第四話 錬金術師
森の中。必死に走っている。なんだ?何から逃げているんだっけ?そうだ。やつだ。巨大な足音が背後から近づいてくる。身の丈2mは越す熊。そうだ。馬鹿な師匠のせいでこんなところに来る羽目になったんだ。違う。馬鹿なのは俺だ。師匠から逃げ出そうとして俺はこのクマに遭遇したのだ。
クマが。すぐ後ろまで来ている。なすすべもない。武器も持たない人間ではこいつには勝てない。
鮮血が飛び散った。痛みはない。なぜ?
「さっさと起きなさい」
突然全身に凍てつく冷たさを感じる。
「あれ?」
ここは何処だ?いきなり水をぶっかけられたことまでは理解できるが。俺は確か路上で飢え死にしかけていたはずだ。しかし、起きてみると暖かい部屋に床かでありながらきちんと布団をかぶせてもらってる。しかも、この目の前の腰まで届きそうな長い髪の女の子。おそらく今の俺と同じくらいだが一度も見たことがない子だ。
「ここ何処?」
「師匠の工房ですわ。偶然にもうちの犬があなたのことを見つけたので。見捨てるのもあれですから拾ってきました」
「まぁまぁ。セリアさん。犬なんていつの間に御飼に?私の記憶では必死こいて担いできた覚えがありますよ」
「うるさいでわね。師匠。お茶に雑巾のしぼり汁入れますわよ」
「まぁ、うちのセリアちゃんはツンデレさんなのですから。はじめまして。この工房の主でセリアさんの支障をやっているサーシャといいますわ」
なんだろう。凄いきれいなお姉さんでスタイルもいいのに。この世界に来る前後から常に感じているS臭がどことなく感じてくる。
「ファバルです。助けてもらったありがとうございます」
「いえいえ、礼なんていいんですのよ。体で払ってもらえれば」
「もちろん。世の中ただで助けてもらおうなんて虫のいいこと考える人なんていないと思うんですよ。師匠」
「この工房女性率が高いから力仕事に困っていましたのよ」
うん。俺のS臭をかぎ取る鼻は正確だった。
その後結構、散々働かされた。山まで水くみに生かされたり。ものの持ち運び。掃除。結構酷使された。しかも、ドラマの姑みたく、窓枠を指でこすってほこりがついていますねとかほざいてきやがる。
「八歳にやらせる仕事じゃなえぇぞ。この仕事」
午前中に渡された分を終えてそのまま横に倒れる。まだ高校の部活トレーニングのほうがましだ。
「あらぁ、私は五歳のころにやってましたわよ。そういう意味ではこの程度八歳の仕事ではありませんね」
こっちのセリアって子も師匠の負けずになかなかのS臭が漂っている。しかも、手が出るタイプだろう。
「まぁ、ずいぶん鍛えてあるようですし。まだまだ余裕ありそうですわね」
床に大の字に寝ている人間に余裕ありそうだって平気で言うあたり鬼だな。
「工房って言ったけど何作ってるんだここ?」
「大抵のものは作りますね。主に武器が多いですがマジックアイテムも作りますし。一応師匠は国内最高の錬金術師ですから」
「武器は鍛冶じゃないのか?」
「本来はそうなんですけど。付加魔術をかけるのに元が駄目だとどうしようもないからと。副業的にやってますがあの人以上のものを私は見たことがありませわ。まぁ、師匠はでたらめな存在ですから」
「錬金術師ってスキルを消したりする薬って作れるのか?」
「一時的にスキルに似た力を付加させる薬は作れますがなくそうとするのは聞いたことがありませ・・・・」
「聞くまでもなく作れませんわよ。そんなものは」
途中から話を聞いていたのだろう。近づいてくるなりサーシャは否定した。
「スキルは人の根源に属するものも多いです。そんなものを消そうというのは神にも不可能なことですよ。お勉強不足ですわ。セリアちゃん」
「うっ」
「さてと、困りましたわ。一日で任せようと思っていた仕事が半日で終わらせてしまいましたから。まぁ、掃除などについては不満もありますが。ほかに何か押し付けるような仕事も今はありませんし」
「あれ?五歳の仕事だって」
「五歳のセリアちゃんが一日かかっても終わらなかった仕事ですわね。後輩ができて強がっているんでしょうね」
「し~しょ~う。本当にしめますわよ」
「それはそれはたのしみですわ。いつも足腰立たなくなってるセリアちゃん・・・あっ、これからセリアちゃんの修行を手伝ってもらうことにしましょう」
思い付きのようで行ってくれるが錬金術の修行っていったい・・・・まさか!?
「俺、薬試飲とかは勘弁ですよ」
「それはそれでお願いもしたいのですけど。今回は違いますわ。あなたが得意そうなことですわよ」
サーシャが笑いながら外に出る。広い庭で木刀を持たされた。つまり・・・
「剣術訓練ですか?」
「戦闘訓練ですわ。セリアちゃんと同じ年の子が訓練になるのはきっといいと思いますの」
「ちょっと師匠。いくらなんでも無理すぎませんか?子供相手じゃあ私本気になれませんけど」
さすがに今の言葉だけは聞きづてならない。俺が女の子相手に役不足だと言われたのだ。
「はぁ?剣相手で俺が女に負けるわけねぇだろう」
「ちょっとは鍛えてあるようですが。私を誰だと思っているのですか?」
「錬金術師の弟子」
「はぁ~。本当に師匠のことを知らないのですわね。いいでしょう。軽くもんであげますわ」
セリアが構える。これが八才なら驚きだ。それなりにできる。あくまでそれなりにだ。構えでわかる。俺の相手ではない。
「では、こちらからいかせてもらいますわよ」
その瞬間。セリアの全身が軽く光りまるで足元が爆発したかのようなm踏み込みで地を蹴った。八歳どころか人間の速度を超えている。早い。
「何を驚いてますの?」
大ぶりの一撃が俺を襲う。いくら早いといってもそんな大振り委じゃあ余裕で受け止められる。
「へぇ、やりますわね。正直一撃も持たないと思ったのですが」
重い。間違いなく女この力じゃない。力で圧倒的に負けている。なんとか押し切れないようにするのが精いっぱいだ。
「そんな脇ががら空きでよろしいのですの?」
その途端セリアの膝がわき腹を穿つ。肺の中から空気が全部漏れ出るようだった。
「さて、もう一度申し上げましょう。私はセリア・ガーランド。国内最高の錬金術師にしてA級冒険者。サーシャ・ロゼルタの一番弟子ですわ」
「あぁ、そっか。戦闘訓練なんだっけ」
なら、蹴りも何でもありだ。正直マルケイアは剣道に近いところがあるから蹴りとか使わなかったから驚いた。そして、ここは異世界なんだ。
「その体は光ってるのは魔法?」
「スキルですわ。鍛えれば誰でもできるスキル。肉体強化。そんな程度もできないのですか?」
「あなたも一年前にできるようになったばかりでしょう」
「だから、いちいちうるさいですわ。師匠」
あぁ、そうか。この世界にはきちんとそんな目に見える形でできるんだ。よかったなぁ、馬鹿な方の師匠。あんたが言ってくれたこと本当だったよ。
落ち着いて深呼吸をする。今こうしてる間にも襲ってくるかもしれないが無視をする。この世界に来て初めてやるから。他の事に気をかけてられない。
体の中を血液を通って気が流れるイメージをする。昔本気をだすときにはよくこれをしていた。
前の世界では火事場のくそ力って誰かが言っていた。人間がセーブしている潜在能力を引き出す方法。だが、馬鹿な方の師匠だけは否定していた。それじゃない。これは人知が越えた何かだと。
体の中で力が暴れだす。魔力が全身に張り巡らせて光り輝く。
「ちょっ、きいてませ・・・」
「いくよ・・・」
セリアに向かって一歩踏み込んで剣をふるった。
「そこまでですわ」
セリアに当たる直前。先ほどまで数十メートルは離れていたサーシャが俺の木刀を止めていた。
「ししょう」
「はいはい。余計なことをするなっていいのでしょうが。あのままだとあなた死んでまいましたわよ。さすがに、かわいい一番弟子を死なせるわけにはいきませんので」
「うっ。うわぁぁぁぁぁん」
泣き出した。なんか、俺の力想像以上にすごいことになっていたようだ。
「このままでは、跡が残りそうですわね」
サーシャが自分の手を見てつぶやく。止めた手から血が流れていた。
「ファバルさん。その力人に使うときは加減しないと死人が出ますから気を付けてくださいね」
「ごめんなさい」
前の世界では気休め程度の力の向上しかなかったのだ。そすがにその程度だとは思ってはいなかったが。力の制御は早急に覚える必要がある。
「でも、いい魔力の流し方です。肉体強化に至っては私以上かもしれません。使いどころさえ考えれば凡庸性の高いいい力ですのよ。さてさて。肝心のセリアちゃんが久々に駄々っ子モードに入りましたから今日はお休みということで。くれぐれも覚えておいてくださいね。今止めなかったらあなたは私の弟子を殺していたことを」
あやうく。間違いで人を殺すところだった。その言葉は本当に胸に刻んでおこう。
ようやく、ヒロイン登場?まぁ、この世界S多いですね。自分がMのせいかもしれませんが。ちなみにこの話実はまだ入れるつもりがなかったですが。ちょっと早めに肉体強化覚えたいし。そのあとの話の都合上この二人はやめに入れてもいいかなぁと思い急遽変更しました。おかげでちょっと時間かかって眠いです。また、仕事に行く睡眠時間が2時間程度です。しかも、この一話で終わらせるつもりが終わりませんでした。冒険まであと何話?たぶん1~2話の間までには。ブックマーク9人に増えました。ありがたいです。1日のアクセス数も100超えるようになってきました。最高200です。とてもうれしいです。これからも面白くなるように頑張ります