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『脇役女優』が『悪逆王子』と代わったら  作者: 千切キャベツ
序章:猫、私、デブ王子
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序章:第4話 幕外の出来事①

 寝室の扉が閉まる。

 扉の気密性は非常に高い。一度閉めてしまえば、外部へ音が漏れることは決してない。

 それを理解している女は、遠慮のない声で報告を始めた。


「―――とまぁ、そんな所ね」

「記憶喪失ですか。なるほど、それは厄介ですねぇ」

「死なないどころか、後遺症がそれだけって、どうなのよ。本当にヒドラの毒だったワケ? まさか、偽物を掴まされてんじゃないでしょうね!」

「毒の出どころは確かだったハズですが……。分量を間違えたのかもしれませんね。足跡を残さないように、実行者へ任せ過ぎたのが裏目に出ましたか」

「だから、ちゃんとしたのを雇おうって言ったのよ!」

「殺す事だけが目的ではないでしょう? 我々にはその先もあるんですから。仕方ないですよ」


 灯りの一切ない室内。

 月明かりさえカーテンが遮断する闇の中、女は相手が見えているかの如く振舞う。


「はぁ……いいわ。これ以上は不毛よフモー。んで、肝心のその実行者サンは? どーなったの?」

「あの家令(スチュワード)なら、何も吐かずに死にましたよ。約束通り、彼の家族は金を持たせ、隣国へ逃がしてあります」

「ふん。あのブタを殺れなかったんだから、約束を守る必要なんてないでしょうに」

「それでは、あの王子と何も変わらないではありませんか。大儀を失ってはいけません」

「大儀ねぇー。律儀だこと……」


 女は思った。

 この顔の見えない協力者は、そう遠くない内に致命的な失敗を犯すだろう、と。

 彼は、闇の中で動くには色々と不都合なものを抱えすぎている。


 ……今の内に、始末した方がいいんじゃない?


 女の指が、忍ばせていたナイフに触れる。

 しかし結局、それを握ることはせず、浮かんだ考えが殺意に代わる前に、頭から追い出す。

 そんな自由があるのなら、まどろっこしい真似などせず、とっくに王子の寝首を掻いている。

 女は所詮雇われだ。

 仕事の方針さえ雇用主に握られ、その上失敗のツケは真っ先に被るほど弱い立ち位置。

 協力者がどの程度の立場なのかは知らないが、自分より下が無い以上、独断で手を出すなど自殺志願に他ならない。


 全てを諦め、女はため息を吐く。


「ま、いいわ……頭脳労働はそっち担当だもんね。あたしはまた、あなたからの指示を待って待機。でしょ?」

「ええ、お願いします。……では、そろそろお戻りください。王子がお待ちでしょう」

「あいにく、しばらく一人にしろっていうお達しよ。逆に行き場がなくて困ってるの」

「だからと言って、ここに居たのでは勘ぐられる可能性が増すだけでしょう」

「そう? 普通に親密な関係なんだと思われるだけじゃない? イロイロと、ね」


 闇の中でも、協力者が顔をしかめているのが女には分かった。

 どうやらからかい過ぎたらしい。

 冗談よ、と肩を竦め、女は自分にあてがわれた部屋へ戻ることにする。


 寝室の扉を薄く開け、耳をそばだてて廊下に人が居るかを確認し、女は滑るように部屋を出ようとする。

 が、最後にふと思い立ち、頭だけを部屋に残して一言付け加えた。


「非情にならなきゃ、暗殺者なんてやれないわよ。優しいセンセ」


 扉の隙間からわずかに漏れた蝋燭の灯りが、うっすら優男のしかめ面を照らしていた。

 それを視界に納めて満足すると、女は扉を閉め、メイド服の裾を翻し、ゆっくりと廊下を進みだした。


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