妹と犠牲
このくらい更新が速ければいいんだけどなーと毎回思います。
「日出義昭はこの世に生きてる人間の中で一番も悪いって!いらない人間だって!」
この言葉を聞いた瞬間、林の頭には強烈な殺意が湧いたが、必死で抑えた。
そして自分の心に言い聞かせた。
(まだ殺る時じゃない。早すぎる。)
そして、少年が止めるのを無視して林は早足で義昭の家へと向かった。
日出という表札がある家の前で止まる。
さっきの少年の話が本当ならば、学校よりも一番深刻なのは家族だと直感で感じた林は今までの17年の中で一番緊張していた。
そして、インターホンを押そうと指を置いた。
「何をしてるんですか?」
体がビクッと跳ねてしまうほどビックリした林は、恐る恐る声が聞こえた後ろの方を振り向いた。
そこには、姿形は義昭とは似ていないが纏っている雰囲気がどことなく義昭とそっくりな少女が呆れた目で林を見ていた。
「あーえっと、義昭君が大怪我して倒れちゃったから送ってきたんです。」
噛みそうになったが、何とか要件を言えて一安心していた。
すると、少女は涼しい顔を変えずに言った。
「そうですか。また家の愚兄が迷惑を掛けたようで申し訳ありませんでした。」
そう言って頭を下げる少女の様子を見て林は確信した。
(ほんとに家にも義昭君の居場所が無いんだね。)
そう考えている間に、少女は林の近くまで歩いてきて林が組んでいる肩と反対方向の肩を組んでいた。
頭の中でクエスチョンを浮かべている林に、少女は少しため息をして言った。
「私一人じゃ愚兄を担ぐことは出来ないので部屋まで一緒に来てくれませんか?」
義昭の事をゴミを見るような目で見ている少女の頼みを受けた林は、一緒に義昭の部屋へと向かった。
そこで見た光景は、今まで見たどんなものよりも凄惨で残酷なものだった。
そこには何も無かったのだ。
見渡す限りでは、家具のような物も辺りを照らす照明も無い。
そして、壁には刃物で切った後や乾いた血のようなものが見える。
どうやら学校とは違う意味で地獄を見ているようだった。
(これは、血が繋がってるから出来る事なのかな?それにしてもこれは)
「やりすぎだと思いますか?」
自分の考えている事を読まれて少し動揺したが、林は少女の質問に頷いた。
すると、少女は部屋を一瞥して笑みを浮かべながら話を始めた。
「兄は昔からこんな事をされていました。体を見たなら分かると思いますけど、服では隠せない所まで傷つけられました。」
その少女の笑みには哀れみは感じられず、ロボットのように真顔に笑顔を張りつけたような歪さがあった。
「一番酷かったのは恐らく・・・体に火傷を負って帰ってきた時でしょうか。」
少女はその時の情景を思い出しながら語っていく。
「嫌っている私でさえあの時は本気で死ぬんじゃないかと心配になりました。家に帰ったら玄関で一部の皮膚が爛れた状態の兄が倒れていました。」
その話は想像するだけで吐き気を催すような、それほど気味が悪くて聞くに耐えない内容だった。
少女は話すことを続ける。
「兄を仰向けにしました。そうして分かった事もあります。兄は火傷をしたのはほんの一部で、他は皮膚を剥がされていたのです。」
その時の姿を想像した林は少し嘔吐いたが、それと同時にこうも考えた。
(そんなにされたのによく生き延びる事が出来たなー。普通なら死んでるはずなのになぜ?)
「私も思いました。普通なら死んでもおかしくないのに息があるのはおかしいと何か変だと、まぁ疑問のままになってしまいましたがね。」
そして、林の方に向き直り少女は言った。
「改めて、この兄を助けていただいてありがとうございます。まだ味方がいたんだと思うと少しだけ気持ちが軽いです。」
「あなたはお兄さんをどう思ってるの?」
少なからずこの少女だけは義昭の完全な敵にはなっていないのだろうと林は思ってそんな質問を投げかけた。
「さぁ、どうなんでしょうね。昔なら私は兄を慕っていました。今はどうなのか分かりません。あの人みたいに素直じゃないですからね。」
そう聞いて、林は少し納得して義昭の部屋を出ようとした。
部屋を出る直前に林は少女の方を振り向いて笑顔で言った。
「名前だけ名乗っておくね!私は木森 林!義昭君の唯一の友達だよ!」
名前を名乗られた事に、少しびっくりした少女はそれに応えて名乗り返した。
「では、私も名前だけ名乗っておきます。日出 義昭の妹の日出 氷菜と言います。」
そう聞いて、日出家を後にした。
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日出家を後にした林は、簡単に用を済ませて学校に戻り教室の自分の席に座り時間を過ごした。
暇つぶしに本を読んでいるその姿は、見る者を魅了するほどの儚さと美しさを兼ね備えている。
だが、これから行われる事はそんなものとは全くの無縁である。
少し経って、教室のドアが開き6人ほどの男子が期待に満ちた顔をして入ってきた。
「へへへ、約束通りに来たよ林ちゃん。僕らにプレゼントがあるんだって?」
この男子生徒達はこの日の朝に、林から手紙を貰っていた。
その内容は
『プレゼントしたいものがあるので、今日の午後7時に私のクラスの教室まで来てください。』
その手紙の示しているプレゼントを想像して、期待半分と下心半分が平均で、酷ければ下心しかないような笑みを浮かべる男子生徒達に、林はいつも通りの笑みを浮かべながら放つのだった。
「そうですよ。皆様にプレゼントしたいものがあるんです。」
そう言って、一番近くにいた男子に近寄って自然な流れで、心臓を内臓ごと抉りとった。
「え?」
最初は状況が読み込めなかったが、力なく倒れる同級生を見て、パニックを起こす人や吐き気を催す人など様々に分かれた。
だが、林だけはその様子を見て愉快そうに唇を歪ませる。
「では、他の方にもプレゼントして差し上げます。死という最恐のプレゼントをね♪」
ここからこの物語は幕を開けていくのである。