実態と長
腹部に何かが貫通し、無惨な姿を前に林は何も言えずにいた。
さっきまで仲良く話していて、いずれまた再戦しようと誓っていた友が目の前で呆気なく命を散らした。
今までずっと奪う事をしてきたにも関わらず、自分以外が殺している場面を目撃すると、何も動けなくなっていた。
「ふぅ〜さて、帰ろっか木森さん。」
そんな事など関係ないのか、義昭は扉に向かって歩き出した。
林の横まで歩くと
「正々堂々とやるのは良いけど、時には非情になりなよ。いざという時に足手まといになっちゃうよ?」
そう呟いて部屋を出ていった。
1人残された林は、目の前に広がる惨状に吐き気を覚えながらも、義昭に続いて部屋を出た。
帰り道で林は、さっきの光景について義昭に聞くことにした。
「義昭くん。あれって・・・何したの。」
「・・・」
一度は足を止めた義昭だが、何も答える事もなく歩き出した。
歩きに歩いて、義昭は自分が攫われた公園まで着いた時に、林の方を向いた。
その時に見えた彼の眼は、まだ色はあったが限りなく白に近いものだったらしい。
「ほんとは一回も話す事は無いんだと思ってたんだけどね。」
「え?それってどういう事?」
ブランコに揺られながら、林と義昭の会話は続いた。
林の頭は疑問でいっぱいだった。
さっきの蓮菊を貫いた物はなんなのか。
暴行を受けたと聞いていたのに、義昭に傷一つ残っていなかったのはなぜか。
そんな実力があるのに、なぜ捕まったのか。
疑問はたくさんあったが、聞きすぎて義昭を困らせるのも違うと思った林はこの3つを聞いた。
「蓮菊っていうのはさっきの執事さんかな?あの人を殺したのはいわゆる槍ってやつだよ。」
「槍?」
林は義昭から聞いた。
小さい頃から指を曲げるとその槍が出ていた事。
昔から指を曲げてしまう癖を持ってしまっていた義昭にとってその力は不便でしかなく、慣れるために街に逃げ込んだ犯罪者を実験台にした事。
今回の学校の事件は、林がやらなくても義昭がやる予定だった事。
そして、林はまた浮かんできた1つの疑問を聞く事にした。
「じゃ、じゃあ私がやらなくてもあの人達は義昭くんがしたって事?」
「そうだね。まぁあの人達は用済みだし、そろそろ動くかと思ったからね。」
そう言った義昭は覚悟を決めた顔をしていた。
「動くって義昭くんが?」
その言葉を聞いた義昭は、首を横に振りしっかりと林の目を見て話した。
「僕じゃないよ。動くのは・・・学校の長だよ。」
その言葉を聞いた林は驚き、開いた口が塞がらなくなっていた。
「そ、そんな人がなんで動くっていうの。」
分からないようで首を傾げていた林を横目に、義昭は話を続ける。
「僕の影響があるけど、犯罪者の死亡率が極端に増えてるんだって。」
「それって実験台にしてたから?」
義昭は首を縦に動かした。
さすがの長も原因は分かっていないが、檻に入る犯罪者よりも変死体になった犯罪者の方が圧倒的に増えていた事には疑問を感じていたそうだ。
「まぁ向こうも原因は分かってないけど、僕もどんな人なのか分からないんだよね。」
でも、と義昭は可能性の話をし始めた。
「一応その手の情報屋を使えば名前くらいなら知ることが出来るんだ。」
「名前。」
「そう、名前。もし今後も僕に関わるのならば一緒に狙われる確率も高くなるからね。」
長に関する基本的な個人情報は完全ブロックされているのだが、名前だけは知ることが出来るらしい。
情報屋は死と交換でその情報を他人にリークしている。
そして義昭は学校の長の名前を林に教える事にした。
「学校の長、名前は留萌一三二。すでに僕たちが通ってる学校にいるよ。」
名前と一緒に伝えられた話に林は唾をうまく飲み込む事が出来なかった。
………………………………………………………………………
ここはとある会議室
「で、また一三二の野郎はどっかほっつき歩いてやがんのか!!」
「耳元で叫ばないでください。これだから暴走族は」
「へっ!教団とか怪しいやつ引き連れてるよか何倍もマシだね。」
1組の男女が軽く言い合っていた。
そこに1人の女性が割って入る。
「あんりゃまー。また言い合ってるの?何年もそんな事して飽きないねー。ホントは付き合ってるんじゃないのー??」
言い終わる直後に女性の方が否定した。
「は?こんな奴と?やめて下さい。私には子供の頃から信仰している最愛の幼馴染が」
「まーたそんな事言ってやがるぜ。その最愛の幼馴染はうちのトップが迫害対象にしちまってるじゃねーか。」
またそんな事を言って煽った為、また言い争いに発展した。
そこから30分ほど言い合った後、さっき横槍を入れてきた女性に男性の方が話しかけていた。
「てか、そんな呑気な事を言うならお前が一三二の野郎を連れてこいよ。あいつの言ってる事を理解できるのはお前だけなんだから。」
「ケカケカ!私だけが分かるんじゃなくて、君達がネタを理解する気が無いからだろう?」
変な笑い声の後、少女は返答した。
そして、続けてこう言った。
「今のあの子には何言っても聞かないよ。だって強者を求めて高校を転々としてるからね。」
義昭達の下へ、強者が迫ってきているようだった。




