時短と障害
「いやー。この歳になって警察に追われるなんて人生で最大のスパイスだな!」
焼けた肌の運転手は、タバコを吸い満面の笑みを浮かべながら後ろに座っている義昭達に話しかけていた。
それは数分前の事
「このバス停ですよ。呼びますから少し待ってくださいねー。」
栄子はスマホを操作して、どこかに電話をかけ始めた。
慣れた話し方で電話を終え、スマホをしまい義昭達の方を向いた。
「あと5分で着くらしいので、少し隠れていましょうか。」
そう言うと、全員を連れて止まっているトラックの影に隠れ時間が経つのを待つ。
たったの5分と思うが、何もせずに待つ時ほど長く感じるものはない。
栄子は氷菜に首輪を引っ張られながら時計を確認している。
「よし。もう出ましょうか。」
立ち上がった栄子と共に、義昭達がトラックの影から顔を出した。
その時
「見つけた。」
そんな声が聞こえた瞬間、義昭達が隠れていたトラックが上から潰れ、衝撃が周りの建物のガラスにヒビを入れる。
やった張本人の姿を確認した栄子が、少し焦った表情を浮かべて
「やばい。みんな一度避けてください!」
と、義昭達に大声で知らせる。
氷菜に伸びていた手が一度止まり、その瞬間を利用して氷菜は楓羅の近くまで逃げた。
この騒動を起こしたのは、どうやら男性のようだ。
叫んだ栄子を見つけた男性は、聞こえるくらいの舌打ちをした後
「お前がいるのか。少し面倒だな。」
そう言いながら、今度は林に近寄って攻撃を加えようとしていた。
留萌 一三二の動きを間近で見たからなのか、普通に見れば素早い動きも、なんだか遅く感じていた。
落ち着いて左に避け
「嘘!?」
ようとしたその時、使っていなかった左手が林が避けようとした場所に動いていた。
動揺した林は、そのまま腕を掴まれボディーブローが直撃してしまった。
腕を離されていない為、林はその場で蹲ってしまった。
痛さを堪える為に、精一杯に呼吸を繰り返す。
そのまま、連れて行こうと男性が後ろを振り返った。
「大切な仲間なので、返してもらいます。」
義昭の言葉に一度足を止めた。
その瞬間
男性の足元に、義昭の攻撃が突き刺さりアスファルトを抉って土煙をあげた。
少しでも視界を晴らそうと、空いた手で払っていると
誰かに、左手を叩かれ反動で掴んでいた林の腕を離してしまった。
なんとか、土煙が消えた後の男性の視界には義昭達はおらず、バスのエンジン音だけが男性の耳に残っていた。
そして、今に至る
「ありがとうございます。ナイスタイミングでしたよ。おじさん!」
栄子は、運転手の男性の近くまで行きお礼を言った。
「良いってことよ!嬢ちゃんに呼ばれたら絶対に面倒な事だって分かってるからな!」
男性は、笑いながら軽快にバスを走らせている。
話を聞く限り、かなり付き合いがあるようだ。
義昭達は、攻撃を受けた林の周りに集まって傷が癒えるまで側にいる事にしていた。
最初に比べると少しマシになったのか、林は顔を上げて話せるまでになっていた。
「それにしても、さっきの人は誰だったのでしょうか。」
氷菜が、疑問に思っていると男性と話し終わった栄子が近付いてきて
「彼は、警視庁の古原吉二郎。通称フルキチくんです。」
と、解説してくれた。
「向こうから動いてくるとは、こりゃ長はだいぶ怒ってる事でしょう。」
少し笑いを浮かべて、まだ苦しそうな林の背中を摩りながら
「彼を出してくるなら、そろそろ彼の幹部達も動く頃という事でしょうか。」
そう呟き、義昭達を一瞥する。
覚悟が決まっているとはいえ、まだ戦闘に慣れていない氷菜や楓羅は、表情が強張っている。
「フルキチくんが動いているので、ここから油断は出来ません。ホラーゲームの殺人鬼みたいに追いかけてきますからね。」
立ち上がり、後部座席から外を確認しながら栄子が皆に話しかける。
この皆には、当然運転手の男性も含まれており、理解した男性も緊張感を持ち始めた。
タバコを灰皿に捨て、深く呼吸した後
「まぁなんだ。大変だろうが、このバスの中ではゆっくりするといいさ。」
運転手の男性は、派手に笑いながら警視庁に向けてバスを走らせる。
ただ、その走行に違和感を感じた楓羅は運転席に近づき
「これ、警視庁と逆に進んでませんか?」
「あぁ?なんなら道路も逆走中だぞ?」
はぁ!?と楓羅の驚いた声に全員が驚き、二人の方を向いた。
切羽詰まっていた為気付かなかったが、改めて外を見ると前から来る車が、頑張ってバスを避けるのが確認できる。
驚きすぎて言葉が出なかった林や氷菜の反応を見て、運転手の男性はさらに笑い。
「これは嬢ちゃんにも言ってなかったが、実は俺も警察からしたら敵みたいなもんでな。法律なんぞクソ喰らえなのさ。」
行動が派手な運転手の男性を見ながら、栄子が窓の外に目を向けると
「あれは!!」
後ろの方から、車から車へ飛び移りながら追いかけてくる人影を見つけ全員に知らせる。
それは、バスに乗る前に義昭達を襲撃してきた古原 吉二郎だった。
何か口を動かし喋っているようだが、当然ながら車内にいる義昭達には分からない。
しかし、口の動きで何を言っているのか理解できた。
見つけた




