第七話 旅立ちの日
「さて、この一か月で自分が生き残るだけの力はつけましたか?」
この一か月の成果もあって。色々学べていくつかスキルも覚えた。魔術にいたってはやはりそこまで才能はなかったものの。簡易付加魔術は何とかものになった。一か月前の自分がどれだけ力不足だったかわかる。
「正直まだまだだと」
充実した一か月だった。だが、それでも一か月だ。まだまだ学ぶ部分が多いことは身に染みている。
「では、延長を望みますか?」
「いや、望みません」
たぶんいくら力をつけてもまだ足りない部分っていうのはあるのだろう。だから、足りない部分は実戦で学んでいくしかない。その答えに満足したのか
「いい答えですわ。もし、望むなんてことを言ったら失望していたところです。物事にいつでも準備が許されるわけでなく。また、不足な事態はつきものですわ。大切なのは自分の足らなさを自覚することです。そうすれば、できないことは素直に引き。足りないものを補う努力ができます」
「反対ですわ。この駄犬を教育するのにまだまだ時間が足りませんわ。あと半年、いえ、三か月の時間があればせめてまともな犬に・・・」
横でセリアがぎゃあぎゃあ言っている。結局犬扱いなのはこの一か月変わらなかった。
「却下ですわ。隣でいつくっつくかわからない発情した犬たちを見ているほど寛容ではありませんので。それに一度口にしたことはあんまり曲げたくありませんの」
断じて言おう。俺はロリコンではない。俺は前の世界で死んだ年齢の十八歳以上のほうが好みだ。間違っても胸とか成長していない子供が好きなわけではない。魔術を師事してくれたからそれなりに尊敬はしているが。
「誰が発情した犬ですか。絶対前半部分が主な理由ですわね」
サーシャの年齢は聞いていないが。おそらく三十前後。この世界の結婚平均年齢からすれば。いや、元の世界からしても軽く行き遅れだ。
「セリアさん。ファバルさん。死にたいのですか?」
笑顔の裏にある威圧感。やばい、本気だ。ってか、俺口に出していないのに読まれた?
「「すいませんでした」」
土下座である。二人揃って。滅茶苦茶怖い。威圧感だけで足がガタガタ震えた。
「二度目はないですわよ」
「「ありがとうございます」」
二度目の死亡危機から脱した俺だった。
「まぁ、仕方ありませんわ。師匠の決定は絶対ですので。まぁ、あなたも死なないように・・・まぁ、無理なので私から手助けになる・・・」
「ファバルさん。そういえば、出ていく貴方に私から渡したいものがあるの?」
「ししょう」
話の腰を折られてセリアはちょっと涙目だ。そんな姿がちょっとかわいかったりもするのだが。
「いえ、これだけ世話になったので大丈夫です」
貰えるものはもらう主義だが。相手にもよる。この人相手にこれ以上借りを作ると後が怖い気がしてならない。
「ふふふ。ファバルさん。人の好意には素直に応じるものです。っていうか、貰ってもらえないと後あと私が困るかもしれませんので」
ちょっと青い顔で顔を反らしながら語ってくる。
「あなたはいわば私の恩神アスフィル様の使途です。あの方に借りがある私としましては少しでも生産しておきたいのですわ。後あと面倒に巻き込まれそうなので・・・」
やべっ。すいげぇわかる。俺もあなたに同じことを考えてた。
「なら、そういうことなら」
渡されたのは一つのブレスレットだ。中に宝玉っぽい美がある以外は材質も鉄っぽいし。ちょっと重い気もしないでもない。
「そのブレスレットの宝玉を向けて鑑定と思うといろんなものを鑑定できるものですわ」
鑑定って大分便利だな。これあれば自分の力やスキルもわかるのか。いや、相手までわかるならこの上なく便利だ。
「お師匠様。それ、国から複製を依頼をされていたアーティファクトでは・・・」
え?これって超重要品か。
「えぇ、複製には成功しましたが量産のめどは立たないので。お蔵入りしていたものです。もちろん複製品のほうですわよ」
「国から催促の手紙が何度も来ていますわよ」
「量産はできませんし。オリジナルより数段劣る性能しか持ってませんわ。対象は自分よりレベルより同程度か低いものしか見られません。まだまだ国に渡せるレベルではありませんの」
つまり試作品のモニターになってほしいということだろうか。っていうかそう思う込んだ方が良さそうな気がする。俺の精神的に。
「師匠。そんなんではなく。ここはちょっとグレードを落としませんの?こんな犬にとってももったいない代物ですわよ」
「どうせ、死蔵するくらいなら使ってもらった方がいいですわ。私達には無用の長物ですし。まぁ、でもそれはあまり人に効果を教えないでくださいね。特に協会の息のかかったものには。そんなもの作り出したとなるとあの守銭奴たちはいろいろちょっかい出しますから」
あぁ、確か人のスキルやステータスを鑑定するのは神官の仕事で。それが道具でできるとなると協会の収入が大きく減ってしまうのか。
「うぅぅぅ。師匠」
「あらあら、何を落ち込んだ顔をしていますのセリアさん?そういえばセリアさんここ数日徹夜で何か作って今しましたがそれと何か関係が?」
満面の笑顔でさっさとその後ろに持っているものを渡したらどうだと言っている。本当に人をいじめるときは楽しそうだなぁ。
「ちっ、別に徹夜でなどやってませんわ。あれは別の仕事です。ただの暇つぶしに作った品が余っていたので。犬にあげるのにはちょうどいいと持ってきただけですわ」
セリアが差し出したのは木刀だった。絵のところに三つの玉が埋め込まれている。
「硬化の付加魔術でかなり頑強にしてありますし。魔力を通せばより固くなります。あなたに合わせて簡易付加魔術の効能を上げるために柄に魔石を仕込みました。まぁ、しばらくはそれでしのげると思いますわ」
「あらあら、確か暇つぶしに作った品が余っていたのでは?まるで誰かさんのために拵えたような言い回しですわね」
そのことには俺も気づいていたのだがいわゆるツンデレなのだろう。大丈夫初めから分かってたから。
「うるさいですわ。師匠」
「まぁ、でも苦労して作った分の成果はありますわね。なかなか良い出来だと思いますわよ。ユグドランジュの幹をベースに魔石も上等なものを。試作品のことも考えますと材料費だけでセリアちゃんしばらく無給ですわね」
ピシリとんアニカが固まった音が聞こえた。そのままギコギコ音を立てながらその木刀を俺に渡して。
「いいですか。これは貸しですから必ず後で徴収いたしますからね」
S子真っ青な形相で睨みつけられた。
「おぅ」
軽くトラウマになりそうなその顔から目を背けながら俺は受け取った。
「いいんですのあんな別れ方で?」
「かき回してくれた師匠に言われたくありませんわ」
私だってもっと素直に渡して見送ろうと思いましたわよ。しかし、必死に用意したものよりはるかに上等なものを先に渡され。普段工房にあるものは自由に使わせていただけるのに。お金なんて。
「まぁ、でもこれが最後ではありませんから。私もちょっと頑張らなければいけませんし」
「それで、セリアちゃんは何がしたいのですか?」
「しばらくは鍛冶を中心に鍛えていきたいですわ。犬でもきちんと使える武器を作りたいんですの」
「まぁ、そういうと思いましたが。まぁ、では今までの修行の十倍くらいは覚悟してくださいね」
「じゅ、十倍!?」
正直今の十倍だと私眠れる時間どころか食事する時間も怪しいですが。
「大丈夫ですわ。いざとなったら一滴飲めば一か月動ける薬がありますから」
「確かそれ多用すると死ぬ奴ですわ」
「まぁ、その代りソードイーターのことを少し教えてあげますわ」
その単語に私の耳がピクンと反応した。
「師匠、意地が悪いですわね。知っていたら教えてあげたらよかったですのに」
「言っても無駄ですわ。でも、もし壁を乗り越えたなら。私の修行が役立てると思いますわよ」
「わかりましたわ。どうせなら死ぬ気でその修行受けて立ちます」
「いいお覚悟で」