第91部
跳ね橋が降りていたので、中にはすんなり行けた。
塔の中は、電気が通ってなく、たいまつが落ちていた。
「勇雄、これに火をつけれるか?」
学は勇雄に言った。
「やってみよう」
勇雄はたいまつを持ち、
「ファイア!」
と言った。
すると、手から火が吹きだした。たいまつは燃え尽きた。
「おい!でも、すごいな。一瞬で、たいまつが燃え尽きた。勇雄の魔力を知りたいな」
学は勇雄に言った。勇雄は、何も言わなかった。
「ここにも、たいまつが置いてある」
桜が、別のたいまつを見つけた。
「よし、勇雄。今度こそよろしく頼むぞ」
「了解。ファイア!」
今度は、ちゃんとたいまつに火がついた。
「よし!では、進もう」
上には、電気が流れていた時の蛍光灯が、割れて残っていた。
「何が、ここで起こっているんだ?」
学がつぶやいた時、壁にぶつかった。T字路だった。左右の字は黒く焦げていて何も読めない。
「さて、どちらに向かう?」
「とにかく、上を目指そう。それが優先されるべき課題と思う」
努が言った。
「じゃあ、右に行ってみよう」
「どうして?」
「勘だよ」
「勘って…まあ、いいけどね」
そして、右に進んでいくと、階段があった。しかし、その前に何かいた。しわがれた声で、
「お前達は誰だ」
と聞いてきた。
「俺達は、国王陛下に用があってきた。そこを退きたまえ」
「ひっひっひ。退くだとぉ〜?この、オーク様が、退くだと?そんな事言っちゃあ駄目だ。なにせ、退くのは、お前達だからなっ」
こちらに勢いよく向かってきた。
「どいて!」
勇雄は一番前に立ち、召喚呪文と唱えだした。
「古の時代、この世を制し者達よ。今一度、わが身の前にその姿を現し、我が力となれ!出でよ!サラマンダー!」
地面が揺れ、したから炎に包まれた蛇が現れた。一気に空気が熱せられ、果てしない暑さに包まれた。
「ぎゃー!」
オークは、一瞬で灰燼と化した。灰は、風の流れと共に流れていった。
「さて、これで通れるな」
「いや、勇雄。このサラマンダー。どうするんだ?」
「勝手に消えてくれるだろ?なあ」
すると、蛇の口が開き、
「そうだな…もう戦いも終わったみたいだしな。何かあればまた呼んでくれよ。すぐに駆けつけてやるからさ」
蛇は再びこの星の地下深くを目指し、地の下に潜った。
「サラマンダーって、話したっけ?」
「さあ」
「とにかく、2階に行こう。道は待ってくれている」
こうして、次々とその階の敵を倒していった。そして、最上階のひとつ下。39階目まで来ていた。この時点で既に、使える魔法がいくつか増えていた。回復系の魔法で、リビーブ、混沌の魔法で、キャロル。
「ふふふ、ここまでよく来れたな。褒めて使わす」
「お前は誰だ!」
「私か?私は、この国の実質支配者の、「パルサー」だ。我が味方をよくも痛い目にあわしてくれたな。この私が、お前達をかわいがってやろう」
「やってみろよ」
挑戦心むき出しで挑んでいるのは、勇雄だった。
「では、血気盛んなお前からだ!」
「ファイアウォール!」
両手を前に伸ばしきり、炎の壁を押し出した。
「っ、暑いな…だが、これほどの攻撃では、私は倒せぬぞ」
そう言うと、パルサーは着ていた服を一回振った。すると、炎は突然消え、激しく点滅する光となった。
「これは…」
「我が能力だ。「パルサー」と言う。相手の魔法の威力と同程度の光を点滅して出す事が出来る。さて、お前の魔力はどれほどの物かな?」
言ったとたんに光が弱まりだした。
「そうか、これだけか…」
その時、学が持っていた黒の剣、桜が持っていた白の剣、それぞれの柄に収まっていたそれぞれの色をした宝石が色と同じ光を出した。
「楽しそうだな」
「誰だ!」
パルサーは言った。そして、二人の擬人化されたと思われる映像が目の前に広がっていた。
「さて、強大な異なるエネルギーを感じて、出てみれば」
「どうしようかね。この状況は」
「あなた達は、誰ですか?」
すると、二人の人は、こちらを向いた。みるみる間に服を着て、それぞれの手には、白の剣と黒の剣が握られていた。二人は同時に話そうとしたが、白色の人が先に話しだした。
「我らは、神なり。古の時代よりこの地を治めし者だ」
「懐かしい友が現れたか」
カオスの声がする。いつの間にか、一人増えていた。
「カオスか。今までどうしていた?」
「それよりも、この者達に、紹介してやってくれ。この者達は、開放の民として、ここに来ている」
「そうか、まだあれが生きていたか。まあ、そうだろうと思っていたが…」
「で、結局あなた達は、誰ですか?それに、あれが生きていたって、何が生きていたんですか?」
「まあ、詳しいのは後でいいだろう。自分は、白の神のアントインと言う。聞いたことぐらいはあるだろう?」
「誠実の神、アントイン神。白き神であり、第7宇宙空間を治めているとか…」
勇雄が言った。
「その通りだ。良く知っているな。さて、この通り、黒の服、黒の靴、黒の剣を身に付けているこの俺は、黒の神、サイン神だ」
「悪の神であり第3宇宙空間の神のサイン神。でも、どうして、ここにいるんですか?」
「話せば長くなる…」
「俺を放っておくなー!」
突然、強力な光の壁がこちらに襲いかかった。しかし、神々が、全てを無に帰した。
「さて、最初にこのやかましいのをどうにかしておこうか」
何語か分からない呪文を3人同時に唱えだした。みるみる間に、周りは闇に包まれた。時々、稲光も見える。そして、3人がパルサーに指を向けたその時、闇はパルサーに襲いかかり、一瞬で消滅させた。残ったのは、一枚の紙だけだった。サイン神がそれを拾い上げ、呪文をかけてから、勇雄に渡した。
「これは、君が持っているべきだ。この世界にいる間中は」
「はあ、とにかく、ありがたく受け取っておきます」
勇雄はその紙を受け取った。その瞬間、紙は勇雄に吸収された。勇雄は、闇の魔道書のパルサーを憶えた。ただ、まだ本自体を持っていなかったので、この魔法は使えない。
「さて、この白の剣は、学君、君が持って置きなさい。そして、この黒の剣、これは、桜さん、あなたが持つにふさわしい」
アントイン神は、桜と学にそれぞれの剣を託した。そして、消える前に、王の間に向かいながら、ここにいる理由を話しだした。
「長い話だ。世界を作ったのは、ここにいるカオス神だ。そして、それぞれの世界にそれぞれ神を置いた。今はそれぞれの神自身が、宝玉をそれぞれの宇宙空間に置いている。自分の分身みたいなものだな。ただ、この宇宙空間は、カオス神でさえ想定し得なかった空間。そして、作られたのは、イフニ神が最初に発見するまでの間。それまでの間、それぞれの宇宙空間のエネルギーを吸い続けた。それまでのエネルギーはこちらに残ったままとなる。いつ、エネルギーの暴走が起こってもおかしくない。そして、当時の魔法界の最高峰の5人と相談した結果、神のエネルギー集合体として、それぞれの一部をこちらにおき、ひとつにまとめた物をこの世界の中心とし、そして、それを元にしてこの世界、この惑星のみとする事が出来た。彼らには、当時生きていた、イフニ神の末裔の人間の兄妹を筆頭とする、人間界には一切口外しない事を要請した。そのまま、何百年間も、ここにあり続ける。時に、ほころびが生じ、空間のエネルギー波が同調する人が、偶然空間同士が重なった所にいた場合、このようにこちらに来る事が分かっている。なんだか、無節操な話になっているな。さて、そして、そのエネルギーの集合体を「オーブ」と名づけ、この地の人々は神としてあがめるようになった。神そのものだから、何も文句を言わずに、この地に平和をもたらした。ただ、この惑星の唯一ある大陸、シャウド大陸の皇帝として君臨している、サイコ・サスターは快く思わなかった。最初は、善政をしていたサイコ・サスターだが、側近が死ぬと、次第に本性をあらわにしていった。そして、信仰の中心としてあったオーブを破壊し、9つに分解した。それらはさまざまな方法で隠すように複数の魔法をかけた。そのうちの3つはこうしてここにある。そして、この惑星上には、残り6つの内、4つの場所しか分かっていない。まずは、それぞれの王に会う必要があるだろう。さて、ここが、王の間となっている。では、これで」
3人の神は消え去った。
「立つ鳥後を濁さずってか?」
「まあ、そんなものでしょう。どいつもこいつも、好きな時にでて、好きな時に消えるんだから」
桜は少し怒っているようだった。ただ、それを学がなだめつつ、王の間に入っていった。
「ここが、この国の王がいる、国王の間…」
「とてもそうとは見えないね。腐敗臭もしているし」
「数年間、誰一人としてここには来ていないからね。国王のみがいる場所。しかし、何年も掃除してないようだな。ホコリたまり放題、ごみあふれ放題」
七人七色な反応を示していた。その中で、空から降り注ぐ光を浴びる場所が一箇所だけあった。そこは、玉座だった。そして、そこに座っていたのは、胸を槍で挿され、既に白骨化している王冠をかぶった死体だった。
「…もしかして、あれが王か?」
「そうだと思うけどね…まあ、それはおいといて、どうするよ。王があんな状態じゃあ、他のオーブの場所なんて聞けないよ」
「うーん」
「とりあえず、町に戻ろう。ここにいると、呪われかねん」
一行は、再び町に戻り、対策を練る事にした。