第87部
プロローグ
はるか昔に伝説があった…
「遥か昔、こことは別次元において、世界が二つに割れた。そのうち、片割れはこちらの世界とつながった。だが、残りの世界は、取り残された。そして、その世界同士をつなぐトンネルは、いまなお機能し、時に人の意識のみを運び去る。そして、その世界、死を知らず。ただ、知られているのは、ゲームであり、死し者は、こちらに帰ってこれる。ただ、自らの意志により、死を選びし者は、向こうの世界にて、一生を過ごす」
第33章 空間移動前
「あ〜、なんで、自分は、ここを選んだんだろうか」
後悔に襲われているのは、伊達山勇雄。この、東亜高校の1年生である。
彼は、いわゆる天才であった。ただ、天才ゆえに、苦悩する事もしばしばあった。周りよりはるかに頭がよく、いかに難しい課題でも、すぐに解き終わってしまうのだが、周りがその事を理解せずにいたのであった。そうして過ごした過酷な小学生・中学生の時に、その事から救ってくれたのは、常にいた友達であった。そして、今日も、また授業が終わった。
「こんにちは」
彼は、天文部に所属していた。天才である彼が選んだ道は、宇宙だったのだ。
「ああ、こんにちは。もう来たのか」
「市川先生。もう、終わったのですか?」
「ああ、その通りだ。もうすぐ、職員会議があるから戻るけどな」
「部長と副部長は、どこでしょうか」
「ああ、河内と渡辺ならいま、自販機にジュース買いに行っているところだ。もうすぐ戻ってくるだろう」
その言葉の通り、1分ぐらいで彼らは帰ってきた。
「ただいま〜。あれ?勇雄君、来ていたの?」
「今日は、アンドロメダ銀河を見るからな。桜、準備よろしく出来るか?」
「もちろん」
渡辺桜は、ジュースを片手に、天体望遠鏡を操っていった。
「もう、夜だからね。ここ最近は、地軸がずれてきているらしく、これから、だんだん夜が短くなっていくらしい。昼を見るのもこのままだと無くなっていくだろう。そんな事よりも先生。職員会議は大丈夫なんですか?」
「おお、忘れていたよ。じゃあ、後は任せたからな」
先生は、部屋から出て行った。
「さてと、アンドロメダ銀河に合わしたか?」
「ここ最近の機器は便利でね。勝手に合わしてくれるのよ」
「さすがに、西暦1700年代と、新暦680年では、1000年程度違いますから」
「準備できたよ」
「どうも、桜。じゃあ、観察をして行こう」
その時、足元が揺れたような感じがした。
それから、十数秒間は動く事が出来なかった。そして、その揺れの途中、3人は身を寄せ合ったまま、意識が飛んだ。
この地震は、この地域のみでなく、この惑星全域に観測された。事態を重く見た連邦中央政府は、軍も使って事態の収拾を図った。そして、いろいろな事が分かってきていた。
気象庁の会見は、地震発生から30分ほどたってからであった。
「この地震では、大きな被害、例えば家屋損傷、などはありませんでした。しかしながら、この短期間に分かっておりますのは、意識不明の人が数名出ているという事です。さらに、彼らは、3人一組になっており、発見されている者たちはみな、同じ脳波をしているということであります。これは、専門家の意見でありますが、この者達は、同じ夢のような状態になっておるという事であります。このような状況の人を発見した場合は、すぐに連絡を下さい。これで、現在のところ分かっているのは以上です。質問は受け付けません」
そして、そのまま記者が何を言っても聞かないまま、会見場から出て行った。
そのころ、意識を取り戻した河内学は不思議な空間にいた。周りは、乳白色の濃い霧状であり、自分の体は見えるが、それ以外は全く見えない上に、宙を飛んでいるような状態であった。
「これは…なんだ?」
「ここは、「時空のトンネル」です」
勇雄が、学の目の前に突然現れた。
「時空のトンネルって何?」
後ろからは、桜の声も聞こえる。肩に手を乗せて離れないようにしていた。学は、両手を勇雄の手に重ね、離れないようにしてから尋ねた。
「そうだ、時空のトンネルとは一体なんだ」
「先輩達はブラックホールの中について何か考えたことはありますか?それとも、ワームホールについて」
「いや、全くない」
「そうそう、そんな事、私達が考えるわけが無いじゃない」
「そうですか。このトンネルは、ワームホールやブラックホールの中にあるといわれている、「アインシュタイン‐ローゼンの橋」というものだと思います。簡単に言うと、別宇宙につながっている細長い橋です」
「別宇宙につながっている?どういう事?」
桜は、聞いた。
「いまいちよく分からんな」
「では、例え話をしましょう。私達がいた宇宙、あそこを元の宇宙と言いましょう。そして、私達が今から向かっているところ、そこを次の宇宙といいましょう。さて、元の宇宙と次の宇宙は、元々一緒だとします。そして、空間が爆発的に広がった「ビックバン現象」によって、宇宙は広がっていきましたが、その時に、宇宙同士はとあるひとつの宇宙から生まれてきたとするなら?これは「親宇宙・子宇宙理論」と呼ばれています。元の宇宙空間は、7つの宇宙がつながっています。今となっては、よく分かりませんが、この7つのうちどれかひとつが親宇宙です。そして、残りは子宇宙や孫宇宙となります。そのつながっている空間の事全域を先ほど言った、アインシュタイン−ローゼンの橋と呼ぶんです。言うなれば、宇宙同士をつないでいる橋ですね」
「いや、全く理解できん」
学は堂々と言った。
「それよりも、この霧。薄くなってませんか?」
「そういえば…」
「確かに薄くなっているような気がするね」
突然、周りが白い光に包まれた。光は一瞬で消え去り、下を向くと、森が広がっていた。
「落ちて行く……!」
「たすけてー!」
この森で最も大きい木のうろに落ちた。そのうろは、直接木の中を通り抜けられるようになっており、ひたすら落ち続けた。




