
「えぇ、だって私青のドレスが似合うんですもの」
「赤も似合う」
「そうね、どちらも似合うわ」
ただ、と続け恥ずかしそうにレヴィリアから視線を逸らし少し頬を赤らめる
「わたくし、レヴィリア様には常に美しいと思っていただきたいの」
その為には同じ色ばかりでなく様々なドレスで着飾りたいと
レヴィリアはムムっと悩むとどうして欲しいとクリスティーナに問う
「せめて指輪に、この宝石でできたつるんとした指輪ならレヴィリア様をお近くで感じながらも様々な飾り付けが楽しめますわ」
その言葉に満足したのかレヴィリアは長い爪先をトンっと大きな赤い宝石に当てる
真鍮のようなアンティークなチェーンが消え
装飾が外れる
赤い宝石がまるで生き物のようにぐにゃぐにゃと形を変え、シンプルなリングを象る
「素敵ですわ、レヴィリア様」
指についた透き通るリングにニコリと笑うと満足そうにレヴィリアはふんっと鼻を鳴らす
「容易に犬に触らせるなよ」
不敵に笑い指に輝くリングに恭しく口付けを落とすとレヴィリアは、またパッと瞬く間に姿を消した
「結構飼い慣らしてんなぁ・・・」
呟くようにポソリと口を開き、レオはワシワシと頭を掻いた




