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第十五話 魔人 (2)

「なにしてんだよ。てめえは」


 喉の奥から絞り出すようにどうにかその言葉を俺は言えた。腹から血を流し。左腕はちぎれかけている。全身いたるところに火傷のような傷があり。それでも俺を守るかのように立っていた。


「なにしてるのかだって。死にそうなやつの盾になるのはあたりまえだろ」


 ガクリと膝を落としながら言う。そんな当たり前あってたまるか。そんなこと俺ならしない。俺なら見捨てる。自分の命を落としてまでだれかを助けたいだなんて・・・


「冗談じゃねぇぞ。この馬鹿。あんたもあの馬鹿も二人して馬鹿野郎だ。俺はもう背負いたくねぇんだよ。誰の命も・・・なのになんで俺なんかのために」


「おれは勇者になりたかったんだ。この剣をかがげて誰かを守る勇者に。ならよ、見捨てることはできねぇよ。なぁ、ムクロ。図々しいけどこのガキ見逃せよ。お前の趣味に使えんだろう」


 冗談じゃねぇぞ。命を守られた挙句、俺のために仇に頼み事だと。


「不完全燃焼だが、まぁいいだろう。そのガキは貴様とは違い面白く育ちそうだ」


 冗談じゃねぇ。冗談じゃあ。


 ゆっくり俺は起き上がる。大丈夫だ。痺れは抜けてきている。ダメージなんか知ったことか。


「そこをどけガキ。そいつに止めを刺して大人しく帰ってやる」


「ふざけるなぁ。馬鹿もさっさとこのヒルポで回復しろよ。その時間程度なら。


「「無駄だ」」


 二人の声が同時にはもった。


「先ほどお前が来なければ自爆技を使うつもりだったようだ。もっとも、手傷を負わす程度の力しかなかったと思うが」


「中断したとはいえ。大量の生命力を持ってかれたからなぁ。それに無理して抜いたから傷も広がったしよ。もう、ヒルポ程度じゃあどうにもならねぇよ」


「つまり、俺がやろうとやらまいともう手遅れだっていうことだ。わかったらそこをどけ」


「なら、てめえを倒して地上に連れ帰る」


 薬がだめでも医者の手にかかれば大丈夫かもしれない。いや、そうだと思いたい。


「無駄なことを」


 俺は初っ端から肉体強化全開でムクロに襲い掛かる。右薙ぎ。袈裟切りと見せかけての刺突。全力の連続攻撃。しかし、いずれもムクロの爪一本で防がれる。どういうことだ?少なくてもスピードではゼルトには負けないはずなのに。


「もう、終わりか?」


 ムクロの爪の一本から頭上から降り注ぐ。重い・・・部分強化で全力でやっても押しとどめるのが精いっぱいだ。ぅん?部分強化?


「殺す気はなかったとはいえ、ガキのくせに子の一撃を受け止めるとは大したもんだ」


「うる・・・せぇよ」


 なんとか、爪を横に反らし距離をとる。向こうもおってくる気はないから距離をとることは簡単だった。


「全く俺は馬鹿だな」


 こんな半端なスキルで成長したつもりだったんだから。先ほどから攻撃を防がれるのはこの部分強化が原因だ。考え見てみれば当たり前だ。強化する場所を見ればどこで攻撃するのかは丸わかりなんだから少し知能があれば簡単に防げる。使えるのは知能が低い魔物くらいだ。ならば、どうするか?普通の肉体強化で?いや、おそらく全身を強化しても攻撃するとき自然と集中してしまう。ならゼルトみたいに肉体強化なしで?無理だ。俺の身体能力じゃあ肉体強化なしじゃあまともに戦えない。なら・・・魔力をからの放出しなければいいだけだ。


「できるかな」


 魔術は何時まで経っても成長する兆しはないが肉体強化に関していえば才能はある方だと思う。何せ魔力がほとんどない前の世界から鍛えているんだから。体の内側に魔力で薄い膜を張り込む。これを硬気功のように固めるイメージして。もう一つ肉体強化をするための魔力を流す。


「んぎ・・んぎぎい」


 体が張り裂けそうだ。体の中を魔力が暴れまくっている。これ、操作を失敗したら体の中の臓器と傷つけて間違いなく死ぬ。だけど・・・それでも歯を食いしばり耐えて駆け出す。


 一歩一歩。いや、一呼吸するだけで体がバラバラになりそうなくらい痛い。わかってる長くは持たない。


「なっ」


 ムクロが驚くのも無理はない。先ほどとは軽く五倍以上俺は早い。そして、力も。


 あれだけ重いと思ったムクロの爪を簡単に弾き返す。しかし、爪だけでも四本。何度はじき返しても襲ってくる。しかし、それを木剣一本ではじき返しながら徐々に徐々に懐まで進んでいく。


 痛い。痛い。激痛で意識が飛びそうだ。何時骨や筋肉が切れてでもおかしくがない。いや、既に切れているかもしれない。だが、もう少し。あと一歩で俺の一撃が届く。


「なめるなぁ。ガキがぁ」


 ムクロが両手で魔剣を振り落ろす。これが、最後だ。これさえ受け止めれば届く。真っ向からの力と力の勝負。剣と剣がぶつかり合った。


「おもっ」


 想像していたよりもずっと思い。何百キロ?いや、今の俺の状態が感じるんだから何トン?ただの一撃じゃない。俺の重破斬と同じで地属性の付加がかかっている。いや、もしかするとこれが魔剣の力か。だが、初速は殺し切った。なら・・・俺の・・・


 ミシッ


 俺の頭上で嫌な音が響き渡った。すぐに何の音かわかった。もう、前の世界で何度も何度も聞いてきた音。考えてみれば当たり前だ。いくらセリアの渾身の一作とはいえ。ここまで酷使してきて、魔人相手にましてや魔剣の一撃を真っ向から受け止めたのだ。ここまでよくもったといえるだろう。


 呆気なく木剣は打ち砕け魔剣は俺の右肩から左脇へ。大きく切り開いた。


「なんて、ガキだ。まさか、この土壇場でここまでの力を開花させるなんて」


  ムクロの声が聞こえるがさすがに痛くてそれどころじゃない。傷は浅かったから即死は避けられたがこの出血。ほどなくして死ぬ。早くヒルポを使わないと。


 腰にさしてあるヒルポをとろうとするが、瞬間絶望が襲う。今の衝撃で容器が割れていたのだ。


「ガキ。お前は放っておいたら危険だ。俺を軽く超え。いずれ魔族の天敵になる。だから、この場で死ね」


 ムクロが俺に止めを刺そうと魔剣を振り下ろした。しかし、それを一筋の光が防いだ。


 俺とムクロの間に刺さった聖剣がクロウの一撃を防いだ。投げたのはゼルトか?全く自分だって無事じゃねぇくせに。


 目の前にある聖剣に俺は躊躇いはせず本能的に手を伸ばす。指先が触れた瞬間に時が止まった。


『汝、正義のためにその身をささげる覚悟はあるか?』


 頭の中に声が流れてくる。自分の性根は知っている。正直この世に本当の正義があるのかって逆に聞きたいくらいひん曲がっている。だからノーだ。


『汝、その身のすべてを弱きもののためにささげると誓うか?』


 たぶんしないな。精々目の前でって程度だ。俺はあくまで自分のためにしか動かねぇ。


「だから聖剣。今だけでいい。力を貸せ。今あいつに死なれるのはすごく不愉快なんだよ」


『その気持ちは同じなり』


 傷の痛みが嘘みたいに消える。いや、血が止まり傷が治りかかっている。体が嘘みたいに軽い。


『ほおけるな。もう時は動き出す。傷は塞いじゃが長くはもたん。一撃で決めよ』


 十分だ。時が動き出すのと同時に俺は聖剣を強く握りしめる。力があふれだす。


「なにっ!?」


 ムクロの驚愕の声があがる。そりゃ驚くだろう。死にかけの人間がいきなり立ち上がり聖剣を握ってるんだから。


「うおおおぉぉぉぉぉぉ」


 俺は吠えながら全身全霊を込めた一撃を振り下ろした。ムクロもまけじと魔剣を振り下ろすが。鍔迫り合い。お互いの剣を中心に激しい魔力の余波があたりを覆う。力と力の勝負なのだが。聖剣の力か、俺の方が押し勝っている。


「なめるなぁぁぁぁ」


 ムクロが爪全部を剣の後ろから押しどうにか戻そうとするが、押し返せない。それどころか俺の体にはまだ力があふれだしてくる。


「ぬぬぅ。ぬぉぉぉぉぉぉぉ」


 ムクロの爪が一本、二本と鍔迫り合いの余波に負けて根元からちぎれ飛ぶ。もう少しだ。もう少しで勝てる。


「だから、耐えろ聖剣」


 わかっていた。持った瞬間から刻一刻と寿命を減らしていることを。時間がないのは俺の傷だけではない。しかし、それでもこの状態では頼らざる得なかった。だから、一撃で勝負をつけなくてはいけなかったのに時間をかけすぎた。


 ピキリと音を立てて剣がコナゴナに崩れ落ちる。


「二度も武具の寿命に見舞われるとはついてなかったな。ガキ」


 俺の首筋めがけて首筋めがけ毛て振り落とす。その光景がやけに遅く感じる。先ほどと同じような走馬灯か?違う。何故だろう。信じられるか?こんな絶体絶命なのに負ける気が全然しなかった。


 俺は剣の腹を叩いて切っ先を反らし。なんとか回避をする。正直二度と使う気はなかったんだけど背に腹は代えられない。


 セリアは俺にラフファイトが弱い言った。確かに剣の時はしか使わないので戸惑いの部分もある。だが決して俺は素手の戦闘が弱いわけではない。何故なら俺の二人目の師匠は空手を主体とした武術の師匠だからだ。


「武器もないのに諦めないか。素手で勝てると思うか?」


 理性では不可能だと騒いでいる。当たり前だ。俺が空手を習ったといっても剣術に比べれればほんの短い時間。さらに人間相手ならともかくこんな異世界の魔人相手に通じるわけがない。素手では傷一つつけることすら困難なことはわかりきっている。理屈じゃあわかってるはずなのに・・・・なのに体の底から力があふれかえって仕方がない。


『ソードイーターが新たな力を開花させました。至高の対価によりステータスに300の補正が尽きます』


 なんだそれ。一気に三倍以上のステータスになるぞ。考えられる原因は聖剣をくらった事か?それと同時にもう一つ能力が開花されたらしい。


「シネェェェェ」


 俺は振り下ろした魔剣を今度は右腕で真っ向から受け止めた。もちろんステータスが上がったからって魔剣を素手で受け止めれば恐らく腕が吹っ飛ぶ。それでも右腕が吹っ飛ばなかったのは。チャージ。食らった剣を五分間その剣の力を宿すことができる(最大五本まで)つまり俺の右腕はどの剣かはわからないが食った剣の五本分の硬さがある。


「ソードイーター」


 当然受け止めるとしまえばいくら魔剣でも俺は食らえる。あっという間に魔剣は粉々に砕ける。


『至高の対価によりステータス50の補正がかかります』


 うん、今度は少ないな。二回目のせいか。それとも格の違いか。


「なっ」


 驚愕の声を上げる。そういえばこいつは俺の力に気づいてなかったみたいだな。それにこれで終わりだ。何せ次の一撃は明らかにオーバーキルどころじゃねぇからな。


 馬鹿な師匠が見せてくれたのは二度だけ。一度は練習で。もう一度は熊から俺を助けてくれた時。前の世界には絶対にいない幻想の生物を殺すというなんとも夢のある馬鹿らしい馬鹿げた技名がついた。


「崩龍」


 俺のムクロの胸につき放った掌打はムクロの胸を突き破り。はるか後方にあった壁に大穴を開けた。まぁ、とりあえず黒田師匠よ。


「龍を殺せるか知らないが、とりあえず魔人には通じたぜ」


「なぁ」


「知りませんわ」


「いや、俺も目を疑うんだがタイトルの話数が・・・・」


「熊が今まで間違ってたことに気づかなかったなんてそんな馬鹿な話・・・・」


「そうだよな・・・まさかな・・・・謝罪もせずに・・・・」


「えぇ、さらに奥まで引きこもりましたわ。出てくるどころかマントルにいきますわね。では、気をとなりなおしてこの旅も後書きを担当させていただきます私セリアと」


「ファバルがお送り・・・ってこれ毎回やらないとだめなのか?」


「まぁ、慣れるまではですわね。急に始めたことですし。しかし、どうにか一段落なところまで行きましたわね。ようやく一章の終盤ですわよ」


「まぁ、当初の予定から何度も変更になったりしたみたいだしな。この先が思いやられる」


「主よ。熊から伝言じゃあ」


「「誰!?」」


「そのくだりは前回やったわい。本編に少しだけ出てきたじゃろう」


「ぅん、出てきたか?」


「まぁよいわ。伝言を伝えるぞ。ストックがきれた」


「「・・・・」」


「また、間あくのですの?いったい私の出番はいつに?ヒロインなのに」


「熊狩りに行ってくる」


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