第92部
宿を取り、その一室に泊まっている時、誰かが尋ねてきた。部屋を3回ノックしてから入ってきたその人は、この国の魔法関係の長官だった。
「私は、この「ハルゲドン」国の、神官をしている「ファウーダ・インペータ」と申す者。この国の魔法関連一切を仕切っている者です」
「さて、この国の神官が、我々に何の御用でしょうか」
学が応対した。
「この中で、魔法が使えるものはいらっしゃらぬか」
「自分が使えるが?」
「あなたですか。ひとつ、渡したい物がございます」
勇雄は、一歩前に出た。
「これを、あなたに渡しておきたいのです」
それは、ひとつの小さな袋であった。中をみると、お守りが入っていた。
「どうぞ、お受け下さい。これは、この国の宝のひとかけらです。この国の奥深く、光すらも届かないような深い鉱山の中で、紫色をした鉱物が取れます。それが、「トパーズ」と呼ばれ、この国でのみ取れ、非常にまれな鉱物となっております。どうぞ、お受け下さい」
「謹んでお受けいたしましょう。さて、他にも頼みたい事があるようですが?」
「さすがは、開放の民の魔道士ですね。何もかも見抜かれていらっしゃる。実は、この世界は、以前より何かがおかしいと思うのです。今は、平和ですが、いずれ破綻をきたし、世界は戦乱に包まれるでしょう。そうなる前に、あなた方に、この世界のそのおかしい事を取り除いてもらいたいのです。よろしくお願いします」
そして、一方的に神官は出て行った。
「さて、何かおかしいって言ったって、自分達はここに来てまだ1週間もたっていない。何がおかしいかすら分からない」
「私、なんとなく感じてるよ」
「本当?エリス」
「うん。あのね、お父さんも言っていたんだけど、この国の、元々がおかしくなっているんだって、突然、魚が死んだり、異常気象が起こったり、森が一日で消えたり…」
「何かが、この世界で起こっているっていう事?」
「そう言う事」
「それを見つけよう。もしかすると、ここからの出る方法も分かるかも知れない」
学の提案は、全員が了承した。そして、そのままみんな同じ部屋で寝た。
その夜、彼らは同じ夢を見た。
(「…あれ?ここはどこだ?」
「学、何でいるの?」
「あれ?桜?そうか、ここは、想像上の世界になるのか。夢の世界か」
「部長、いたんですね」
「勇雄もいるのか。だとすると、他の人達も…」
「ご名答〜。ここにいるよ」
「とにかく、突然肩をつかむな、佐古。こっちがびっくりする」
「私もいるよ」
「エリスもか。さてさて、ここは一体どこなんだろうな」)
佐古の後ろには、革と努もいた。そして、彼らは、なぞの空間を漂っていた。そして、ひとつの家が見えてきた。
(「あの家は?」
「想像上の世界、夢の中、全員が意識を持ち、それぞれ行動する。………それから導かれる結論は、ただひとつ」)
家の中から誰か出てきた。
「やって来たか。待っていたよ」
「カオス神…どうしてここに?」
学ぶが彼に尋ねた。
「それは、ここが私の家だからだよ。神の社にようこそ。君達は、ここに来た久しぶりの人間だよ」
「久しぶり、という事は、前にも来た人がいるんですね」
土の場所に着地しながら、カオス神に聞いた。
「そうだ。イフニの姓を持ち、神の力を持ち、最初で最後となるであろう、神になった人間…イフニ兄妹だよ。それに、彼らの友達も来ていたし、師匠と呼んでいた人達もいたな」
「イフニ兄妹……新暦300年後半から、400年代前半にかけて、時間を旅行し、未だ破られる事が無い史上最年少での将軍の地位に就き、さらに、伝説と化した人…やはり彼らは、神になっていたんですね。そして、彼らの血筋は絶える事無く、永遠の時間の中を回っていく」
「よく知っているな。その通りだよ、勇雄君」
勇雄は表情ひとつ崩す事無く、「どうして知っているんですか?」と聞いた。カオスは、あやふやに答えただけだった。
「とにかく、中に入りなさい。他の神も待っている」
「はい」
全員家に上がった。そして、扉が閉められた。
「さて、君達をここに呼んだのは、実は少し手伝ってもらいたいことがある」
「なんでしょうか」
この家は、スタディン達がいた時と少しも変わっていなかった。ひとつ変化していたのは、座布団の数が増えていただけであった。
「実はな、今、君達がいる場所は、こちらと繋がってはいけなかった場所だ。君達の時間では、約300年も前になる。その時、魔法最高評議会の5会長に要請して、こちらの7つの宇宙空間からのエネルギー流出を止めてもらう作業をしてもらった。その際のエネルギー流出先が、今、君達がいるその空間だったのだ。そして、こちらとそちらの位相自体をずらし、二度と行き来出来ないようにした。ただ、ひとつの扉を除いてな」
「なんですか?その扉の話以外はきいたことがありますが…」
「そうか、ならば続きを話してやろう。その扉は、こちらとそちらを結ぶ唯一の橋のようなものだ。長細い橋を想像してくれ。そして、その両端に扉がある。その片方は、君達の空間にある。もう片方は、こちらの空間にある。こちら側については、場所も分かっているが、もう片方の、君達の空間の扉は、どこかは分かっていない。ただ、最後に鍵を託したのは、そちら側の4つの国王に9つの部品としてたくした。それぞれ、神の力を有していて、非常に強い魔力を誇っている。通常の攻撃程度や防御程度ならいいんだが、この世界を破壊しかねないほどの力を持っている。そして、そちらの事はそこで途絶えた。それ以降何が起こっていてもこちらは感知が出来ていない。扉はまだあるだろうが、どこかも皆目見当もつかない。そこで君達には、扉の鍵の全てと扉の位置を教えて欲しいのだ。よろしく頼んだぞ…………」
そこで夢から覚めた。
翌日、方針が決まっていた彼らは、この夢について話し合った。そして、結論として、扉がわかればこちらからも出られるかもしれないという事に達した。
「だとすると、もう一度あの塔に戻る必要性があるわけだ」
一行は、再びあの王の間にいた。
「さて、ここまで順調にいけたわけだが、王に与えられたという鍵は、どれなんだ?」
その時、サインの剣とアントインの剣が光だし、神が出てきた。
「それは、我らだ。我らは、この国の王ラドラ・ティエンゲルに与えられた鍵である。但し、発動するためにはさらに6つの神を見つける必要がある。そのうえ、扉もわからぬ。さて、これからどうする?」
学は、ひとつの可能性をひらめいた。
「この大陸、上から見る事って、出来ないのかな」
「空から?鳥みたいに?出来るはずだけどね、それをする事が出来るのは、皇帝だけだよ」
「じゃあ、その皇帝に聞きに行こう」
「それは、無理だね」
王の間の扉の近くから声が聞こえた。
「誰だ!」
剣を構える桜と学。その鈍い色を発している剣先には、一人の男性が立っていた。
「案ずるな。余は、そなたらの味方だ」
声が明らかに震えていた。
「お前は何者だ」
ぴたりと剣先を付けたまま学が聞いた。
「余は、前国王ラドラ・ティエンゲルの息子。ラドラ・ティエンゲル2世である」
「という事は、現国王になるって言う事か。あそこで白骨化しているのが前の王か」
「そうだ。余がそれを見つけたのは、今日なのだ」
「皇帝にあるのが不可能だと言うのには、何か根拠があるんだろ?それを教えてくれ」
「簡単な事だ。皇帝は、我々が生きている間に追いつけるような御方では無い。あの船の中に入れるだけでも至福。そのような御方なのだ。そのような人に君達がたどり着けるわけが無かろう」
学は、少し考えてから言い返した。
「……そんな事は、やって見ないとわからんだろう。だからこそ、人類はやり続けているんだ。どんな結果になろうとも、どんな事になろうとも、やり続けることに意味があるんだ」
そして、学は、王の横を素通りしていった。他の仲間も彼についていった。




