母と味方
「と、届いてない?」
林は目の前で起こった事に理解が追いついていない。
ピンピンしていたが、留萌 一三二を吹き飛ばした事のある林の攻撃を、女性はブロック一個で受け止めたのだ。
こうなるのも無理はない。
「じ、次元が違いすぎる。」
少し前に自分を痛めつけた女性にも驚いていたが、実力を知らなかった栄子は林の力にも同様に驚いていた。
うーん、と考える動作をしながら女性は
「なんだろう。プラスにしたいんだけど何か足りないんだよねー。」
チラッとバスを見た後、林に近寄り
「君、まだ遠慮してるでしょ。お父さんより威力無かった気がするよ。」
「そ、そんな事」
父親と比べられ、もごもごと話してしまう林の様子に、女性は何か納得して
「まぁいいや。私は子供を見に来ただけだし、起こしに行っちゃおうかなー。」
「いや、そんな事しなくて大丈夫だよ。」
その応答に、三人ともバスの入り口に目をやる。
そこには、目をこすりながら義昭達が外の三人を見ていた。
女性はあちゃーと頭を軽く叩きながら、義昭に向かって歩き始めた。
「久しぶりだね。とはいえ姿は知らないか。」
「あの時は声しか聞いていないので、どんな人かは知りませんでしたが」
バスから出て女性と距離を取りながら
「とりあえず一回死んでくれますか?」
と指を二本曲げた。
一部しか認識できないスピードで、義昭が放つ槍が女性に向かって飛んでいく。
すると、女性は屈んでブロックの欠片を二個掴み
「もう少し能力の使い方が上手くなったら死んであげる。」
そして掴んだ欠片を空中に放り、槍にぶつけて威力を殺した。
未だに眠たそうな表情をしていた氷菜や楓羅も、義昭の攻撃を石だけで受け止めた女性に計り知れない恐怖を覚えた。
「まっ、制限付きで死なないようにしたの私だから、貴方達には殺されないけどね。」
ニヤニヤしながら、義昭に近付き頭を撫でる。
「元気そうで何より。」
優しく撫でる手つきは、義昭を安心させた。
義昭から手を離し、皆から距離を取って
「何人かここにいるのが不思議だと思ったけど、まぁいいや。」
そう言うと駐車場から身を乗り出して
「じゃっ、またどっかで会おうね。」
そのまま飛び降りてしまった。
慌てて林が見に行ったが、女性はすでに消えてしまっていた。
呆然と立ち尽くしたまま、全員はさっきの光景を見た自分の目を疑った。
林の攻撃を防ぐだけでなく、誰にも負けないと信じて疑わなかった義昭の攻撃すらも簡単に打ち消してしまった。
「自分の能力を完璧だと思った事はないけど、あんなに余裕だと自信無くしちゃうな。」
少し落ち込んだ義昭の様子に、場違いに可愛く感じた氷菜は、その気持ちを押し殺して口を開いた。
「ひとまず敵じゃなかったみたいですし、とりあえず休みましょうよ。」
あの出来事の後なので眠れなかったが、席に座るだけでも休息にする事ができた。
朝になり、ガソリンスタンドで給油を済ませ
「よし!じゃあ今から向かうぞ。警視庁に」
運転手が発破をかけ、全員が顔を引き締めた。
ハンドルを捻り、一度離れた都心にまた戻る。
こうしている間に都心で起こっている事を知らずに
都心に戻ってきた義昭達は、大きな違和感に気付く。
「人がいない?」
楓羅がつい口に出す。
吉二郎と出会した時にいたはずの人の姿が一切見当たらなかった。
街を歩く人の足音も、時間帯に関係なく聴こえる喧騒も
そこには何もなく、まるで人間だけが消えたように静かだった。
不思議がっている林達と
「まさか、そんな事って」
「嬢ちゃんもそう思うかい。」
不穏な気配を察知した運転手と栄子という構図が出来ていた。
「あれはなんでしょうか。」
遠く離れた所の物体に林が気付いた。
その時
突如パトカーのサイレンが、けたたましく鳴り響き何もなかったはずの空間に大量の警官が、いつのまにかバスの周りを埋め尽くしていた。
バスのドアは壊れている為、いつでも入り放題の状況に栄子や林は焦っていた。
牽制の意味も込めて義昭が槍で少し遠ざけるが、焼け石に水で各々戦闘態勢を解かない。
「仕方ねぇ!荒っぽいが我慢してくれ!」
運転手がそう叫ぶと、エンジン全開でバスを走らせた。
乗り込もうとした警官は突然の事で振り払われ、跳ね飛ばす勢いで暴走も一緒に始めた。
しかし、何度吹き飛ばしてもどこからともなく警官が湧いて出てくる。
やがて、暴走したバスは何かにぶつかって止まってしまった。
運転手が前を見ると、そこには大量の機動隊が盾でバスを止めていた。
外から大声で合図があり、警官が乗り込むために走り込んでくる。
「ダメだ。どれだけ打っても一人を犠牲にして進んでくる。」
義昭が交戦するも、人柱のように犠牲を払いながら大勢が突っ込んでくる。
外に出て迎え撃つ準備を皆がしていると
「な、何だ!」
一人の警官が後ろを振り向いて叫ぶ。
見ると、コンクリートの地面から土埃を出しながら警官を薙ぎ倒す何かがいた。
「なぜあの女がここにいるんだ!」
「飛んで来るのは我々だけじゃないのか!」
「あの女は敵なのは目に見えてるだろ!」
警官が口々にそう叫ぶ。
土煙が収まり、姿が見えた林は一言
「希乃秦さん!?」
と発した。




