高校入学
約半年後、ひとみと優也は小学校に上がり中学、高校も同じ地元の学校に通うことになった。
あれからずっと仲の良い二人は恋人ではなく幼馴染という関係のまま高校二年の春を迎えようとしていた。
「優也〜、お弁当忘れてるわよ!」
「いっけね、忘れてた!」
急いで靴紐を結び終えると母の明美から少し大きめな弁当箱を受け取った。
「いってきます!」
ドタバタと玄関を駆け抜けていく優也。通学路を走っていると近所に住んでいる顔見知りの岡田信子に声を掛けられた。
「あら、優也君。今日も朝練?」
「おはよおばさん!もうすぐ大会なんだ!」
岡田の返事も聞かずに優也はそう返すと走り去っていった。優也が通う西住高校の陸上部は大会前とあって最近は朝練が続いていた。
優也は中学から陸上を続け、今では短距離において県大会に出るほどの実力を付けている。
家を出てから走り続けていた優也を、同じ陸上部の先輩・山下慎二が後ろから声を掛けてきた。
「お前は長距離も出場するつもりかよ、優也!」
徒歩で約15分ある通学路を涼しい顔で走っていた優也は息切れもせずに挨拶した。
「慎二さん、おはようごさいます」
いつも学校近くなると慎二と合流し、部室までアップがてらに競争するのが日課である。
「んじゃ、いつもみたく勝ったらジュース奢ってやる」
「あざっす!」
そう答えると同時に、校門から駆け抜けていく二人。部室までの道のりは約300m程。
「くっ!」
お互い息を切らしながら一進一退のスピードで競り続ける。最後までどちらが勝つかわからないところで、
「ピッ!」甲高い笛の音が鳴った。
「はい、また優也の勝ちー!山下先輩、また負けちゃいましたねー!」
そう言い放ったのは陸上部のマネージャーで優也と同じ2年の笹川景子。
「またかよ!ったく優也はまじでバケモンだぜ」「先輩もいい加減に諦めたらどーですかぁ?」「うっせ!お前も毎回キッチリタイム測んじゃねぇよ!」
そんないつも通りの朝の光景を優也は笑って見ていた。
「じゃあ朝練始めんぞ!」
普段通りの陸上部の朝練が始まる。