表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/58

9


どうして、こうなったんだっけ


私は床に転がりながら縄に巻かれて身じろぎ1つ出来ずにいた


向かいには幼い銀髪の男の子

同じように縄に巻かれている


第三王子にこんなことするなんて


ギリッと唇を噛み扉を見つめる

古い倉庫のような場所

埃まみれでかび臭い


信じていない訳では無いが、レオの言っていたとおりには果たしてなるのかしら




「第三王子誘拐イベントですって?」


「シーっ!

お前こんな話聞かれたらただじゃ済まないぞ」


レオに注意されいけないと口を噤む


「近々、ジルティアード王子からこう誘われるはずだ

おにいちゃんに感謝の花束を送りたいってな」


レオは声を潜めてそういう


「いいか、物語ではクリスティーナはそれを断るが、ついて行った方がいい

まぁろくなことは無いが死にはしない」


「なにが起こりますの?」


ゴクリと唾を飲む


「ここで王子とヒロインが会うイベントが起きるが

クリスティーナが一緒ならそのヒロインのポジションは奪えるかもしれねぇだろ」


そう言えば、ルートはやっていないがジルは何故かヒロインを知っている風だった

なるほど、過去に会ったことがあるからかだったのか


詳しくは今夜に

そう言われたがその日の昼下がり

元気にやってきたジルに目を丸くする

それもまるで街の少年のような格好をしていたのだ


「クリスティーナ、おにいちゃんにお花買ってあげたいから

内緒で街に行きたい!」


「そんな唐突な、なんですのその格好は」


「変装だよ!危ないから!」


元気に答えられ頭を抱えたくなる

私は今日割と忙しいが、行かねばならぬのだろう


「護衛は・・・この方おひとりですの?」


「うん、大丈夫だよ!」


誘拐されると知っているしこの人こそ信頼ならないが仕方ないだろう

行くしかなさそうだ


「私も変装したほうがいいですわよね?

少々お待ちくださいませね、レオの服に簡単そうなのがあったはずですから」


私の言葉にジルはパァァっと顔を輝かせる

街の少年のような格好の方がいいだろう

髪は編んで帽子の中に隠そう

なんだかソワソワした

不安もあるが少しだけ楽しみだ

私も露店には行ったことがない


ただ気がかりなことといえばレオが今日、講師をお招きして作法や歴史学など教養を学んでいる事だ

何かあった時に手を打ってくれる人がいないというのも不安だ


私が教えられる範囲が終了した

つまり父上の思う教育ラインをクリアした為次のステップに移行したのだ

よりにもよって今日は初回

なんと運のない


とりあえず彼の部屋に軽いメモで王子イベント発生と書き置きしジルが連れてきた護衛とやらについていき街に降りたのだ

家のものも第三王子からのお呼ばれとなれば快く私を送り出した


それからは数店の露天を回っているうちに何故か護衛が消え

誘拐されたという訳だ

口元にハンカチを押しやられた時、ずっと警戒していた私は直ぐに息をとめ、気絶したふりをした為こうして色々と対策がとれた

優位とまでは行かないが心にゆとりが持てた・・・


そして、露店でも一つ、収穫がある

なんだか妙に興味を惹かれて買った赤いペンダントがあるのだが

薄らぼんやりではあるがこのペンダント

ゲームのオープニング映像に出ていた気がする

なにか重要な鍵になるはずだ


今一度部屋の中を見回して

やれやれとため息をついた


「まぁ、何とかならなかった時のことを考えて、動いておくべきですわね」


ロープなどで拘束される時に腕に少し幅を持たせることで緩く縛られることが出来ると教えてくれた兄に感謝しなくては


何かあった時に切り抜けられるようにと剣術を叩き込んでくれた父にも


そう思いながら巻かれたロープを外し声を挙げないようにと口にも巻かれたハンカチのようなものを斬る


洋服に隠しておいた細身の剣は正解だったな

少年なら服の中も調べられただろうが変装した令嬢の娘ならそんなに服の中は調べられなかったのだろう


私は未だ気絶したままのジル王子に視線を落とす

王子が縄で縛られるなんて見ていられませんものね


拘束を全て外すと少しだけ険しい表情が緩くなった気がする


そしてゆっくりと耳を扉にくっつける


男の声は三人

やはりと言うべきか護衛の男の声も中にあった

目的は金だ

ロドワールも着いてきたとなって大金が手に入ると浮かれている


そして次に窓に目をやる

山小屋のようだ

鬱蒼とした木々しか目に入らない


運ばれていた時間は小一時間程度

そこまで街からは離れていないだろう


もう一度扉に擦寄る

彼らが眠るか、外出さえしてくれればいいのだけれど


3人もいたんじゃ勝てないが

1人相手ならばあるいはなんとかなるかもしれない


必死になって扉に耳をつけて目を閉じていたせいでクリスティーナは気づけなかった

後ろの小さな少年が目を覚まし今にも泣き叫ぼうとしていたことに


「うわぁぁぁぁんここどこぉー?

おにいちゃぁぁぁぁん!」


唐突に発せられた後ろからの大声に慌てて跳び退き口を塞ぐがもう遅い

ハンカチで口を塞いだはずの少年の叫び声にたちまち扉が開かれ男が三人、かび臭い物置に入ってくる


「おい、何してんだてめぇ」


背中にジルを隠しながら剣を構える私と対峙し屈強そうな髭面の男が叫ぶ


「まぁ、待て」


そう言って髭の男を止めたのは護衛をしていた男だ


「首謀者はあなた?」


キッと男を睨みつけるとふざけながら首を竦める


「あぁ怖い怖い、ずーっと俺を警戒してたよなぁ嬢ちゃん

そんな細い剣で3人も男を相手してくれるって?」


ギリッと奥歯を噛む


手はカタカタと震え指先が冷たくなっていた

模擬戦しかしたことは無いし

私はそんなに剣が強くないのだ

相手を殺す勇気もないのに、簡単に私の事なんて殺せそうなこの男達に一矢報いれるはずがない


それに、飛びかかりたくても背中のジルから離れることも出来ない


ガッと剣を握る腕を掴まれる

正面に意識を持って行き過ぎたせいで躙り寄る細身の男に気づけなかった


反射的にやったのは兄に教えられた技

手を握られた時、柄を押して相手の肩に突き立てるというもの


女だと油断していたせいか

掴みかかったのが細身な男のせいか簡単に肩に剣が突き刺さる


「グッ」


男の漏れる声と同時に横から殴り飛ばされる


髭ヅラの屈強な男だ

仲間を傷つけられ激昴したようだ


横に吹き飛び壁にあたってズルズルと崩れ落ちる

打ち付けられた背中が痛い


歯は折れていないが口を切ったのだろう

血の味が広がった


ジル王子はあまりの恐怖に声もなく泣き崩れジッと護衛の男を見ている


「おいおい、あまり傷つけるな

身代金が払われなかったら売り飛ばすつもりなんだから」


護衛の男が私の髪をつかみ引き上げる


「全然無事じゃないじゃない」


レオを恨みながら剣を握り直し髪を掴む護衛に突き立てようとしたがガキンっと言う音と共に折られた


破片が1部顔を掠め頬から血が流れる


「あまりやんちゃをしてくれるなよ」


そう言って寄せられた顔に涙が溢れそうになるがグッと堪える

ロドワール家の者はたとえ女でもめそめそと泣くばかりでは切り捨てられる

強く目の前の男を睨みつけたまま視線は離さない


「へぇ、中々の上物だ」


そう卑しく笑われ悔しさでいっぱいになる

こんなもの達に、篭絡されて溜まるものか


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ