妹と夜の出来事
今日は一部氷菜ちゃんメインの回です。
楽しんでいってくださいね。
「う、うーん」
さっきまで感じていた感覚と違う違和感を覚え、義昭は目を覚ました。
目の前に見えたのは傷だらけの壁と何も無い部屋
一瞬で理解してしまう。
(なんだ。帰りついてしまったんだね。)
林の背中に居た時に感じた心地よい感覚は、もう終わったんだと少し残念に思う義昭だが、下の階から聞こえてくる楽しそうな家族の声が義昭の耳に残っていた。
普通だったら義昭もその家族の円に入っていたのだろう。
でも、それは可能性の一部でしかない。
どうせ入りに行ったって義昭の分は用意されておらず、扉を開ければお情け程度にビーフジャーキーが一片だけドッグフードを入れるような容器に入っていた。
そのビーフジャーキーが小さすぎて蟻の方が大きく見えてしまう。
でも、こうなるのは仕方がないと義昭は諦めている。
(だって僕は、この家の子供じゃないから)
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「はぁ〜今日も楽しかったなー。」
いつも通り友達と学校で授業を受けたり楽しく遊んだり、家に帰って家族とテレビを見て笑い合う。
そんな普通の人が歩む当たり前を日出 氷菜は満喫していた。
とは言っても授業は受けているものの、両親のように真面目に受けなければ点数が取れないほど氷菜の学力は低くはない。
氷菜はどちらかといえば天才に分類される存在だった。
基本なんでも出来る為、周りは羨望の眼差しで見てくる。
最近は、友達とする会話も恋バナなどの色気づいたものばかりになった事もあって、本心は今の生活にかなり退屈していた。
「はぁ、口では楽しいって言えるのに心から思えないのはなんでだろう。」
氷菜はいつからか、この日常が退屈だと思い始めていた。
一番楽しかった時の記憶はなんだっただろうと、記憶を探っていく。
家族と迎えた誕生日
(あの時は何も感じなかったなー。)
1年前の体育祭で優勝した時
(確か私の独壇場で優勝したのに、クラス全員が頑張ったみたいな感じになってたなー。楽しいとは思わなかったよ。)
色々と思い起こしていくうちに氷菜は、よく考えたらそこまで楽しいと思った記憶がないことに気付いた。
そして、今まで自分がどれだけみんなの前で仮面を被っていたのか思い知らされた。
そして、心から笑った事がこの15年の中で1回くらいしかないことにも氷菜は気付いてしまった。
その唯一心から笑った出来事は
(やっぱりお兄ちゃんと遊んだあの1回だけだよね)
自分の兄である義昭が、この日本で隔離されたように生活する前のたった1回遊んだことが恐らく今の氷菜の心の中に残っている本心が出せた唯一の瞬間だっただろう。
実際氷菜はそれ以外は厚い仮面のような物が貼り付いていた為、本気で笑ったり感情を露わにする事が無かった。
「思えば、この10年くらい本気で笑ったりした事がないなー。」
氷菜が最後に全力で笑ったのは、おそらく義昭と最後に遊んだ5歳の時だろう。
それから今に至るまでの10年間皆からは愛想良く見えるように笑みを頑張って作っていたこともあって、その作り物の笑みが染み付いてしまった。
「もう一回お兄ちゃんと遊びたいなー。」
そう思いながら、氷菜は豆電球になっている部屋のベッドで横になってそっと目を閉じた。
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この日の夜
義昭達が住んでいる岡遠街の人気のない夜の住宅街に1人走っている男がいた。
彼の名前は義月康太
この街の2駅隣にある猪垣街から電車を使わずにやってきた男である。
彼が電車を使わないのには明確な理由がある。
それは、警察に通報されるからだ。
彼は猪垣街で7組のカップルを惨殺した殺人犯であり、目撃した人物も巻き添えにして殺しており、その数は20人弱になるという。
そんな彼だが、今全力で走っていた。
自分の体力の限界など知った事ではないと言わんばかりの全力疾走には理由があった。
それは、少しでも立ち止まれば確実に殺されるからだ。
彼は後ろを振り返る事なく前を見て全力で走っていた。
すると、彼は目の前に高校生くらいの男性がフードを被って立っている事に気が付いた。
(そうだ!あいつを人質にすれば、逃がしてくれるかもしれない!)
妙案を思いついた様に、男は慣れた手つきでナイフを取り出し男性の目の前に立った。
「おい!大人しくしやがれ!殺されたくな・・・け・・・れ・・・ば」
言い終わる前に康太は、その場で血を流して倒れた。
フードを被った男性は、ピクリとも動かない康太を見下ろしながらこう言うのであった。
「これで30人目か。随分と呆気ないんだね。」
彼はそう呟くと、家に帰っていった。
「それにしても、木森さんは余計な事をしてくれたよね。僕の楽しみが減るじゃないか。」
そう言って、彼は夜の暗闇に消えていった。
さて、やっと出せた事に一安心した所で、また次回も首を長くして待っていただけると幸いです。
まったねー♪