覚悟とワクワク
義昭が一三二とやり取りをした日の放課後
義昭と林は、いつものように2人で帰っていた。
その道中で義昭は
「今月中に留萌 一三二と決着つけるから。」
と林に告げた。
林は少し驚いていた。
まだ時間をかけるものだと勝手に思っていた林からすれば、あまりにも早い決断だったからだ。
「30日に勝負するから、それまでに木森さんは覚悟を決めておいてね。」
「覚悟?」
林は今までの人生で一度も考えたことのない事を言われ、少し戸惑った。
「そう。もし僕に付いて来るとしたら命の危険は今まで以上に頻繁にやってくる。」
林が進む中、義昭は足を止めて2人の距離が離れていく。
近くにいない事を感じた林も足を止めて振り返り、義昭を見ていた。
少し戸惑いを感じる表情を覗かせる林を義昭はまっすぐに見つめ
「君のトラウマであるお父さんをもしかしたら殺さないといけないかもしれない。」
え、と呟いた林は言葉を紡ごうとしても上手く声が出てこない。
まるで、発言は許されていないかのような感じないはずの圧力を林は受けていた。
そして、
「君は自分の父親を、今の総理大臣を殺す覚悟ができるか。」
他の何も映さない。
林だけを真剣に見つめる義昭の表情は、今までのらりくらりと生きていた林には重すぎるプレッシャーを放っていた。
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その頃とある場所では
「留萌 一三二よ。これはなんだ?」
「長を辞めるという意思表示さ。」
一三二が、男性に向けて辞表を叩きつけていた。
その男性は、置かれた辞表に一度視線を向けた後、一三二の方を向き
「一応、何故これを出そうと思ったのか聞いておこうか。」
と投げかけた。
「久しぶりに戦ってくれる男の子が出来たからね。下手したら死ぬかもしれないから早めに辞めとこうって思って」
一三二は笑顔を崩すことなく、平然と言い放つ。
男性も同様に表情を崩すことなく
「残念だが、君の申し出は受ける事が出来ない。」
もっとも、と続けながら辞表の封筒を手に取り
「こんな紙切れで簡単にその座を降りれると思ったら大間違いだ。」
そう言って、封筒をバラバラに破き外へ投げ捨てた。
その行動に一三二は少し、顔を顰め、目で訴えかける。
「そんな顔をしても意味がないぞ。」
男には通じず、跳ね返されてしまったので意味がなかったが
「彼に勝てたら考えよう。私もそろそろ彼を今の立場にするようにした理由が知りたいからな。」
思わず首を傾げる一三二
日出 義昭を大規模な村八分にしたのは、他でもないこの男
二宮渡世のはず。
その視線で察したであろう渡世は、笑みを浮かべながら投げかける。
「日出 義昭をあんな状態にしたのは私だが、するように仕向けてきたのは別の人物だよ。」
どこに行ったのか分からないがね。
と付け足し、話を終えた。
椅子から立ち上がり、部屋を去ろうとする渡世に一三二は呼び止め
「誰なの。その人は男なの?」
扉を開け、出て行く最中に渡世は足を止め
「女だよ。君も名前くらいは知ってるんじゃないかな。」
まさかと声に出して、驚いた表情も浮かべる一三二を見て、満足したらしい渡世は
「あの不死身女さ。」
とだけ言って扉を閉め去って行った。
1人残された一三二は、驚いた表情そのままに全身を震え上がらせる。
だだっ広く開いた口は、そのまま恍惚な笑みに変わり顔を手で覆い隠した。
彼女を知る人間でなければ不気味すぎて近付きたくないだろう。
「そうなんだ、あの人なんだ。」
その事実に興奮したらしい一三二は扉を蹴破り、そこを通りがかった同い年らしい女の子の肩を掴んで揺さぶる。
「聞いてよみどりちゃん!」
いきなり体を揺さぶられ、フラフラしているみどりちゃんと呼ばれた女性は、なんとか正気を取り戻して聞き返した。
「もう、いきなりブンブンしないでよ。•••で?どうしたの。」
新しいおもちゃを自慢したい子供のように、ウキウキしている顔を見て落ち着かせることは無理だと悟ったみどりちゃんは、そのままの状態で一三二の話を聞いた。
「私の学校にいるあの男の子。私を負かした女の人の知り合いらしいんだ!」
それを聞いてみどりちゃんも若干驚いていた。
よく一三二が、その女性を話題にあげ、その度に次は勝つと意気込んでいたからだ。
「だとしたら結構強いんじゃないの?その人って確か一歩も動かないで貴女に勝ったらしいし。」
チッチッチと指を左右に揺らしながら、一三二は興奮混じりにまた話し始めた。
「だから良いんじゃない。弱いのと戦ったって面白くない。強い人と殺りあって勝つから楽しいんだから。」
それに、と一三二は続け
「たとえ負けても、そんな強い人に好きにされるんだったら本望だよ。」
狂気じみた言葉を笑顔で言ってのける姿に、彼女をよく知っているみどりちゃんも戦慄した。
一三二はウズウズしながら、みどりちゃんに背を向け
「今まで5回も何もされずにいたんだから。今回こそは私に勝った人は逃さない。」
その言葉に少し覇気が入っているように見えた。




