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#56
「とにかく、ワタクシが戻るまで、絶対に宿から出ないでくださいね? 絶対ですよ、フリではありませんよ?」
「だったらその、露骨にフリみたいな言い方やめてほしいッス」
「では行って参ります」
テツヤの指摘を鮮やかにスルーして、ハギは窓から外へ飛び立つ。
そして部屋に残されたテツヤは1人。
「……」
することがない。
部屋に何かの本は置いてあるけど、テツヤに本を読む習慣なんてないし、そもそもこの世界の文字が読めない。
テレビもラジオもないし、窓から外の景色を見てたって観光地でもないんだし、10分もしないうちにすぐ飽きる。
「……別に、部屋から出るなとは言われてないッスよね? 宿の中にいたらいいんスもんね?」
誰も聞いてないのにそう言いわけすると、テツヤはこっそり部屋を出た。




