いじめられっ子
「おい見ろよ。あいつまだ懲りずに学校に来てるぜ」
クラスメイトの影口が聞こえてくる。
もう何回言われたのか数えていない。
そう思いながら、日出 義昭は席に向かった。
相変わらず「死ね!」や「消えろ!」などの落書きが施された机に向かい、鞄をかけて座った。
席に座ると何かが潰れたような音がしたため、一度立ち上がって椅子を見る。
椅子には何やら白い液体が広がっていた。
触って指でこねてみると指と指がくっつく感覚があった。
(はぁ、今日は木工用ボンドか。)
懲りないなと思いながら気にせず席に座りホームルームが始まるのを待っていた。
ホームルームが始まると教員による出席確認が行われる。
だが、一向に義昭の名前は呼ばれない。
とっくに名前は、は行を終えているというのにだ。
仕方ないから手を挙げ存在を確認させようとすれば
「何勝手に席を立っているんだ!日出義昭の分際で!」
と教師に理不尽に怒鳴られ席に座りなおす。
授業が始まってもそれは変わらず、分かっていても指されないし、自分から手を挙げれば舌打ちのあとに無視される。
そんな教師絡みのイジメを義昭は毎日受けていた。
文句すら言わないため、いじめはエスカレートしていくばかりだった。
だが義昭の不幸は学校だけではない。
帰り道に通り掛かる商店街でも近づいただけで舌打ちは当たり前で、中に入ろうものなら、客を入れてシャッターを閉める。
義昭自体を見たくないような反応を商店街の大人達は平然とやる。
家に帰れば、両親にはいないものとして扱われ、妹には悪態をつかれる始末。
学校だけでなく、この街自体に彼の居場所がないのだ。
彼は街ぐるみでいじめを受けている。
普通そんな事があれば、国がなんとかしそうなものだが、逆に国は、義昭に対するいじめを全て容認していた。
街ぐるみでいじめられている事をもっと大まかに言うならば、彼へのいじめは国が公認している。
だが、彼をそうやっているのはあくまで日本だけで、世界からすれば、ただの弱いものいじめに過ぎないのだった。
そして、これからも義昭だけがいじめられる。
そんな日が続くと思っていた。
彼女が転校してくるまでは
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その日も義昭にとってはいつも通りの日々だった。
家の食卓には自分用の食器は存在せず、学校への通学路では舌打ちの嵐、学校に行けば上靴に画鋲は日常茶飯事、少しは消えかかっていた机にはまた新しく落書きがされてある。
されすぎると、逆に気にしなくなるものである。
義昭は何も無かったかのように席に座り、ホームルームが始まるのを静かに待つ。
クラスメイトの嘲笑や陰口を流しながら待っていると、妙に顔がにやけている担任が教室に入ってきた。
「せんせーい。どうしたんすかー?すげーニヤついてるけど。」
やっぱり気になった生徒の一人が担任にそう聞いている。
まるでその質問を待っていたかのように、担任はにやけ顔を崩すことなく答えた。
「なんと!このクラスに転校生が来るのさ!しかも義昭を除く男子諸君喜びたまえ!美少女がやってくるぞー!」
その担任の言葉で、色めき立つ男子とそれに引いている女子という普通の光景が義昭なしで行われていた。
そして、転入生が教室の扉を開けて入ってくる。
歩き方から佇まいまで、その一挙一動が花に例えられるほどだった。
「皆さん、初めまして。今日からこのクラスに転入してきました。木森 林と言います。よろしくお願いします。」
丁寧に頭を下げたその姿は、女子でも思わず見とれるほどだった。
「えーと、じゃあ木森さんに、座ってもらう席はーっと・・・あー」
嫌そうな顔をしてこっちを見る担任に反応して義昭は自分の隣を見た。
(そういえば、全員が嫌がってたから僕の隣は誰もいないんだった。)
担任が嫌な顔をしている理由が分かって、転校生に申し訳ないなと思っていると
「彼の隣が私の席なんですね?分かりました。」
見蕩れるほどの笑顔を浮かべて、木森 林は義昭の隣の席に座った。
「確か、日出 義昭くんですね?今日からお願いします。」
同じクラスの男子とかだったら、卒倒するほどの笑顔を浮かべた林に対して義昭は
「あー、うんよろしく。出来れば僕に近づくのはやめたほうがいいよ。とばっちりは食らいたくないでしょ?」
机を見て、状況を理解した林は椅子を近づけて義昭に耳打ちした。
「大丈夫ですよ。私はあなたがいじめられている事も知りませんでしたから、私は何もやりませんよ。」
予想外だったのか、義昭は驚きが隠せなかった。
これが二人の最初の出会い
2000文字前後が安定して書けるかな。