稽古と本気
二人が保健室に着く頃には、楓羅は喋れる程度には回復していた。
その様子に義昭は安堵し
「良かった。致命傷になる前に助けられたみたいですね。」
「ほんとはずっと一緒にいて欲しかったんだけどね。」
とちょっと嫌味っぽく言った。
義昭は苦笑しながらその件について謝り、これからの予定を二人に告げた。
「僕と留萌さんの戦いは明日になりました。」
それを聞いて林と楓羅の二人に緊張が走る。
それが終わればいよいよ出発だという事は、学校に来る前に事前に知らされていた。
二人の表情を確認した後、義昭は林に
「今日と同じ時間にグラウンドでやる。」
「という事は、また学校をサボるんだ。」
一応学校では優等生を演じていただけに、少し後ろめたさを感じた林に、義昭はさらに告げる。
「それについては、ここにいる留萌さんも一緒にサボるから安心していいよ。」
その言葉に二人は大きな声で驚いた。
一三二はその光景に笑いながら、林に近寄って肩を掴んだ。
「私は、彼に頼まれたから明日の夕方までの間、貴女を鍛えてあげるの。」
「わ、私を?」
動揺が隠せていない林に、一三二は現実を突きつける。
その時の一三二の表情は、真剣で冷徹だった。
「次は警察の長らしいからそこは良いとしても、次がみどりちゃんなら、今の木森さんなら間違いなく死ぬ。」
自分が弱いのは、さっきで充分理解した林は表情に影を落とした。
無力は自覚すればするほど、絶望してしまう。
自分が何の役にも立たないという事実は、頭で理解していても現実で体感してしまうと傷付くものだ。
よく見ると、林の顔は泣いた後がある。
ここまで楓羅を運んだ時に、楓羅が起きるまでの間に弱い事を自覚してしまい泣いていたのだという。
「これから色んな相手と戦うのに、必ず足を引っ張ってしまうのは貴女の顔を見たらわかる。」
一三二は少し強めに林の両頬を叩き、
「気合い入れなよ。私は明日からその無い自信を付けさせてあげるんだから。」
屈託のない笑顔で一三二は林を励まし、義昭の元へと戻った。
その日は楓羅は二人の肩を借りながら、校門で一三二と分かれた。
次の日、一三二の案内で三人は人気のない空き地へと向かっていた。
着くまでの間にいくつもの動いてない工場があった。
元は工業地帯のようだ。
「昔、ここを支配してたでっかい企業があったらしいんだけど。四代目の社長が無能だったらしくて軒並み潰れたんだって。」
一三二が説明をしてくれ、状況を理解した。
そういえば、そんな大企業が教科書に載ってたなと義昭と林は思っていた。
「大学卒業した後、その会社に就職した事あるよ。」
という楓羅に三人は驚いたように彼女を見つめる。
その顔は懐かしさ半分、悲しさ半分のように見える。
「社長が変わる時に、本社の人間は三代目の指示で別会社に異動したから、私達は被害は無かったけど、どっかではあるよねやっぱり。」
色々と複雑なようで、それ以上は話す事なく歩き始める。
やがて一区画だけ、広い場所に着いた。
「はい。お待たせここが目的地だよ。ほんとはダメだけど私だから大丈夫!」
と中心まで向かった一三二が、両手を広げてアピールしている。
そして、林だけを呼び寄せた。
残った楓羅と義昭は、近くにある段差に腰掛け話し始めた。
「そういえば、間引きとか言ってたけどあの女の子はもし勝ったら殺すの?」
「いえ、彼女は僕が勝ったら生かします。彼女は必要な人間だから。」
初めて会った時に言われた事が気になっていた楓羅は義昭にそう質問した。
必要な人間といらない人間の分別は、人によってまちまちなので、義昭の基準になるが一三二は生きるらしい。
「とは言っても日本だけでもかなり掛かるでしょ。何年やるつもりなの?」
そう言うと、義昭は暗い表情を浮かべ
「僕の寿命は長くてもあと二年なので、いろんな人に協力してもらいます。」
急に寿命の話をされ呆気に取られた楓羅だが、そんな日数で行おうとしている義昭にもっと驚いた。
人口が少なくなっている日本でも、流石に二年では選別は出来ない。
否定しようと顔を上げた瞬間
ドゴッという音に反応して、二人は一三二の方を見た。
「うーん、パワーはあると思うんだけどなー。もしかして遠慮してる?」
吹き飛んで壁に腕を突っ込んでいる一三二が、冷静に分析していた。
片方の林は、息が荒くなっている。
心なしか顔が青くなっているように見える。
「だ、だって本気出してもし怪我したら夕方に支障が」
声が震えており、かなり手加減したようだ。
それだけの手加減で一三二を、吹っ飛ばせるのなら大したものだと義昭は思っていた。
「別に君程度の本気で怪我するほど私は弱くないから、むしろ遠慮されるとかなりムカつくんだよね。」
と少し語気を強めて一三二は返した。
壁から手を抜いて林の所に戻っていく。
着いた時と同じように林名前で大きく両手を広げて
「さ、遠慮せずストッパー外して、全力を私に叩き込むといいよ。それだけでも前進だ。」
そう言われた林は、深呼吸して右腕に力を込める。
そして放たれた一撃は
「え」
と楓羅が言うより早く、一三二が見えなくなるほど吹き飛ばした。




