邂逅とトラウマ
「何があったんだ?って顔だな。」
アロハシャツの男性が林を見下ろしながら、笑いかけてくる。
ふらつく足を抑えながら、林は立ち上がり義昭達の安否を確認するため周りを見渡す。
立ち上がって義昭を起こす楓羅
眼鏡をかけた男性に事情を聞いているレナと運転手
首輪を持たれた状態で氷菜をお姫様抱っこする栄子
大丈夫そうな光景に安堵して、林は目の前の男性に向き直る。
「貴方達は何者?気付いたらバスは粉々だし、私達は宙に放り出されるし・・・目的は何ですか?」
林は普段出さないドスの効いた声で男性に詰め寄る。
多少気圧されたが男性は
「まぁまぁ落ち着けよ。そんなことしたって解決しねーって。」
手で抑えながら、自分の仲間を口笛の合図で集め
「じゃあ綾佳、後は頼むわ。」
刀を携えている女性の肩をポンと叩いて促すと、男性はサッと後ろに並んだ。
軽くため息を吐きながら、目の前の林を見つめ
「いきなり攻撃した事は申し訳ありません。証拠が必要だったので。」
と、深く頭を下げ後ろのメンバーもそれに続く。
突然の謝罪に林は呆気に取られ、言いたい文句が消えていった。
「私達は田橋 俊二郎からあなた達の抹殺を指示されています。」
声色ひとつ変えず、淡々と話されるその内容に警戒心が強くなる。
常に刀から手を離さない目の前の女性に向けて
「一先ず先手必勝という事で」
と、義昭は隠した指を曲げる。
誰にも見られる事なく槍が女性に向けて飛んでいく。
そのまま、誰にも気付かれず標的に刺さる。
「いただきます!」
なんて簡単な事になるはずもなく、庇うように目の前に立った少女が口を大きく開けて飛んできた槍を小さな体に全て収めた。
「?どうしたのですか?」
「うーん。なんか飛んできそうだったから食べたけど、なんなのかよく分かんない。」
庇われた女性も、槍を食べた少女も何が来たのかよく分かっていなかった。
「やっぱり普通は見えないんだ。留萌さんとかが特殊なんだね。」
林の言葉に一人を除いて頷く。
やがて、飲み込めない状況を押し込んで女性がまた話し始める。
「それに、私達はとある理由で貴女達に死んで欲しいとは思っていません。」
ようやく刀から手を離し、林に近付いた女性は手を握り
「なぜならば木森 林、私たちと貴女は少なからず関係があるからです。」
え、と発した林から女性は離れると他のメンバーを呼び
「私は綾佳、一応このグループのリーダーをしています。」
その後、続くように他のメンバーに目配せし自己紹介を促した。
「俺は勇祐どっかでまた会ったら仲良くしてな。」
アロハシャツの男が次に挨拶をする。
「私はファオン。よろしくね。」
義昭の槍を食べた少女が続く。
「ぼ、ボクは彰吾です。よ、よろしく。」
パソコンをいじっている男性が続き
「ワタシハ、ソーファデス」
最後にロボットが名乗った。
勇祐と名乗った男性がロボットに近付き
「ガワの名前じゃなくて、本体の方も知った方がいいんじゃねぇの?」
ニヤニヤしながら促していたが
「別に良いじゃない。私と会うことなんて無いんだから。」
ロボットとは違う女性の声が聞こえてきて、林達が驚いていると
「ああ言いましたが、多分私達で貴方達を始末なんてまず出来ません。」
綾佳と名乗った女性が、楓羅を睨みながらそう話す。
睨まれている楓羅は理由が分からず困惑しているが、綾佳の眼は刺すように見つめている。
「大丈夫だよあーちゃん。彼女は関係ないっていつも言ってるでしょ。」
彰吾と名乗った男性に優しく宥められるまで、楓羅を睨み続けていた。
「えーっと、綾佳さんに私何かしたかな?」
居心地が悪くなった楓羅が、綾佳達にそう質問した。
自然と刀に手が伸びていた綾佳が、再び手を離し
「貴女があの男の子供であるというだけで、私の中では消し去りたい対象です。」
一瞬体がピクッと反応した楓羅の様子を確認する事なく
「元教会の長、東西南北 縁の娘である貴女を私は敵視します。」
そう言い放ち、林達から背中を向けて他のメンバーを連れて去っていった。
短い時間で情報が大量に存在した空間に戸惑いながら、声を掛けられた楓羅に林は目線を向けた。
しかし、楓羅の姿は心配した義昭やレナ達に囲まれて見えなかった。
「どうしたんですか?」
「分かりません。さっきの人が言った瞬間から頭抱えて蹲っちゃって。」
駆け寄った林は近くの氷菜に話しかけて、事情を把握しようとした。
その辺りから、震えながら楓羅はボソボソと呟き始めた。
「そんなはず アイツは私が始末したのに まだ私の中にいるの?」
うわ言のように呟かれる言葉は、封印したはずの記憶を呼び起こされたような
後悔よりも無念が先行した言葉だった。
「いや 消えてよ 私の頭から記憶から全ていなくなってよ」
震えが酷くなり涙交じりになった楓羅は、体を抱きしめながら壊れた人形のように消えてと連呼するだけになってしまった。




